広報活動

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2014年5月27日

理化学研究所

超薄板ガラスのマイクロ流体チップ内電動ポンプを開発

-さまざまな溶液に対して安定して動作-

ポイント

  • ガラスバルブを直列に並べてチップ内の液体を絞り出すように駆動
  • 開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプは実用的な性能を発揮
  • 物理的・化学的に安定で、さまざまな化学・生化学システムの集積化が可能

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、超薄板ガラスの柔軟性を利用したガラス製マイクロ流体チップ内電動ポンプを開発しました。これは、理研生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)集積バイオデバイス研究ユニットの田中陽ユニットリーダーの成果です。

ガラス製の「マイクロ流体チップ[1]」は、数cm角のガラス基板上に幅・深さ1 mm以下の流路を形成し、化学・生化学のプロセスを集積化したものです。ほとんどの溶媒・溶質に対して安定なため、医療診断向けの小型・高速反応の次世代型バイオデバイスとして期待されています。しかしガラスは硬いため、その中に流体を制御するバルブやポンプをガラスで作製して組み込むことはできず、流路をマイクロレベルで集積できるメリットが十分に生かせませんでした。

一方、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂で作製されたマイクロチップは、柔軟でありバルブやポンプの組み込みが容易ですが、有機溶媒や気体と反応しやすいという難点があり、高度な表面化学処理が必要な細胞のパターニングなどには物理的安定性、化学的安定性の面で不向きでした。

田中ユニットリーダーは2013年、超薄板ガラスでバルブを作製し、全てがガラス製のマイクロ流体チップを実現しました。超薄板ガラスは、厚さが10 マイクロメートル(μm)以下と極めて薄いため、ガラスにも関わらず柔軟性が高く、割れにくいという特徴を持っています。

今回、田中ユニットリーダーは、ガラスバルブを4つ直列に並べて、コンピュータ制御のアクチュエータを使ってピンを高速で動かし、チップ内の液体を絞り出すように駆動するペリスタルティックポンプ[2]形式のマイクロ流体チップ内電動ポンプを開発しました。実証実験の結果、ガラスポンプはさまざまな溶液に対して安定に機能しました。また、流量はアクチュエータの周波数に比例し、最大で毎分0.80マイクロリットル(μℓ)でした。これは分析や細胞培養などによく使われる流量の範囲にあります。

開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプは、さまざまな溶液に対して安定であり、ガラスバルブと組み合わせて用いることで、汎用的な集積化学システム[3]への応用が可能です。特に、医療診断、1細胞操作、分子合成などの分野で有用なツールとなると期待できます。

本研究成果は、スイスの科学雑誌『Micromachines』オンライン版(5月23日)に掲載されました。

背景

ガラス製の「マイクロ流体チップ」は、数cm角のガラス基板上に幅・深さ1 mm以下の流路を形成し、化学・生化学のプロセスを集積化したものです。ほとんどの溶媒・溶質に対して安定なため、医療診断向けの小型・高速反応の次世代型バイオデバイスとして期待されています。しかしガラスは硬いため、マイクロ流体チップの中に流体を制御するバルブやポンプをガラスで作製して組み込むことはできず、流路をマイクロレベルで集積できるメリットが十分に生かせませんでした。

一方、ポリジメチルシロキサン(PDMS)に代表される樹脂製マイクロチップは、柔軟性があり、バルブやポンプの組み込みが容易です。ただ、有機溶媒や気体と反応しやすいという難点があり、高度な表面化学処理が必要な細胞のパターニングなどには物理的安定性、化学的安定性の面から不向きでした。

田中ユニットリーダーは2013年、10μm以下という薄さながら、柔軟性が高く、割れにくい特徴を持つ超薄板ガラスに着目し、これを利用したガラスバルブの作製に成功し、全てガラス製のマイクロ流体チップを実現しました注)。今回は、ポンプをチップ内に組み込むことを目指しました。そこでガラスバルブを直列に並べ、コンピュータ制御のアクチュエータを使って、高速でピンを動かすことで、チップ内の液体を絞り出すように駆動する、ペリスタルティックポンプ形式のオンチップポンプ[4]の開発に取り組みました。

注)2013年4月24日プレスリリース
超薄板ガラスのバルブを作製、全てガラス製のマイクロ流体チップ実現

研究手法と成果

今回開発したポンプの駆動原理を図1Aに示します。バルブは直径3 mm、深さ50 μmの円形チャンバー[5]に厚み6 μmの超薄板ガラスを熱融着して形成しました。アクチュエータに連動したピンで押さえることでバルブを閉じます。このガラスバルブを4つ直列に並べ、1つだけバルブを開いた状態にし、順番にバルブを開く位置をスライドさせることで液を送り出します。衝撃緩和のため、超薄板ガラス板上にPDMSシートを貼っています。また、オンチップポンプでなければできない循環流を実証する目的で、図1Bで示すようにポンプ用流路はチップの出入口ポートをつないだ直線流路に接続したデザインとしました。

実証実験では、図2に示すようにマイクロ流体チップを固定器具でアクチュエータのピンに密着させ、ポートからさまざまな溶液を流しました。図3に示すように溶液の流れを微小ポリスチレンビーズで可視化し、蛍光顕微鏡で観察して流量を計測した結果、ポンプ機能が実証されました。また、水だけでなく、エタノールやメタノール、アセトンといった有機溶媒でも問題なく動作することを確認しました。このガラスポンプの流量は図4に示すようにアクチュエータの周波数に比例し、最大で毎分0.80μℓが得られました。これは、ちょうど分析や細胞培養などによく使われる流量の範囲にあり、十分実用的な性能を発揮していました。

今後の期待

開発したガラス製マイクロ流体チップ内電動ポンプは、さまざまな溶液に対して安定であるため、ガラスバルブと組み合わせて用いることで汎用的な集積化学システムへの応用が可能です。特に、医療診断、1細胞操作、分子合成などの分野で、有用なツールとなると期待できます。

原論文情報

  • Yo Tanaka "A peristaltic pump integrated on a 100% glass microchip using computer controlled piezoelectric actuators" Micromachines,2014,
    doi: 10.3390/mi5020289

発表者

理化学研究所
生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ 集積バイオデバイス研究ユニット
ユニットリーダー 田中 陽 (たなか よう)

お問い合わせ先

生命システム研究センター
広報担当 川野 武弘 (かわの たけひろ)
Tel: 06-6155-0113 / Fax: 06-6155-0112

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. マイクロ流体チップ
    数cm角の基板上に幅・深さ1mm以下の流路を形成し、化学・生化学のプロセスを集積化したもので、分析、合成、細胞培養などさまざまな用途に用いられる。
  2. ペリスタルティックポンプ
    複数(通常3個以上)のバルブを直列に並べ、これを順番に一定の方向に開いていくことで液体を絞り出すように流すポンプ。
  3. 集積化学システム
    マイクロチップをはじめ、ポンプやバルブといった流体操作系、検出系などを含めた集積化された化学システム全体。
  4. オンチップポンプ
    マイクロチップ上に搭載されたポンプ。シリンジポンプと呼ばれる外付けのポンプと比べて非常に空間集積度が高く、複雑な流路への対応もしやすい。
  5. 円形チャンバー
    バルブを形成するために、流路をいったん上側へ逃がしたところにある浅い円形の溝部分。このチャンバーを押さえて流路穴をふさぐことでバルブとして機能させる。

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ガラス製マイクロ流路チップ内電動ポンプの原理およびデザインの図

図1 ガラス製マイクロ流路チップ内電動ポンプの原理およびデザイン

(A) ポンプの駆動原理(断面図)
バルブは、直径3 mm、深さ50 μmの円形チャンバーに厚み6 μmの超薄板ガラスを熱融着して形成した。アクチュエータに連動したピンで押さえることでバルブを閉じる。バルブを4つ直列に並べ、1つだけバルブを開いた状態にし、①から④の順番にバルブの開く位置をスライドさせることで液を送り出す。衝撃緩和のため、超薄板ガラス板上にPDMSシートを貼っている。

(B) マイクロチップのデザイン
オンチップポンプでなければできない循環流を実証するため、ポンプ用流路はチップの出入口ポートをつないだ直線流路に接続した。実証実験では、液体の流れを微小ポリスチレンビーズで可視化し、蛍光顕微鏡で観察して流量を計測した。

今回開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプ写真

図2 今回開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプ

(A) 超薄板ガラスとガラス製のマイクロ流体チップ
(B) アクチュエータ
(C) セットしたマイクロ流体チップとアクチュエータ
(D) Cの裏側

蛍光顕微鏡での観察結果(動画)

図3 蛍光顕微鏡での観察結果(動画)

溶液の流れを微小ポリスチレンビーズで可視化し、蛍光顕微鏡で観察した様子。ポンプ機能が実証され、水だけでなく、エタノールやメタノール、アセトンといった有機溶媒でも問題なく動作することを確認した。

YouTube:蛍光顕微鏡での観察結果(動画)

ポンプ流量とアクチュエータの周波数の関係を表す図

図4 ポンプ流量とアクチュエータの周波数の関係

アクチュエータの周波数に比例し、最大で毎分0.80μℓの流量が得られた。これは、細胞培養などによく使われる流量の範囲にある。

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