広報活動

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2014年6月6日

理化学研究所

神経細胞で働くmRNAを網羅的に同定する新しい手法を確立

-小脳の「プルキンエ細胞」の部位特異的な転写物全体の解析を実現-

研究手法の概略図

今回用いた研究手法の概略

私たちは一度覚えた自転車の乗り方を忘れませんし、泳ぎやスキーも「体が覚えている」などと表現します。こうした運動の学習には小脳が関与しています。小脳のネットワークにおいて、唯一の出力神経細胞として中心的な役割を果たしているとされるのが「プルキンエ細胞」です。プルキンエ細胞では、他の細胞から信号を受け取る樹状突起が非常によく発達し、その入力量は平均的な神経細胞の約10倍といわれています。しかし、この特徴的な機能や形態を支える分子メカニズムの詳細は明らかになっていません。このため、プルキンエ細胞で作られるタンパク質を完全に網羅したカタログの作成が待たれてきました。また、運動学習はプルキンエ細胞とそこへ入力する神経細胞とのつながりの強弱の変化により起こるとされていますが、この変化に関与するタンパク質の多くは樹状突起で作られることが分かってきています。このため、樹状突起で作られるタンパク質が全て分かれば、運動学習を可能にする分子メカニズムの理解が大きく進むと考えられます。

特定の種類の細胞で作られているタンパク質を全てリストアップするには、その細胞内でリボソームと結合し、今まさにタンパク質へと翻訳されているmRNAを選択的に取り出す「TRAP法」が有効ですが、費用と時間のかかる遺伝子改変マウスの作製が必要でした。今回、研究グループは、特定の神経細胞に感染するウイルスを利用し、より迅速かつ安価で、遺伝子改変マウス以外の動物にも広く適用の可能性のある手法を確立しました。この「改良版TRAP法」で、ラットプルキンエ細胞の樹状突起や細胞体などの細胞内部位ごとに翻訳中のmRNAを回収し、理研が独自に開発した「CAGEscan法」によって、数千ものmRNA配列を高感度かつ定量的に読み出しました。

こうして集めた配列データを解析し、世界で初めて、ラットのプルキンエ細胞で作られているタンパク質をほぼ網羅的に記述するカタログの作成に成功しました。このカタログには、プルキンエ細胞内のどの部位でどのタンパク質が作られているかが示されているため、運動学習のように、タンパク質の作られる場所が重要な現象の研究への貢献が特に期待できます。

小脳のプルキンエ細胞の異常はスムーズな動きができなくなる運動失調症を引き起こし、また、ある種の自閉症患者の脳ではプルキンエ細胞の減少や異常が確認されています。今回の研究成果がこうした疾患の研究に貢献し、将来的には治療法の開発につながっていく可能性も期待されます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター Launey研究ユニット
ユニットリーダー トーマス・ローニー (Thomas Launey)

ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門 LSA要素技術研究グループ ゲノミクス微量技術開発ユニット
ユニットリーダー シャルル・プレシ (Charles Plessy)