広報活動

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2014年7月14日

理化学研究所

脂肪酸の機能に関わる遺伝子の変異が統合失調症・自閉症に関連する可能性

-統合失調症と自閉症の病因解明、診断、治療、予防に新たな光-

脳内で働く脂肪酸結合タンパク質(FABP)と精神疾患の図

脳内で働く脂肪酸結合タンパク質(FABP)と精神疾患

「統合失調症」は、幻覚や妄想、意欲の低下、感情の平坦化などの症状が現れる精神疾患で、社会的機能も低下します。発症には、複数の遺伝的要因と環境的要因が複雑に関わっているとされています。遺伝的要因については、個々の遺伝子の影響は大きくないといわれていますが、これまでにいくつかの原因遺伝子が報告されています。また「自閉症」は、コミュニケーション能力の障害などを伴う疾患であり、統合失調症と同様、遺伝的要因と環境的要因が複雑に関与していると考えられています。近年、自閉症の原因遺伝子のなかに統合失調症の発症にも関わるものがあると報告され、統合失調症と自閉症には共通の発症メカニズムが存在する可能性が指摘されています。

理研の研究者らを中心とする共同研究グループは、統合失調症や自閉症に関連する物質の1つとされている脂肪酸の運搬役「脂肪酸結合タンパク質(FABP)」に着目し、研究を進めてきました。脳内の細胞では主にFABP3、FABP5、FABP7の3種のFABPが働いています。これまでに、FABP7をつくる遺伝子FABP7が統合失調症に関連することを報告しています。今回の研究では、検討対象とする遺伝子にFABP3FABP5を加え、対象とする疾患を発症メカニズムが似ている自閉症にも広げて、FABPが精神疾患に及ぼす影響の包括的な理解を目指しました。

共同研究グループは、まず、統合失調症と自閉症の患者の死後脳や生存している統合失調症の患者の血液細胞を用い、3種のFABP遺伝子の発現量を発症していない人と比較しました。その結果、FABP7の発現量が統合失調症と自閉症の両方の死後脳で上昇していることが分かりました。これは、FABP7が2つの疾患の発症に共通するメカニズムに関与している可能性を示します。また、血液細胞のFABP5の発現量が低下しており、統合失調症の診断において有力なバイオマーカーなる可能性を示しました。次に、統合失調症患者2,097人と自閉症患者316人のサンプルを用いて、FABPの機能異常を起こす遺伝子変異があるかどうかを調べたところ、8種類の変異を発見しました。この結果から、変異をもつ患者では、脳で働くFABPの「量」や「質」が変化し、その変化が脂肪酸の代謝や働きに影響を与えていると考えられました。

さらに、これらの遺伝子を破壊したマウスで行動試験を行ったところ、Fabp3Fabp7を破壊したマウスに、新しいものへの興味の低下や、不安の感じやすさなど、統合失調症や自閉症でみられる行動の特徴と一致する変化が見られました。これにより、ヒトにおいてもFABP3やFABP7の機能不全は、精神疾患につながる可能性が高いことが示されました。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チーム
チームリーダー 吉川 武男 (よしかわ たけお)