広報活動

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2014年7月17日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人京都大学

金やウランなどの重い元素は中性子星の合体で作られた可能性が高い

-鉄より重い元素の起源を数値シミュレーションで解明-

ポイント

  • スーパーコンピューターによる中性子星合体現象の数値シミュレーション
  • 中性子核融合によりつくられる元素の組成が太陽系の重元素分布と合致
  • 従来の研究で予想されていた中性子の割合とは大きく異なる結果に

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と京都大学(松本紘総長)は、地球上に存在する金やウランなど鉄より重い元素が、中性子星合体[1]によってつくられたものである可能性が高いことを明らかにしました。これは、理研理論科学連携研究推進グループの和南城伸也研究員、京都大学基礎物理学研究所の関口雄一郎特任助教ら共同研究チームの成果です。

水素やヘリウムは宇宙の始まりのビッグバンにより生成され、それより重い鉄までの元素は恒星内部の核融合により生成されます。レアアース、金やウランなど鉄よりさらに重い元素は、大量の中性子の核融合により生成されると考えられています。しかし、その大量の中性子の核融合がどのような天体現象によるものなのかについては、長い間明らかにされていませんでした。それは中性子星合体によるものであるとする説がありますが、これまでの研究によると、放出される物質のほとんど(90%以上)が中性子であるために非常に重い元素だけがつくられると考えられ、太陽系や他の恒星で観測される重元素組成を説明できないことが問題となっていました。

共同研究チームは、東京大学などのスーパーコンピューターを用いて、一般相対性理論[2]ニュートリノ[3]の影響を考慮した場合の中性子星合体の数値シミュレーションを行いました。その結果、中性子の一部がニュートリノを吸収して陽子に変わるため、中性子の割合が60~90%程度にまで減少することが分かりました。この数値シミュレーション結果をもとに元素合成の数値計算をしたところ、観測による太陽系の重元素分布とほぼ一致していました。これにより、今まで明らかにされていなかった金やウランなどの鉄より重い元素の起源が中性子星の合体である可能性が高いことが示されました。

本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)の協力の元で実施したものです。研究成果は、米国の科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』(7月10日号)に掲載されました。

背景

宇宙の始まりのビッグバンで水素やヘリウムのような軽い元素が、それより重い鉄までの元素は星の中の核融合で生成されたことはよく知られています。レアアース、金やウランなどさらに重い原子番号40以上の元素は、rプロセス[4]と呼ばれる大量の中性子の核融合により生成されると考えられています。しかし、それがどのような天体現象によるのかについては長い間明らかにされていませんでした。

最近の研究によって、これまでその最有力候補と期待されていた超新星爆発[5]によるとする説では、中性子の量が不十分であることが指摘されています。もう1つの有力候補の中性子星合体によるとする説では、放出される物質のほとんどが中性子であるために非常に重い元素だけがつくられると考えられ、太陽系や他の恒星で観測される重元素組成が説明できないことが問題となっていました。

そこで共同研究チームは、スーパーコンピューターを用いて中性子星合体を再現することにより、金やウランなどの重い元素の起源の解明に挑みました。

研究手法と成果

共同研究チームは、東京大学のスーパーコンピューターを用いて、2つの中性子星(ともに質量は太陽の1.3倍、半径は12km)が、互いに回りながら合体し物質が放出されるまでの間の数値シミュレーションを行いました。これは、超新星爆発の研究ではすでに行われている一般相対性理論とニュートリノの影響を、中性子星合体の場合に応用した世界初の試みです。数値シミュレーションにより計算された、強い重力で変形した中性子星が合体する瞬間と、8ミリ秒後の様子を図1に示します。数値シミュレーションの結果、合体後は中心に1つの重い中性子星が残され(これは数10ミリ秒後にブラックホールになると考えられる)、強い衝撃波と遠心力により太陽質量の1%程度の物質が渦状に放出されることが分かりました(図1右上)。従来の研究では、このとき放出される物質はほぼ中性子星の組成そのままであり、中性子の割合が90%以上であると予測されていました。しかし、今回の結果により、中性子の一部がニュートリノを吸収して陽子に変わるため、中性子の割合は60~90%程度にまで減少することが分かりました(図1右下)。

さらに共同研究チームは、数値シミュレーション結果をもとに、中性子星合体で放出される物質中で起きる元素合成の数値計算を行いました。放出される物質には中性子が豊富に含まれるため、rプロセスにより鉄より重い元素が次々とつくられます。図2に、観測による太陽系の重元素組成と数値計算による重元素組成を、元素の質量数の関数として表します。従来の研究で予想されていた、中性子の割合が非常に高い場合(中性子割合90%以上)は太陽系の重元素組成とは大きく異なり、特に、銀などを含む質量数90~120(原子番号40~50)の元素がまったくつくられていないという問題があります。それに対して、共同研究チームが明らかにした中性子の割合が低い場合(中性子割合60~90%)では、質量数90~238(原子番号40~92)のほぼすべてにわたって太陽系の重元素分布が再現されていました。これらの結果により、中性子星合体が、レアアース、金、ウランなどの鉄より重い元素の起源である可能性が高いことが明らかになりました。

今後の期待

中性子星合体は、一部のガンマ線バーストの起源、最も有力な重力波[2]の発生源としても注目されています。現在、岐阜県の神岡鉱山に建設中の「KAGRA(かぐら)」をはじめとした、次世代重力波検出装置により、1年に数回の中性子星合体イベントが観測されると予測されています。この観測が実現されれば、一般相対性理論の直接的な検証となると期待されています。中性子星合体が重力波の発生源であることを確かめる最有力手段として、rプロセスによりつくられた放射性元素の崩壊熱により光り輝く「rプロセス新星」が注目されています。もし重力波源の方向にrプロセス新星が発見されれば、中性子星合体がその発生源であり、さらに金やウランなどの重い元素の起源であることも示す決定的な証拠となります。そのために、共同研究チームは、理研のスーパーコンピュータ「京」[6]を用いて中性子星合体による重元素の合成量を正確に予測するための数値シミュレーションを現在行っています。

原論文情報

  • Shinya Wanajo, Yuichiro Sekiguchi, Nobuya Nishimura, Kenta Kiuchi, Koutarou Kyutoku, and Masaru Shibata. "Production of all the r-process nuclides in the dynamical ejecta of neutron star mergers".
    The Astrophysical Journal Letters, 2014, doi:10.1088/2041-8205/789/2/L39

発表者

理化学研究所
研究推進グループ 理論科学連携研究推進グループ (iTHES) 階層縦断型基礎物理学研究チーム
研究員 和南城 伸也 (わなじょう しんや)

国立大学法人京都大学
基礎物理学研究所
特任助教 関口 雄一郎 (せきぐち ゆういちろう)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 中性子星合体
    2つの中性子星が互いの重心のまわりを公転する連星系は、重力波を放出する事により公転周期が短くなり、やがて合体する。太陽の約8~20倍の質量の連星の両方ともが超新星爆発を起こした後に形成される。現在、10例程度の中性子星連星が観測されていて、これらは1~10億年後に合体すると考えられている。
  2. 一般相対性理論、重力波
    一般相対性理論とは、光の速さに近い運動や強い重力を受ける運動の記述に必要となる、ニュートン力学を拡張した重力理論のこと。一般相対性理論により予測されている光の速さで伝わる時空のゆがみを重力波と呼ぶ。超新星爆発や中性子星合体の際には特に強い重力波が生じると考えられている。中性子星連星の公転周期の減少から間接的にその存在が確認されているが、いまだに直接的な観測例は存在しない。
  3. ニュートリノ
    光の速さで伝わる質量が極めて小さい素粒子で、物質とはほとんど反応しない。太陽の中心や超新星爆発で発生する。ニュートリノの一種である電子ニュートリノが中性子に吸収されると、電子を放出して陽子に変わる。
  4. rプロセス
    中性子の割合が非常に高い環境で起きる核融合反応連鎖(速い中性子捕獲反応過程)で、鉄より重い元素を合成する中性子核融合反応過程の1つ。これに対し、中性子の割合が低い環境で起きるsプロセス(遅い中性子捕獲反応過程)では、主にストロンチウム、バリウム、鉛などがつくられる。sプロセスは太陽のような低質量星が赤色巨星になったときに起きる。
  5. 超新星爆発
    太陽の約8倍以上の質量の星が最後に起こす爆発(重力崩壊型超新星)のこと。爆発の後に、中心に中性子星またはブラックホールを残す。炭素から鉄まで(原子番号6~30程度)の元素の主要な起源と考えられている。この他に、鉄族元素の主要な起源と考えられている白色矮星の爆発による超新星(核爆発型超新星、またはIa型超新星)がある。
  6. スーパーコンピュータ「京」
    文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

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スーパーコンピューターによる中性子星合体の数値シミュレーションの図

図1 スーパーコンピューターによる中性子星合体の数値シミュレーション

左は2つの中性子星の合体の瞬間、右は合体から8ミリ秒後の様子を表す(距離のスケールの違いに注意)。上は物質の密度の対数値(g/cc)、下は物質中の中性子の割合(%) を表す。右下の黄色からオレンジの渦状部分で金やウランなど、青から水色の部分で銀やレアアースなどがつくられる。

観測による太陽系重元素組成と数値計算による重元素組成の比較の図

図2 観測による太陽系重元素組成と数値計算による重元素組成の比較

元素分布を質量数の関数として表す。例えば、銀は107、109、レアアースは約140~180、プラチナは192、 194~196、 198、金は197、ウランは235、 238など。左は従来の結果(ここでは中性子の割合を95%と設定)、右は共同研究チームによる研究結果を表す。

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