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2014年7月23日

理化学研究所

覚醒や注意が感覚を鋭くする脳回路を解明

-アセチルコリンによる大脳抑制回路の活性化が神経細胞の反応をシャープに-

A 光遺伝学を用いた実験の模式図。B 抑制性神経細胞と記録電極。C 青色光刺激による活動電位発射頻度の増加。

光によるアセチルコリン投射系の刺激と大脳皮質抑制性神経細胞からの膜電位記録

目覚めているとき(覚醒時)や何かに注意をはらっているときに、感覚が鋭くなることはよく知られていて、心理学の研究テーマとしてもポピュラーなものです。車の運転中に、他の車の動きや点滅する信号などの“視標”を認知しやすくなることがその例といえるでしょう。視覚の場合、目から入った視覚情報は脳内で中継され、大脳後頭葉の視覚野の神経細胞が反応して認識されます。つまり、どのように見えるかは、視覚野の神経細胞が刺激に対してどう反応するかによって決まります。「覚醒」や「注意」によって視覚野の神経細胞の反応がどう変わるかの研究が行われていますが、その仕組みの詳細はまだ明らかになっていません。理研の研究チームは、覚醒や注意で感覚が鋭敏になる仕組みの解明に取り組みました。

研究チームは、ラットやマウスの大脳皮質視覚野を対象に、麻酔状態から覚醒状態に移るときに、神経細胞の働きがどのように変わるかを調べました。これまでの研究から、覚醒による脳機能の変化には、前脳基底核から大脳皮質にシグナルを送る「アセチルコリン投射系」が関わるのではないかと考えられていました。そこで、本当にアセチルコリン投射系が関わるのか、関わるとすれば視覚野の神経回路のどの部分にどのように関わっているのかなど、そのメカニズムの全容を明らかにしようと試みました。

研究チームは、大脳皮質の神経回路を構成する興奮性の錐体細胞と抑制性の介在細胞を区別できる遺伝子改変ラットやマウスを対象に、多数の神経細胞の活動を同時に記録できる「2光子励起カルシウムイメージング法」という手法を使って神経細胞の反応を詳しく調べました。その結果、ラットやマウスが麻酔状態から覚醒状態に移ると、アセチルコリン投射系が活性化し、まず抑制性神経細胞の反応が増大し、その結果、興奮性神経細胞の活動がより速く減衰して、次にくる刺激に対して反応しやすくなることが明らかになりました。

今回の発見は、覚醒や注意をはらうことによって活性化される「感覚鋭敏化脳回路」と、その動作の仕組みを明らかにしたものです。ロボットやウェアラブルコンピュータに用いる視覚情報処理のための回路設計などへの応用につながる可能性があります。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 大脳皮質回路可塑性研究チーム
チームリーダー 津本 忠治 (つもと ただはる)