広報活動

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2014年7月28日

理化学研究所

後縦靭帯骨化症(OPLL)の発症に関わる6つのゲノム領域を発見

-脊椎の難病の治療法開発へ道-

ポイント

  • 日本人のOPLL患者の全ゲノム相関解析を実施
  • 相関のある領域内に、骨化に伴って発現が変化する5つの遺伝子を同定
  • 遺伝要因をターゲットにしたOPLL治療法の開発や個人の病状予測法開発に期待

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、後縦靭帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament of the spine: OPLL)の発症に関わる6つのゲノム領域を発見しました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダーと、中島正宏特別研究員、統計解析研究チームの高橋篤チームリーダー、および厚生労働省難治性疾患克服研究事業[1]『脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班』(班長:戸山芳昭慶應義塾大学教授)[2]と『後縦靭帯骨化症の病態解明・治療法開発に関する研究班』(班長:松本守雄慶應義塾大学准教授)らの共同研究グループによる成果です。

OPLLは背骨を縦につなぐ後縦靭帯が骨化する(骨に変わる)疾患です。骨化した後縦靭帯はその後ろにある脊髄や神経を圧迫して、手や足のしびれや痛み、運動障害などを引き起こします。日本には数百万人の患者がいると考えられていますが、現状では根本的な治療法がありません。これまでに、血縁者がOPLLを発症していた場合に発生率が高くなることや、理研の骨関節疾患研究チームが2013年に発表した連鎖解析の結果[3]などから、OPLLの発症には遺伝的要因が関与することが分かっていましたが、その詳細は不明でした。

共同研究グループはOPLLの遺伝要因を明らかにするために、全ゲノム相関解析(GWAS)[4]を行いました。厚生労働省難治性疾患克服研究事業と文部科学省バイオバンクなどで収集した日本人のOPLL患者・非患者、計7,922人の集団について、ヒトのゲノム全体に分布する約60万個の一塩基多型(SNP)[5]を調べ、OPLLの発症と相関するSNPを探索しました。次に、これとは別の日本人のOPLL患者と非患者、計7,017人の集団で追試を行い、得られた結果の再現性を確認しました。その結果、6つのゲノム領域が、OPLLの発症と強く相関することが分かりました。さらに中島特別研究員(骨関節疾患研究チーム)らは、発見した領域に含まれる遺伝子の発現解析を行い、骨化に伴って発現が変化する5つの遺伝子を同定しました。今回の成果は、遺伝要因をターゲットにしたOPLLの治療法の開発や、これらの遺伝情報を用いた個人の病態を予測する方法の開発などにつながっていくことが期待できます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Genetics』掲載されるに先立ち、オンライン版(7月27日付け:日本時間7月28日)に掲載されます。

背景

脊柱靭帯骨化症は、前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯など、背骨を支えている靭帯が骨に変わってしまう難病の総称です。そのなかでも最も頻度が高く、かつ治療に難渋するのが、後縦靭帯骨化症(OPLL:ossification of posterior longitudinal ligament of the spine)です。

後縦靭帯は、背骨の後ろ側にあって背骨を縦につないでいる靭帯です。OPLLは、この後縦靭帯が骨化する(骨に変わる)ことで起きる疾患です(図1)。骨化した後縦靭帯は、脊髄や神経を圧迫して、手や足のしびれや痛み、運動障害などさまざまな症状を引き起こします。患者数は全国で3万人、潜在的な患者も含めると数百万人いるといわれています。OPLLには、現在のところ根本的な治療法はなく、保存的治療(理学療法や鎮痛薬の投与)と手術で対応していますが、多くは患者さんを満足させるものではありません。このため、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。

OPLLは単一の原因で生じる疾患ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられています。その重要な要因の1つに遺伝があります。過去の疫学研究などから、OPLL患者の兄弟姉妹にOPLLが認められる確率は約30%と報告されています。OPLLなどの多因子疾患では、遺伝の本体はその疾患に対するかかり易さ(感受性)を決める遺伝子、すなわち「疾患感受性遺伝子」であるとされています。疾患感受性遺伝子に加え、脊椎への力学的負荷や外傷などの外的要因や食事などの環境因子の相互作用などの総合的な作用により、発症に至ると考えられています。

理研の池川志郎チームリーダー(骨関節疾患研究チーム)は、OPLL の遺伝的要因の解明のカギとなるOPLL感受性遺伝子の同定に長らく取り組んできました。1998年には、OPLLのモデルマウスttwの原因遺伝子NPPSの同定に成功しました。2013年には厚生労働省難治性疾患克服研究事業脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班遺伝子解析グループが収集した兄弟姉妹でOPLLに罹患している患者のDNAを用いて、罹患同胞対法による連鎖解析[6]を行いました。その結果、OPLL感受性遺伝子が存在すると考えられるいくつかのゲノム領域を同定しました。しかし、連鎖解析では原理的な制約のため、遺伝子数100個を含む広いゲノム領域にまでしか絞り込めず、OPLL感受性遺伝子を個別には同定できませんでした。

近年、全ゲノム相関解析(genome-wide association study: GWAS)という、SNPを用いて疾患感受性遺伝子を効率よく絞り込む方法が確立されました。骨関節疾患研究チームでも、この方法を用いて変形性関節症、椎間板ヘルニア、思春期特発性側彎(そくわん)症などの骨・関節疾患について、病態解明の手掛かりとなる疾患感受性遺伝子を数多く見つけています注)。今回、骨関節疾患研究チームは、GWASを用いて、より詳細なOPLLに関するゲノム領域、疾患感受性遺伝子の発見に挑みました。

注)骨関節疾患研究チームホームページ

研究手法と成果

骨関節疾患研究チームは、厚生労働省難治性疾患克服研究事業『脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班』(班長:戸山芳昭慶應義塾大学教授)遺伝子解析グループと共同で、日本人1,660人のOPLL患者のDNAをゲノム研究に必要な臨床情報と共に収集しました。これをもとに、世界で初めてOPLLについてのGWASを行いました。

まず、OPLL患者1,660人のうち1,112人と、理研統合生命医科学研究センターの久保充明副センター長らのグループが文部科学省「オーダーメイド医療の実現プログラム」などで収集した非患者6,810人のゲノム情報を用いて、ヒトのゲノム全体に分布する約60万個のSNPを調べました。これをもとに、高橋篤チームリーダー(統計解析研究チーム)らが、統計学的手法を用いてOPLLの発症と相関するSNPを探索し、多くの有望なSNPを発見しました。次に、残りのOPLL患者548人と別の非患者6,469人を対象に追試を行い、得られた相関の再現性を確認しました。その結果、6つのゲノム領域(6p21.1、8q23.1、8q23.3、12p11.22、12p12.2、20p12.3)のSNPがOPLLの発症と強く相関していることが明らかになりました(図2)。2つの結果を統合すると、6つのゲノム領域に存在するSNPのP値(偶然にそのようなことが起こる確率で、値が小さいほど相関が強い。GWASでは5×10−8以下だと相関があるとされる)は、9.4×10−9~1.1×10−13と非常に強く、それぞれのゲノム領域で発症しやすいタイプのSNPがあると、1.3~1.4倍疾患にかかりやすくなることが分かりました。

発見した6つのゲノム領域に存在する遺伝子の中には、骨化に関与することが知られている遺伝子もいくつかありましたが、その他のほとんどは機能が全く不明な遺伝子でした。中島正宏特別研究員(骨関節疾患研究チーム)らは、遺伝子の発現に関するさまざまなデータベースを用いてこの6つのゲノム領域を詳細に調べ、OPLL発症に関する可能性のある多くの候補遺伝子を発見しました。さらに、厚生労働省難治性疾患克服研究事業『後縦靭帯骨化症の病態解明・治療法開発に関する研究班』(班長:松本守雄慶應義塾大学准教授)と共同で、骨化に関わる細胞である線維芽細胞、骨芽細胞および軟骨細胞を用いて、それらの候補遺伝子の機能解析を行いました。その結果、5つの遺伝子(RSPH9STK38LHAO1RSPO2CCDC91)の発現が、細胞の骨化に伴って変化することを発見しました。これらは、膜性骨化、もしくは内軟骨性骨化の過程に関与すると考えられました。

今後の期待

本研究により、OPLLの発症に関わる6つのゲノム領域と、そこに存在する骨化に関係すると考えられる5つのOPLLの感受性遺伝子が明らかになりました。発見した5つの遺伝子の靭帯骨化に関わる機能を詳細に調べることで、OPLLの病態解明につながると考えられます。また、今回の発見は、遺伝要因をターゲットにしたOPLLの治療法の開発や、これらの遺伝情報を用いた個人の病態を予測する方法の開発などにもつながると期待できます。

<謝辞>
OPLL患者さんのDNAと臨床情報の収集に関しては、全国脊柱靭帯骨化症患者連絡協議会,石川県OPLL友の会をはじめ多くの患者団体の協力を得ました。ここに改めて感謝の意を表します。

原論文情報

  • Masahiro Nakajima, Atsushi Takahashi, Takashi Tsuji, Tatsuki Karasugi, Hisatoshi Baba, Kenzo Uchida, Shigenori Kawabata, Atsushi Okawa, Shigeo Shindo, Kazuhiro Takeuchi, Yuki Taniguchi, Shingo Maeda, Masafumi Kashii, Atsushi Seichi, Hideaki Nakajima, Yoshiharu Kawaguchi, Shunsuke Fujibayashi, Masahiko Takahata, Toshihiro Tanaka, Kei Watanabe, Kazunobu Kida, Tsukasa Kanchiku, Zenya Ito, Kanji Mori, Takashi Kaito, Sho Kobayashi, Kei Yamada, Masahito Takahashi, Kazuhiro Chiba, Morio Matsumoto, Ken-Ichi Furukawa, Michiaki Kubo, Yoshiaki Toyama, Genetic Study Group of Investigation Committee on Ossification of the Spinal Ligaments, and Shiro Ikegawa.
    "A genome-wide association study identifies susceptibility loci for ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine".
    Nature Genetics, 2014, doi: 10.1038/ng.3045

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう)

お問い合わせ先

統合生命医科学研究推進室
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 厚生労働省難治性疾患克服研究事業
    症例数が少なく、原因不明で治療方法も未確立であり、かつ、生活面で長期にわたる支障がある疾患について、研究班を設置し、原因の究明、治療方法の確立に向けた研究を行うもの。現在130疾患を対象にこの事業が行われている。
  2. 脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班 遺伝子解析グループ
    慶應義塾大学医学部整形外科および関連病院(戸山芳昭教授、松本守雄准教授)、北里研究所病院(千葉一裕部長、辻崇副部長)、福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域(馬場久敏教授、内田研造准教授、中嶋秀明助教)、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科整形外科(大川淳教授、川端茂徳講師)、九段坂病院整形外科(進藤重雄部長)、国立病院機構岡山医療センター整形外科(竹内一裕医長)、東京大学医学部整形外科(谷口優樹助教)、鹿児島大学大学院医療関節材料開発講座(前田真吾特任准教授)、鹿児島大学大学院運動機能修復学講座整形外科学(河村一郎医師)、大阪大学大学院医学系研究科整形外科(柏井将文助教)、自治医科大学整形外科(星地亜都司准教授、木村敦助教)、富山大学医学部整形外科(川口善治准教授)、京都大学大学院医学研究科整形外科(藤林俊介講師)、北海道大学病院整形外科(高畑雅彦講師)、弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座(田中利弘助教)、新潟大学医学部整形外科学教室(渡辺慶助教)、高知大学医学部整形外科(木田和伸講師)、山口大学大学院医学系研究科整形外科学(寒竹司講師)、名古屋大学医学部整形外科(伊藤全哉助教)、滋賀医科大学整形外科(森幹士講師)、国立病院機構大阪南医療センター(海渡貴司医師)、浜松医科大学整形外科(小林祥助教)、久留米大学医学部整形外科(山田圭講師)、杏林大学医学部整形外科(高橋雅人助教)、理化学研究所統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チーム(池川志郎チームリーダー、中島正宏特別研究員)からなる共同研究グループ。
  3. 理研の骨関節疾患研究チームが2013年に発表した連鎖解析の結果
    連鎖解析の1つである罹患同胞対法(sib-pair linkage analysis)というゲノム解析手法を使って、同胞(兄弟姉妹)のサンプルからOPLLの遺伝子座を5つ発見した (Journal of Bone Mineral Metabolism誌に発表)。
  4. 全ゲノム相関解析(GWAS)
    ゲノム全体をカバーする一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)について疾患患者集団と非患者集団の遺伝子型を決定し、疾患との相関を統計的に解析する手法。50万~100万個のSNPの遺伝子型を調べる。
  5. 一塩基多型(SNP)
    ヒトのゲノムはおよそ30億の塩基対からなるが、その配列は個人間で0.1%程度異なっている。その配列の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。遺伝子多型の中で、一塩基の違いによるものを一塩基多型という。
  6. 罹患同胞対法による連鎖解析
    病気に罹患している兄弟姉妹(罹患同胞)は親から共通した感受性遺伝子を受け継ぐ確率が高くなることを利用し、感受性遺伝子のゲノム上での位置を特定する方法。ただし、候補領域を数千万塩基の範囲に絞り込むのが限界である。

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後縦靭帯骨化症(OPLL)患者の写真

図1 後縦靭帯骨化症(OPLL)患者の写真

頸椎(首の部分)の側面から見たX線像(左)とMRI像(右)。赤矢印がOPLL。OPLLが脊髄(青矢印)を圧迫している(上下に比べて、脊髄が細くなってしまっている)。

OPLLのGWASの結果の図

図2 OPLLのGWASの結果

横軸が染色体上の位置、縦軸が相関の強さ。染色体ごとに色分けされた個々の点が、各SNPの染色体上の位置と、相関の強さを示す。灰色の点線は、統計学的に有意な相関レベル(P=5×10-8)を示す。本研究で発見したOPLLの発症に強く相関する6つのゲノム領域(6p21.1、8q23.1、8q23.3、12p11.22、12p12.2、20p12.3)のSNPは、このレベルを遥かに超える、非常に強い相関を示している。

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