広報活動

Print

2014年8月19日

理化学研究所

記憶免疫機能を持つナチュラルキラーT(NKT)細胞を発見

-長期間生存し、2度目の抗原侵入に強力に反応-

ポイント

  • 自然リンパ球であるNKT細胞が獲得免疫にあるような免疫記憶機能を獲得
  • 記憶免疫様NKT細胞は、長期にわたって抗腫瘍効果を発揮できる
  • 記憶免疫様NKT細胞を利用した効率的な抗がん治療法やワクチンの開発に期待

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、免疫系の初期防御(自然免疫)で重要な働きをする「ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)[1]」が、免疫記憶機能を獲得し、長期にわたり抗腫瘍効果を発揮することを明らかにしました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)免疫細胞治療研究チームの藤井眞一郎チームリーダーを中心とする共同研究グループの成果です。

NKT細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)[1]γδT細胞[1]と同様に自然免疫に属する自然リンパ球の1つで、がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃します。しかし、獲得免疫に属する免疫細胞のように長期に生存して抗原を記憶する働きはないと考えられていました。そこで、共同研究グループはマウスを用い、NKT細胞の抗腫瘍効果のメカニズム解明に取り組みました。

共同研究グループは、NKT細胞を活性化する糖脂質「α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)[2]」を細胞表面に提示した樹状細胞[3]を作製し、これを投与してNKT細胞を活性化することにより、その抗腫瘍機能(エフェクター機能[4])を経時的に調べました。その結果、肺において9カ月以上という長期にわたって生存し、2度目の抗原侵入に対して迅速かつ強力に反応する「記憶免疫様NKT細胞[5]」が存在することが分かりました。次に、この細胞の特徴を調べたところ、キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバー1(KLRG1)[6]接着分子(CD49d)[7]細胞障害性顆粒(グランザイム A)[8]などの分子を発現していることや、抗腫瘍作用を持つサイトカイン「IFN-γ」[9]を多く産生することが分かりました。続いて、マウスに記憶免疫様NKT細胞を誘導し、4カ月後にB16悪性黒色腫を静脈内投与したところ、黒色腫の転移の抑性効果が認められました。また、RNAシークエンスによって特定の受容体クローンの蓄積が認められたことから、免疫記憶様の抗原選択を行っている可能性が示唆されました。さらに、記憶免疫様NKT細胞の誘導は、樹状細胞以外の、例えばCD1d[10]を発現させた他者由来の細胞(他家細胞)の線維芽細胞に、α-GalCerを提示させた細胞を用いても誘導できるため、樹状細胞由来分子に依存した免疫反応ではなく、CD1d発現細胞依存性であることも分かりました。

自然リンパ球と考えられていたNKT細胞に、こうした特徴をもつ記憶免疫様NKT細胞を同定したことは、新しい発見です。本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』オンライン版(8月12日付け)に掲載されました。

背景

生体防御を担う免疫系には、ウイルスや細菌などのさまざまな病原体やがんに対して初期防御を担う「自然免疫」と、過去に一度侵入した抗原を強力に認識し排除する「獲得免疫」があり、両者が協調して働いています。自然免疫には、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、γδT細胞、NKT細胞などが関わり、獲得免疫には、B細胞やT細胞といったリンパ球が関与しています。

一度侵入した抗原に対し、その情報を記憶する「免疫記憶」は獲得免疫に属するB細胞やT細胞が有する機能と言われてきました。ところが最近、自然免疫に属する自然リンパ球のNK細胞やγδT細胞特定の抗原に対し、免疫記憶機能を発揮することが報告されています。一方で、同じ自然リンパ球であるNKT細胞は、がん細胞やウイルス感染細胞などをいち早く攻撃する働きがあっても、免疫記憶機能はないと考えられていました。

NKT細胞は、抗原提示細胞(樹状細胞;DCなど)の表面に発現する分子「CD1d」が提示した糖脂質を抗原として認識して活性化し、抗腫瘍作用を示します。現在、私たちは、国立病院機構や千葉大学と共同で、NKT細胞を直接活性化させることができる糖脂質「α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)」を細胞表面に提示させた自己由来の樹状細胞(DC/Gal)を用いて、NKT細胞を活性化し、肺がん細胞を撃退する臨床研究を進めています。

これまでの臨床研究で、NKT細胞の抗腫瘍効果が長期にわたって持続することが確認されていますが、長期的な抗腫瘍効果のメカニズムは不明のままでした。そこで共同研究グループは、NKT細胞活性化による抗腫瘍効果とその持続効果についてマウスを用いて詳しく調べることにしました。

研究手法と成果

共同研究グループは、NKT細胞の抗腫瘍効果とその持続効果を調べるために、DC/Galをマウスに投与してNKT細胞を活性化し、NKT細胞の数やNKT細胞の抗腫瘍機能(エフェクター機能)をさまざまな臓器で経時的に調べました。

その結果、肺において、がん細胞を攻撃するサイトカイン「IFN-γ」を産生するNKT細胞が長く維持されることが分かりました。そこで、このNKT細胞を野生型マウスのNKT細胞と比較し、その表現型を解析したところ、細胞表面ではキラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバー1(KLRG1)(図1a)や、接着分子(CD49d)などの分子が発現していること、細胞内では細胞障害性顆粒(グランザイム A)が発現していることを発見しました。また、KLRG1を発現したNKT細胞(KLRG1+NKT細胞)の機能を詳しく解析した結果、野生型マウスのNKT細胞に比べてIFN-γの産生能が増したほか、CCL3、CCL4などのケモカイン(サイトカインの一種)を産生すること(図1b)、この細胞は9カ月以上長期にわたり存在することを確認しました(図1c)。続いて、KLRG1+NKT細胞を野生型マウスに移植し、3カ月後に再度DC/Galを投与したところ、免疫記憶を獲得した応答を示すことが分かりました。さらに共同研究グループは、免疫記憶を獲得したNKT細胞(記憶免疫様NKT 細胞)の抗腫瘍作用を検証しました。マウスにDC/Gal投与し、その4カ月後にB16悪性黒色腫を静脈内に投与した肺転移マウスモデルでは、免疫記憶様NKT細胞が迅速にIFN-γを産生すること、さらに2週間経過後に黒色腫の肺への転移抑性が認められました。

免疫記憶であることを確実に示すには、抗原への特異性を明らかにする必要があります。NKT細胞は、CD1dに提示された糖脂質を認識するため、その抗原特異性を評価しました。そこで、NKT細胞が抗原として認識してする糖脂質であるα-GalCer、 iGB3、 GSLをDCにそれぞれ提示させ、それらの細胞(DC/Gal、DC/iGB3、DC/GSL)をマウスに投与して肺内のKLRG1+NKT細胞の数を調べました(図2)。1回目にDC/Galを投与した2か月後にDC/Gal、DC/iGB3、DC/GSLを再度投与した結果、DC/Gal-DC/Galの場合に、1回目の反応に比べ、2回目の反応がより強力に起こりましたが、他の群では増幅効果はかかりませんでした。しかも、2回目のDC/Galの投与ではα-GalCerの量が1/10であっても反応が強力に起こることが分かりました。この結果から、免疫記憶様細胞のα-GalCerへの特異性が明らかになりました。

また、KLRG1+NKT細胞の抗原受容体をRNAシークエンスにより解析したところ、特定の受容体クローンが蓄積していたことから、免疫記憶様の抗原選択を行っている可能性が示唆されました。これらの結果から、NKT細胞が特定の抗原に対して、記憶T細胞のように免疫記憶機能を獲得し、長期に抗腫瘍効果を有することが示唆されました。

さらに、記憶免疫様NKT細胞の誘導は、樹状細胞以外の、例えばCD1dを発現させた他者由来の細胞(他家細胞)の線維芽細胞に、α-GalCerを提示させた細胞を用いても誘導できるため、樹状細胞由来分子に依存した免疫反応ではなく、CD1d発現細胞依存性であることも分かりました。

今後の期待

前述の通り、私たちは、国立病院機構や千葉大学と共同で、NKT細胞を活性化させる抗がん治療の臨床研究を進めています。今回発見した記憶免疫様NKT細胞の存在をヒト細胞で検証すること、さらには樹状細胞以外のCD1d陽性細胞を用いるヒト型人工アジュバントベクター細胞注)やiPS細胞を用いたNKT細胞の分化誘導注)といった新しいがん免疫細胞技術への研究への発展など、将来的により効率的な抗がん治療法の開発や抗腫瘍ワクチンの開発が期待できます。

注)
2010年6月2日 プレスリリース:「多能性幹細胞」iPS細胞から免疫治療に「役に立つ」リンパ球を作製
2012年12月26日 プレスリリース:自然免疫と獲得免疫の両方を活性化させるがん免疫療法を開発

原論文情報

  • Kanako Shimizu, Yusuke Sato, Jun Shinga, Takashi Watanabe, Takaho Endo, Miki Asakura, Satoru Yamasaki, Kazuyoshi Kawahara, Yuki Kinjo, Hiroshi Kitamura, Hiroshi Watarai, Yasuyuki Ishii, Moriya Tsuji, Masaru Taniguchi, Osamu Ohara, and Shin-ichiro Fujii.
    "KLRG+ invariant natural killer T cells are long-lived effectors".
    Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2014, doi:10.1073/pnas.1406240111

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 免疫細胞治療研究チーム
チームリーダー 藤井 眞一郎 (ふじい しんいちろう)

お問い合わせ先

統合生命医科学研究推進室
Tel: 048-503-9117 / Fax: 048-462-4715

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

産業利用に関するお問い合わせ

独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
お問い合わせフォーム

このページのトップへ

補足説明

  1. ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、γδT細胞
    NKT細胞:アレルギー疾患、がん転移、自己免疫疾患を制御する機能を持つ中核的な免疫制御細胞。
    NK細胞:ウイルスによる感染やがん細胞に対する初期防御機構としての働きを担っているリンパ球の一種。
    γδT細胞:細菌感染やウイルス感染などの外からのストレスに加えて、がん化に伴う細胞の変化に対しても敏感に感知する強い細胞傷害活性を持つ細胞。
  2. α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)
    NKT細胞だけを活性化する糖脂質リガンドの1つであり、CD1d分子上に提示される。沖縄に生息する海綿の一種(Agelas mauritianus)から得られた。
  3. 樹状細胞
    MHCクラスIやクラスII分子を発現し、強力な抗原提示能を有している免疫細胞の一種。広く全身に存在し、周囲に突起を伸ばす形態から「樹状」と名付けられ、発現している表面抗原分子により、骨髄系樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、ランゲルハンス細胞(Langerhans cell)などに分類されている。
  4. エフェクター機能
    直接的(接着や結合)あるいは間接的(生理活性物質の放出など)に他の細胞に働きかけることで、免疫反応を惹起させる機能。
  5. 記憶免疫様NKT細胞
    本研究により明らかになった、獲得免疫細胞のように長期に生存して抗原を記憶する働きを合わせ持ったNKT細胞集団。
  6. キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバー1(KLRG1)
    NK細胞やT細胞に発現する細胞表面抗原。T細胞では活性化の段階を示すマーカーとして、NK細胞ではカドヘリンをリガンドとする抑制性のレセプターとして知られる。
  7. 接着分子(CD49d)
    インテグリンα4サブユニット分子で、胸腺細胞、ランゲルハンス細胞、単球、リンパ球、好酸球に発現する膜貫通型糖タンパク質。
  8. 細胞傷害性顆粒(グランザイム A)
    セリンプロテアーゼの一種。DNAを分解し、がん、ウイルス感染細胞など標的細胞のアポトーシスを引き起こす働きを持つ。細胞傷害活性を有するT細胞などから放出される。
  9. サイトカイン「IFN-γ」
    NK細胞やマクロファージの活性化、T細胞の分化に関わり、自然免疫や獲得免疫に重要な作用を示す液性因子。
  10. CD1d
    CD1分子はMHCクラスI分子と立体構造がよく似た分子で抗原として糖脂質を提示でき、グループ1(CD1a、CD1b、CD1c)とグループ2(CD1d)が存在し、CD1dと糖脂質の複合体はNKT細胞により特異的に認識される。

このページのトップへ

記憶免疫様NKT細胞の特性の図

図1 記憶免疫様NKT細胞の特性

(a) NKT細胞を活性化する糖脂質(α-GalCer)を細胞表面に提示した樹状細胞(DC/Gal)をマウスに投与し、1週間後に肺のNKT細胞を解析した結果、KLRG1を発現したNKT細胞(KLRG1+NKT細胞)が増加していることが分かった(右)。非投与群の野生型マウス(naive)には認められない(左)。
(b) DC/Galを投与したマウスのKLRG1+NKT細胞と非投与群の野生型マウス(naive)のNKT細胞をα-GalCerで再刺激し、サイトカイン、ケモカイン産生能を比較検討した。KLRG1+NKT細胞はサイトカイン(IFN-γ)、ケモカイン(CCL3、CCL4)を有意に産生することが分かった。一方、サイトカイン(IL-4)に関しては、野生型マウスのNKT細胞の方が産生能が優位に高いという結果になった。
(c) α-GalCerを提示したCD1d発現細胞(DC/Galなど)をマウスに投与すると、NKT細胞全体の活性化が起こる。そのNKT細胞増幅後にKLRG1陽性細胞(赤色)細胞が、出現し、その細胞は数カ月にわたって記憶免疫様細胞として維持される。DC/Galを投与したマウスの場合は、9カ月以上にわたって維持された。

DC/Gal、DC/iGB3、DC/GSL投与後の肺内のKLRG1+NKT細胞数の図

図2 DC/Gal、DC/iGB3、DC/GSL投与後の肺内のKLRG1+NKT細胞数

NKT細胞が抗原として認識してする糖脂質であるα-GalCer、 iGB3、 GSLを樹状細胞(DC)にそれぞれ提示させ、それらの細胞(DC/Gal、DC/iGB3、DC/GSL)をマウスに投与し、肺内のKLRG1+NKT細胞の数を調べた。1回目にDC/Galを投与した2カ月後にDC/Gal、 DC/iGB3、DC/GSLを再度投与した。その結果、DC/Gal-DC/Gal投与群では、1回目の反応に比べ、2回目の反応がより強力に起こることが判明した。一方、DC/Gal-DC/iGB3群、DC/Gal-DC/GSL群では増幅効果はかからなかった。しかも、2回目のDC/Galの投与ではα-GalCerの量が1/10であっても反応が強力に起こることが判明した。

このページのトップへ