広報活動

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2014年9月12日

理化学研究所

頭皮の毛根細胞を利用した精神疾患の診断補助バイオマーカーの発見

-統合失調症や自閉症の診断に役立つ可能性-

毛根を利用した遺伝子発現解析の方法と毛根細胞におけるFABP4タンパク質の発現の図

毛根を利用した遺伝子発現解析の方法と毛根細胞におけるFABP4タンパク質の発現

精神疾患の1つである「統合失調症」は、生涯罹患率が1%と高く、国内の総患者数は71万人に達するとされています(2011年の厚生労働省統計)。また、発達障害である「自閉症」も年々増加し、現在、小児の約1%が自閉症と診断されるなど、社会問題になっています。現在行われている精神疾患の診断では、患者さんの行動や体験を聞きとることや、家族などから情報を得るなどの手法で対応するしかなく、臨床の場で科学的・客観的な診断ができる「生物学的診断ツール」はありません。このような理由から、非侵襲かつ簡便な方法で精神疾患の診断を補助できる「バイオマーカー(生物学的な指標となる遺伝子やたんぱく質などの物質)」の開発が待たれていました。

理研の研究者を中心に、医療機関・大学などの研究者で構成した共同研究グループは、発生学的に脳の細胞と同じ外胚葉由来で、採取することが容易な頭皮の毛根細胞に着目しました。毛根細胞を解析した結果、脳だけで発現するとされていた遺伝子の多くが毛根細胞でも発現していることが分かりました。そこで、精神疾患の患者さんの死後脳を用いた解析により発現量の変化が報告されている遺伝子群について、毛根細胞でのそれらの発現量がどのくらいあるかを測定し、さらに疾患群と対照群(健常者)を比較することで、精神疾患のバイオマーカーを探すことにしました。

その結果、統合失調症の毛根細胞では、脂肪酸結合タンパク質(FABP)の1つであるFABP4タンパク質をつくるFABP4遺伝子の発現量が、対照群に比べ約40%低下していました。発現量の低下は、年齢や性別、体重、食後時間、服薬、喫煙習慣などに左右されないこと、また、統合失調症の発症後の期間にも影響されないことが分かりました。このことは、統合失調症のごく初期の状態を客観的かつ正確に評価できることを示しています。一方、自閉症の方の毛根細胞では、神経系の細胞同士の結合に関わるCNTNAP2遺伝子の発現が低下していることが分かりました。

今回の研究により、毛根細胞が脳内の遺伝子発現の状態を把握するためのサンプルとして有用である可能性が示されました。今回の結果は、生きた脳の状態を反映する非侵襲的で簡便なバイオマーカーとして、今後、精神疾患の予防法開発や早期治療導入の判定、さらに新しい視点からの創薬のヒントを提供できる可能性もあると期待されます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チーム
チームリーダー 吉川 武男 (よしかわ たけお)