広報活動

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2014年9月15日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京工業大学

質量のないディラック電子の空間分布の観測に成功

-ディラック電子の空間分布が特異であることを発見-

トポロジカル絶縁体表面で期待されるスピン磁化分布図

トポロジカル絶縁体表面で期待されるスピン磁化分布

トポロジカル絶縁体という物質があります。この物質は内部が絶縁体ですが、表面は金属で、表面の金属状態を担っている電子は質量を持たないという不思議な物質です。量子力学では、電子は粒子であると同時に波動でもあるために、電子の振る舞いは波動関数という電子の存在確率の分布に関連した関数で表現できます。質量を持たない電子の波動関数はディラック方程式という方程式で求められることから、「ディラック電子」と呼ばれ、2つの成分をもつ波動関数で表現できます。トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の場合、この2つの成分は電子が持つ磁気的性質に関わる「スピン」に関係することが知られています。したがって、電子の電荷とスピンの両方を制御できれば、将来のスピントロニクス材料への応用に向けた新しい量子現象の発見につながると期待されています。そのためには、ディラック電子の空間分布の直接観測による解析が必要ですが、これまで行われていませんでした。

理研と東京工業大学の研究者を中心とした共同研究グループは、ビスマスとセレンから作成した[Bi2Se3]単結晶をトポロジカル絶縁体として用い、絶縁体表面の空間分布を直接観察しようと試みました。ディラック電子を地磁気の約2万倍の強磁場を加えてナノスケールの空間に閉じ込め、走査型トンネル顕微鏡法/分光法で観察する方法を使いました。その結果、ディラック電子は、結晶中に帯電した欠陥が作る「ポテンシャル」の等高線に沿ってリング状に分布することが分かりました。また、この分布がポテンシャルと磁場の効果を考慮したディラック方程式で求めた理論的な電子分布とよく一致していました。

質量を持つ通常の電子の場合、磁場中ではリングを形成する帯の内部の電子状態分布にピークが多数現れることが知られています。しかし、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の場合には、十分なエネルギー分解能と空間分解能で測定しても、ピークの数は高々2つしか観測されませんでした。ディラック方程式の理論解析を行ったところ、ディラック電子の波動関数を構成する2つの成分は、質量を持つ通常の電子の成分と同様に多数のピークを持ちますが、成分ごとに異なる空間分布を示すためお互いに相殺されてしまい、結果的に比較的相殺が起こりにくい帯の端の2つのピークが残ること分かりました。さらに、2つの成分は異なる空間分布を持ち、この違いによってユニークな磁気構造をもたらすことも示されました。この成果は、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子を制御する新たな手法の開発につながると期待できます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 創発物性計測研究チーム
チームリーダー 花栗 哲郎 (はなぐり てつお)

創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子凝縮相研究チーム
専任研究員 川村 稔 (かわむら みのる)