広報活動

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2014年9月18日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学

巨大ブラックホールが支配する「AGNエンジン」の解明へ

-吸い込むガスの重力エネルギーが2種類のX線放射に変換される-

ポイント

  • X線天文衛星「すざく」で観測した高品質のAGN(活動銀河核)データを解析
  • 吸い込むガスが増すとエンジンの動作が切り替わり、X線の放射量が増大
  • 超巨大ブラックホールによるAGNエンジンの詳細な構造解明に期待

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と東京大学(濱田純一総長)は、巨大ブラックホール[1]へのガスの流入量が少ない時には、ガスの重力エネルギーを放射に変換する機構である「AGNエンジン[2]」の効率が悪く、放射量(エンジン出力)の変動が穏やかなのに対し、流入量がある一定値を超えると、激しく出力が変動する効率のよい別系統のエンジンが働き始めることを発見しました。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)玉川高エネルギー宇宙物理研究室の野田博文基礎科学特別研究員と東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の牧島一夫教授(理研グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グループ グループディレクター)を中心とする共同研究グループによる研究成果です。

ほぼ全ての銀河の中心には、太陽の10万~10億倍の質量を持つ巨大ブラックホールが1個ずつ存在します。そのうち、激しくガスを吸い込むものは「活動銀河核(AGN)[3]」と呼ばれ、銀河に属する1千億個もの星の総和を上回るエネルギー量の放射(主にX線や可視光)を出します。これはガスの重力エネルギーを放射に変換する機構が働くためと考えられており、その機構を「AGNエンジン」と呼んでいます。AGNの進化過程や周囲に与える影響を知るため、これまでにAGNから放射されるX線などの観測データを用いて、AGNエンジンの動作が盛んに研究されてきました。しかし、未だに全貌は解明されていません。

共同研究グループは、X線天文衛星「すざく」[4]が観測した「NGC 3227[5]」というAGNの高品質X線データについて、X線の「放射量」と「個々のX線光子が持つエネルギー」の変動に着目して解析しました。その結果、巨大ブラックホールへのガスの流入量が少ない時には、放射量が小さくエネルギーが高めのX線で構成される成分が緩やかに変動する一方、流入量がある境界を超えると、エネルギーが低めのX線で構成される別の成分が現れ、この成分によって放射量が増大するとともに激しく変動し始めることが分かりました。AGNエンジンの中に異なる働きを担う2つの部分が存在し、吸い込まれるガスの量が少ない時にはそのうちの片側だけ、ガスの量が増えてくると両方が働き出すという、AGNエンジンの新しい機能や構造が示唆されました。

今後は、日本が2015年度に打ち上げる予定の次期X線天文衛星「ASTRO-H」[6]による観測から、AGNエンジンの機能や構造がより詳細に分かると期待できます。本研究成果は、米国の科学雑誌『Astrophysical Journal』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(日本時間9月18日付け)に掲載されます。

背景

宇宙に存在するほぼ全ての銀河の中心には、太陽の10万~10億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが1個ずつ存在します。その中には、ブラックホールにガスが激しく吸い込まれることで、その銀河に存在する星の総和を上回る1034~1038ワットものエネルギー量(主にX線や可視光)を放射するものが存在し、「活動銀河核(AGN)」と呼ばれています。この強大な放射は、ブラックホールに吸い込まれるガスの重力エネルギーが、効率よく放射エネルギーに変換される結果と考えられ、この変換機構を、化学エネルギーを動力に変換する自動車エンジンになぞらえて「AGNエンジン」と呼んでいます。AGNエンジンは、巨大ブラックホールの周りにできた円盤状のガス(降着円盤)と高温電子の領域で構成され、巨大ブラックホールから遠い場所では降着円盤が可視光のようなエネルギーの低い光を、巨大ブラックホールに近い場所では高温電子がエネルギーの高い光であるX線を生成していると考えられています。

AGNエンジンの理解は、ガスが巨大ブラックホールに吸い込まれることによるAGNの進化過程や、AGNが銀河にもたらす影響を調べるために、きわめて重要です。これまで多くの研究で、AGNから放射されるX線や可視光を観測することにより、AGNエンジンの機能や構造の解析が試みられてきました。しかし、その詳細は未だに解明されておらず、特にAGNエンジンのX線を放射する領域がどのような構造を持つのか、巨大ブラックホールに吸い込まれるガスの量が変わると生成されるX線の「強度」や「個々の光子のエネルギー」はどのように変化するのかなど、多くの謎が残っていました。

研究手法と成果

共同研究グループは、X線の広いエネルギー帯域を同時に高い感度で観測できる日本のX線天文衛星「すざく」が観測したNGC 3227というAGNからのX線信号の激しい強度の変動と、個々のX線光子が持つエネルギー(スペクトルの構成)の変動に着目しました。これを解析し、異なるエネルギー帯域のX線の強度を縦軸と横軸に取った「強度相関図」(図1)を作成したところ、ある強度を境にして、X線のスペクトル構成が劇的に変化することが分かりました。そこで、この境界よりも暗い時間帯(巨大ブラックホールに流入するガスの量が少ない時間帯)で、X線のスペクトル構成を調べたところ、エネルギーが高めのX線を多く含む成分(成分1)が多いことが分かりました(図2a)。また、この時のX線の強度は、数週間かけて緩やかに変動することが分かりました。一方、境界よりも明るい時間帯(巨大ブラックホールに流入するガスの量が増えた時間帯)のX線のスペクトル構成を調べたところ、成分1に加えて、エネルギーが低めのX線から構成される成分(成分2)も同時に現れ、数時間で大きく強度を変化させ、放射量を増大させていることが分かりました(図2b)。

本研究で得られた2つのX線成分は、エネルギーの高さが異なることから、巨大ブラックホールの周りの、温度や密度の異なる別々の領域で作り出されたと考えられます。このことから、AGNエンジンは、ブラックホールへのガスの流入量が少ない時には、成分1を生成する領域だけが存在するのに対し、流入量が境界値より大きくなると、成分2の領域が現れ、成分1に加わる形で明るく輝きはじめるという新しいAGNの機能や構造が見えてきました(図3)。これは、燃料となる巨大ブラックホールに吸い込まれるガスの量が増え、AGNエンジンからの出力があるレベルを超えると、さらに出力を増大させるべく、エンジンの動作を切り替える様子を示しています。

今後の期待

2015年度に打ち上げが予定されている日本の次期X線天文衛星「ASTRO-H」は、高いエネルギーのX線を、これまでにない高い感度で観測することができます。本研究で発見した2つのX線成分をASTRO-Hを用いて調べることにより、巨大ブラックホールの周囲に広がる高温電子の領域の構造や温度などが詳細に分かると期待できます。また、X線以外の波長、例えば可視光とX線の観測を同時に行えば、両者の放射量の変化の比較から、円盤状のガスと高温の電子の領域の位置関係を調べることができると考えられます。これらの研究を組み合わせることで、今後、巨大ブラックホールの周辺が明るく輝く仕組み、すなわちAGNエンジンの機能や構造の全貌が解明される可能性があります。

原論文情報

  • Hirofumi Noda, Kazuo Makishima, Shin’ya Yamada, Kazuhiro Nakazawa, Soki Sakurai, and Katsuma Miyake. "SUZAKU STUDIES OF THE CENTRAL ENGINE IN THE TYPICAL TYPE I SEYFERT NGC 3227: DETECTION OF MULTIPLE PRIMARY X-RAY CONTINUA WITH DISTINCT PROPERTIES". Astrophysical Journal, 2014, doi:10.1088/0004-637X/794/1/2

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員 野田 博文 (のだ ひろふみ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 巨大ブラックホール
    現在、存在が確認されているブラックホールには大別すると、太陽の10倍ほどの質量を持つ恒星質量ブラックホールと、太陽の10万~10億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールの2種類がある。恒星質量ブラックホールは、重い恒星の寿命が尽き超新星爆発を起こした結果できることが分かっている。一方、巨大ブラックホールは、ほぼ全ての銀河の中心に1個ずつ存在することが知られているが、その起源の詳細は現在も分かっていない。
  2. AGNエンジン
    活動銀河核(AGN)は、X線や可視光などさまざまな波長で明るく輝いているが、これは中心の巨大ブラックホールに周りからガスが吸い込まれる際に、それらのガスが持つ重力エネルギーが効率よく放射へと変換されるためと考えられる。この変換を担う機構を「AGNエンジン」と呼んでいる。AGNエンジンは大きく、巨大ブラックホールに対して円盤を形成しながら落下するガスと、巨大ブラックホールの近くで高温になった電子の領域から構成され、前者が主に可視光や紫外線を、後者がX線を生成すると考えられている。
  3. 活動銀河核(AGN)
    宇宙に存在する銀河の中の数%では、中心の非常に小さい領域から、その銀河に属する全ての星の総和を凌ぐエネルギー量を放射したり、ジェットと呼ばれる細く絞られた高速のガス流を噴出したりするなど、中心核の激しい活動が確認されている。これらの天文現象は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれており、電波、赤外線、可視光、紫外線、X線およびガンマ線といったあらゆる波長で盛んに観測が行われ、天文学でホットな分野の1つとなっている。
  4. X線天文衛星「すざく」
    2005年7月10日に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた日本で5番目のX線天文衛星。0.3~600キロ電子ボルトまでの非常に広いエネルギー帯域を同時に高い感度で観測し、ブラックホールや超新星残骸などの宇宙の高エネルギー現象の研究において数多くの成果を上げてきた。
  5. NGC 3227
    地球から7700万光年の距離にあるAGNを持つ渦巻き銀河。2008年10~12月に「すざく」で観測が行われた。
  6. 次期X線天文衛星「ASTRO-H」
    2015年度に打ち上げ予定の日本の次期X線天文衛星。現在、JAXAを中心として、日本のX線天文学コミュニティが、米欧のグループと協力して開発を進めている。0.3~12キロ電子ボルトのX線を極めて高いエネルギー分解能で精密分光できると同時に、0.3~600キロ電子ボルトまでのエネルギー帯域を、これまでにない高い感度で観測できる。ブラックホールや銀河団などを観測し、宇宙の構造や進化を探ることを目的としている。

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活動銀河核「NGC 3227」の強度相関図

図1 活動銀河核「NGC 3227」の強度相関図

活動銀河核「NGC 3227」からのX線信号について、波長の長い(エネルギーの低い)X線を横軸に、波長の短い(エネルギーの高い)X線を縦軸に取った「強度相関図」。ある強度を境にして、X線のスペクトル構成が劇的に変化することが分かった。

NGC 3227のエネルギーごとのX線信号の強度の図

図2 NGC 3227のエネルギーごとのX線信号の強度

(a)図1で見られた境界よりも暗い時間帯のX線のスペクトル構成。エネルギーが高めのX線を多く含む成分(成分1)が多いことが分かる。

(b)図1で見られた境界よりも明るい時間帯のX線のスペクトル構成。成分1に加えて、エネルギーが低めのX線から構成される成分(成分2)も同時に現れ、数時間で大きく強度を変化させている。

活動銀河核「NGC 3227」と巨大ブラックホール周辺の構造図

図3 活動銀河核「NGC 3227」と巨大ブラックホール周辺の構造

地球から7700万光年にある活動銀河核「NGC 3227」の光学写真(左上)。模式図は今回の研究から推測した巨大ブラックホールの周辺構造。AGNエンジンは、吸い込むガスの量が少ない時には、成分1を生成する領域(X線生成領域1)だけが存在するのに対し、吸い込むガスの量が境界値より大きくなると、明るい成分2の領域(X線生成領域2)が現れ、成分1に加わる形で明るく輝き始めるという新しいAGNの機能や構造であると推測できる。

写真提供:Ken Crawford

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