広報活動

Print

2014年10月1日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人電気通信大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター
国立大学法人大阪大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人京都大学

X線可飽和吸収を世界で初めて観測

-SACLAの世界最強X線レーザーが切り拓く新たな世界-

X線の可飽和吸収の図

X線の可飽和吸収

光を物質に照射すると、物質ごとに決まった量が吸収されます。光の強度を徐々に高めていくと、それ以上に物質が光を吸収できなくなるという現象が起きます。この現象を「可飽和吸収」と呼びます。可飽和吸収は波長の長い可視から赤外域の光では、すでにさまざまな分野で応用されており、光通信網での光信号の生成や、レーザー装置における光の波形の補正などを行う製品で利用されています。可飽和吸収を使えば、高強度の光を任意のタイミングで透過させることができ、時間幅の短いパルス光の生成や制御が可能になります。

短波長の光であるX線でも、強度を高めると可飽和吸収が起きることが理論的に予測されていましたが、可視域で行っていることをX線領域で行うには9桁以上の強度の光が必要であり、強いX線が得られるX線自由電子レーザーでも成功例はありませんでした。そこで、理研と電気通信大学の研究者を中心とした共同研究グループは、世界最先端のX線自由電子レーザー施設「SACLA」を用い、可飽和吸収が起きるかどうかを試みました。

実験では、1平方メートルあたり1020ワット(W)という強度のX線が得られる「二段集光光学システム」を使い、X線レーザーを20マイクロメートル(μm)の厚さの鉄の薄膜に入射させました。鉄原子の場合、8キロエレクトロンボルト(keV)という高いエネルギーの前後でX線の吸収率が大きく変化します。この吸収では、鉄の原子核に最も近い殻の電子が担います。

共同研究グループは、強いX線によってこの電子をイオン化させてしまえば、吸収する担い手がいなくなるので、X線を吸収できなくなる、つまり可飽和吸収を起こせると考えました。照射強度を高めながら透過X線を観測したところ、理論的に予測された強度(1019W/cm2)に達すると、急激にX線が透過する可飽和吸収が観測されました。また、鉄薄膜を透過したX線の状態を詳しく解析したところ、吸収の変化と同時に屈折の変化も起きていて、鉄薄膜内に光導波路が形成されていました。

X線の可飽和吸収が観測されたことで、X線自由電子レーザーのさらなる短パルス化が視野に入ってきました。次世代のアト秒(1アト秒は100京分の1秒)X線光学の最初の一歩であり、新たなX線光学素子を開発する技術として進展が期待されます。

独立行政法人理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ
グループディレクター 矢橋 牧名 (やばし まきな)