広報活動

Print

2014年10月23日

理化学研究所

経験による脳回路の変化を新モデルで予測

-時間スケールの異なる2種類の可塑性の効果を組み込んだ理論モデル-

眼優位性の仕組みの図

眼優位性の仕組み

大脳皮質の視覚野は両目からの視覚入力を受けるが、個々の神経細胞では左右の眼からの入力のバランスが異なる。どちらの眼からの入力が優位であるかの反応選択性を眼優位性と呼ぶ

私たちは、さまざまな経験をすることで学習しています。これは、脳回路内の神経細胞同士のつながりである「シナプス」の結合の強さが動的に変化する「可塑性」という性質を持つからだといわれています。これまでの研究から、神経回路の中で頻繁に使われているシナプス結合はより強くなり、あまり使われないシナプス結合はより弱くなるという「ヘッブ型可塑性」によって、特定の細胞グループが同時に活動しやすくなり、学習が進むと考えられてきました。一方、神経活動が極端に強くなったり、弱まったりすることをシナプスの強さの調整によって防ぐ「整調型可塑性」という仕組みも存在し、この2つの性質の異なる可塑性が相互に調節し合いながら学習を成立させていることが分かってきました。しかし、2つの可塑性がどう組み合わさって学習を成立させているのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。

理研と米国コロンビア大学、カリフォルニア大学の研究者らで構成された共同研究グループは、左右の眼から入力情報のうち、どちらが大脳視覚野で優先的に処理されるかが経験とともに変化する「眼優位性の可塑性」という現象に着目しました。近年の実験で、この現象は神経回路のつながりの強弱が先にヘッブ型可塑性によって変化し、しばらくして回路全体の活性が整調型可塑性によって調節されることが示されていました。共同研究グループは、経験による脳回路の変化を明らかにするため、この「眼優位性の可塑性」を忠実に再現できる、新しい理論モデルの構築を目指しました。

従来の理論モデルでは、2種類の可塑性がつりあうことで安定状態に達すると考えられてきました。しかし、共同研究グループの解析の結果、もしそうだとすると、2種類の可塑性の時間スケールに違いがある場合にはシナプス結合が不安定になって眼優位性の可塑性を忠実に再現できないことが示されました。この問題点を克服するため、共同研究グループは、「ヘッブ型可塑性は短い時間スケールで、整調型可塑性はより長い時間スケールで働き、それぞれ独立に安定状態に達する」という新しい理論モデルを構築しました。そして、そのモデルが、「眼優位性の可塑性」の実験結果を、可塑性に関わる分子メカニズムへの依存性を含めて、非常によく再現できることを確認しました。

経験による脳の変化を司る2つの可塑性が相互に調整しながら働くメカニズムが明らかになったことで、脳の成長や記憶のメカニズムの理解が進むだけでなく、薬剤が脳の発達障害や学習障害に与える影響を予測して、医療現場などにフィードバックすることも可能になると、期待されます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 神経適応理論研究チーム
チームリーダー 豊泉 太郎 (とよいずみ たろう)