広報活動

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2014年10月30日

理化学研究所

分子と陽イオンの相互作用を利用した簡便な光スイッチ分子の均一膜形成

-有機メモリーの実用化に向けた表面構造制御技術の開発-

計算により求めた銅表面上のジアリールエテン分子の安定した列構造図

計算により求めた銅表面上のジアリールエテン分子の安定した列構造

(a)はナトリウムが含まれない場合、(b)はナトリウムが含まれる場合。(a)に比べ(b)の 方がジアリールエテン分子と銅表面との角度が小さく、平行に近いことが分かる。

有機物質には面白い性質をもつものがあります。「ジアリールエテン分子」もその1つです。通常は白色や透明なのですが、紫外線をあてると赤や黄色などに変わり、可視光をあてると元の色に戻ります。光をあてることによって分子構造が変化し、分子の性質も変化するからです。このような光スイッチング機能を持った分子を“フォトクロミック分子”と呼んでいます。

これまで、有機物質の特異な性質や機能を利用して、新しいデバイスを作ろうという試みが盛んに行われてきました。照明やディスプレーなどに用いられている有機EL(エレクトロルミネッセンス)や、有機FET(電界効果トランジスタ)、有機太陽電池など、私たちの身近な製品として実用化もしています。しかし、有機物質を用いたメモリー(有機メモリー)ついては、まだ研究段階です。有機メモリーは1分子を1ビットとして制御できる可能性を秘めおり、実現すれば、無機物質を使ったメモリーでは超えられないと言われている“1平方インチあたり1テラ(兆)ビット”の壁を簡単に超える、高密度メモリーが誕生すると言われています。

有機メモリーを実現するためには、スイッチング機能をもった有機分子を、銅などの基板上に均一かつ密に整列させなければなりません。理研の研究チームは、ジアリールエテン分子の膜を、銅基板に均一構造で形成することに取り組みました。研究チームは、ジリアールエテン分子には電子を引っ張りやすい性質を持つフッ素原子が集まった部分があることに着目しました。このマイナスに帯電しやすい部分を上手に使うことで、分子の相互作用を制御し均一な膜を形成できると考えたのです。そこで、塩化ナトリウムを蒸着させた銅基板にジアリールエテン分子を蒸着し加熱してみました。その結果、ナトリウム陽イオンが接着剤(糊)の役割を果たし、銅表面に列構造を持つジアリールエテン分子とナトリウムの均一膜が形成されていることを確認しました。さらに、走査型トンネル顕微鏡で観察した膜の構造と電子状態の詳細なデータについて、量子力学の基本原理に基づいて分子や結晶の性質を計算する「第一原理計算」を行い、分子吸着構造や性質を明かにし、膜の形成メカニズムを解明しました。

今回の成果は、表面構造の製作技術の応用範囲を拡げる成果です。有機メモリーをはじめとした、新しい機能を持つデバイスの実用化が期待されます。

理化学研究所
准主任研究員研究室 Kim表面界面科学研究室
准主任研究員 金 有洙 (キム・ユウス)