広報活動

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2014年11月10日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東北大学

血小板上の受容体「CLEC-2」は糖鎖とペプチド鎖の両方を認識

-マムシ毒は糖鎖に依存せず受容体と結合-

ポイント

  • 「レクチンは糖鎖とのみ結合する」というこれまでの考え方を覆す
  • CLEC-2受容体は同じ領域でマムシ毒とがんに関わる糖タンパク質に結合
  • 糖鎖を模倣したペプチド性薬剤の設計への応用に期待

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と東北大学(里見進総長)は、血小板上の受容体「CLEC-2[1]」が、糖タンパク質「ポドプラニン」と結合する際に、糖鎖とペプチド鎖の両方を認識することを発見しました。また、マムシ毒の「ロドサイチン」と結合する際には、ペプチド鎖のみを認識することを発見しました。これは、理研グローバルクラスタ(玉尾皓平クラスタ長)糖鎖構造生物学研究チームの山口芳樹チームリーダー、長江雅倫研究員らと、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授、金子美華准教授の共同研究グループによる成果です。

血小板上のCLEC-2受容体は、ある種のがん細胞の表面に発現する糖タンパク質「ポドプラニン」と結合する際に、ポドプラニン上のO-結合型糖鎖[2]を認識して結合します。一方、糖鎖を持たないタンパク質性のマムシ毒「ロドサイチン」とも結合します。しかし、CLEC-2受容体がポドプラニンとロドサイチンのように性質の異なる2つのリガンド(受容体と結合する物質)をどのように特異的に認識し結合するのか、その仕組みは解明されていませんでした。

研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」[3]を利用して、CLEC-2受容体とポドプラニンとの複合体、およびCLEC-2受容体とロドサイチンとの複合体の結晶構造をX線回折により解析しました。通常、CLEC-2受容体のようなレクチン(糖鎖と結合するタンパク質)は、糖鎖とのみ結合すると考えられてきましたが、ポドプラニンと結合する際には、糖鎖だけでなくペプチド鎖を同時に認識し結合することが分かりました。一方、糖鎖を持たないマムシ毒のロドサイチンと結合する際には、ペプチド鎖だけを認識し結合することが分かりました。また、CLEC-2受容体は共通の領域を使ってロドサイチンおよびポドプラニンと結合していることを突き止めました。

今回の成果は、これまで不明な点が多かったO-結合型糖鎖の生理的機能を理解する上で重要な知見となります。また、ペプチド鎖は糖鎖に比べ簡単に合成できるため、糖鎖を模倣したペプチド性薬剤の設計やがん転移を抑制する抗体医薬品の開発など、薬学・医療分野への応用が期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Structure』オンライン版(11月6日付け)に掲載されました。

背景

血小板上の受容体「CLEC-2」と、ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質「ポドプラニン」やマムシ毒「ロドサイチン」が結合すると、血小板が活性化され、血液が凝固します(図1)。

ポドプラニンはO-結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり、CLEC-2受容体との結合にはその糖鎖が必須です。ロドサイチンはマレーマムシ(Calloselasma rhodostoma)より同定されたタンパク質性のヘビ毒です。ロドサイチンは糖鎖を持っていないのですが、CLEC-2受容体と結合できます。しかし、CLEC-2受容体がこうした性質の異なる2つのリガンド(受容体と結合する物質)をどのように特異的に認識し結合するのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。

共同研究グループは、CLEC-2受容体の糖鎖結合ドメイン(領域)にポドプラニンおよびロドサイチンがそれぞれ結合した2つの複合体の立体構造を解析することによって、CLEC-2受容体がポドプラニンとロドサイチンを特異的に認識し結合する仕組みの解明を試みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、X線結晶構造解析を行うため、まず、ヒトCLEC-2受容体の糖鎖結合領域を大腸菌で大量に発現させました。O-結合型糖鎖を含むポドプラニンのペプチド断片は、合成化学的手法と酵素化学的手法を組み合わせることにより調製しました。また、ロドサイチンはマレーマムシの毒腺から採取して精製しました。CLEC-2受容体を用いてO-結合型糖鎖を含むポドプラニン断片との複合体、およびロドサイチンとの複合体の結晶化スクリーニング[4]を行い、2つの複合体を結晶化しました。

次に、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」を使って、結晶化した2つの複合体のX線回折データを収集し、立体構造を解析しました(図2)。その結果、CLEC-2受容体がポドプラニンと結合する際には、ポドプラニンのO-結合型糖鎖だけでなく、その近傍のペプチド鎖(アミノ酸がペプチド結合で連結したもの)を認識し結合していることが明らかになりました。通常、CLEC-2受容体のようなレクチン(糖鎖と結合するタンパク質)は、糖鎖とのみ結合すると考えられてきましたが、糖鎖だけでなくペプチド鎖を同時に認識し結合することが分かりました。これは、O-結合型糖鎖の生理機能を理解する上で非常に重要な知見となります。一方、ロドサイチンは糖鎖を持っておらず、CLEC-2受容体はロドサイチンのペプチド鎖のみを認識し結合していることが明らかになりました。興味深いことに、CLEC-2受容体は共通の領域を使って、ポドプラニンとロドサイチンを特異的に認識し、結合することが分かりました。さらに、今回判明したCLEC-2受容体の結合領域は、これまで報告されてきたCLEC-2受容体が属するC型レクチンファミリー[5]の典型的な糖鎖結合領域とは全く異なることも解明されました。

これらの結果から、CLEC-2受容体が共通の結合領域を利用して、ポドプラニンとロドサイチンという異なるリガンドを認識し、結合する仕組みが初めて明らかになりました。

今後の期待

ポドプラニンは一部のがん細胞の表面に発現していることが報告されています。また、ポドプラニンがCLEC-2受容体と結合し、血小板上に凝集する領域を認識する抗体は、がん細胞の転移を抑制することが知られています。CLEC-2受容体がリガンドを特異的に認識する仕組みの詳細が明らかになったことで、これまで不明な点が多かったO-結合型糖鎖が持つ生理的意義の理解がさらに深まると考えられます。

また、ロドサイチンは、ペプチド鎖のみでCLEC-2受容体と結合することが分かりました。ペプチド鎖は糖鎖に比べ合成が簡単なため、糖鎖を模倣したペプチド性薬剤の合理的設計など薬学分野への貢献や、ポドプラニンが関与するがん細胞の転移を抑制する抗体医薬品の開発など、医療分野への応用が期待できます。

原論文情報

  • Masamichi Nagae, Kana Morita-Matsumoto, Masaki Kato, Mika Kato Kaneko, Yukinari Kato and Yoshiki Yamaguchi. "A Platform of C-Type Lectin-like Receptor CLEC-2 for Binding O-Glycosylated Podoplanin and Nonglycosylated Rhodocytin". Structure, 2014, doi: org/10.1016/j.str.2014.09.009

発表者

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 理研-マックスプランク連携研究センター システム糖鎖生物学研究グループ 糖鎖構造生物学研究チーム
チームリーダー 山口 芳樹 (やまぐち よしき)

国立大学法人東北大学大学院 医学系研究科
教授 加藤 幸成 (かとう ゆきなり)

お問い合わせ先

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. CLEC-2
    C-type lectin-like receptor 2の略。カルシウムイオン依存的に結合するレクチン(糖鎖と結合するタンパク質)をC型レクチン(C-type lectin)と呼び、CLEC-2受容体はそのファミリーに属する。ただし、CLEC-2受容体はカルシウムイオンとは結合せず、そのためC型レクチン様受容体と表現される。血小板をはじめ、さまざまな細胞表面に発現している。
  2. O-結合型糖鎖
    タンパク質を構成するアミノ酸残基のセリンもしくはトレオニンの側鎖を介して結合している糖鎖。これに対してN-結合型糖鎖はアスパラギン残基の側鎖を介して結合している。
  3. 放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」
    茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の大型放射光施設。原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている
  4. 結晶化スクリーニング
    X線結晶構造解析に用いるタンパク質の結晶を得るために、通常数百の沈殿剤の条件でスクリーニングを行うこと。
  5. C型レクチンファミリー
    カルシウムイオンと結合し、糖鎖とカルシウムイオン依存的にリガンドと結合するレクチン(糖鎖と結合するタンパク質)のこと。レクチンのひとつの大きなファミリーを形成している。

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CLEC-2受容体とその結合リガンドの図

図1 CLEC-2受容体とその結合リガンド

血小板上の受容体「CLEC-2」は、ポドプラニンが持つO-結合型糖鎖を認識し、糖鎖結合ドメイン(領域)を使って結合する。一方、糖鎖を持たないマムシ毒のロドサイチンとも結合する。今回の研究により、CLEC-2受容体が性質の異なる2つのリガンド(受容体と結合する物質)を特異的に認識し結合する仕組みが解明された。

CLEC-2受容体がポドプラニン、ロドサイチンと結合する仕組みの図

図2 CLEC-2受容体がポドプラニン、ロドサイチンと結合する仕組み

CLEC-2受容体は、ポドプラニンのO-結合型糖鎖とペプチド鎖を両方同時に認識する。一方、ロドサイチンとの結合では、ペプチド鎖のみを認識し、糖鎖には依存しない。ポドプラニン、ロドサイチンはCLEC-2受容体上の同じ領域と結合する。

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