広報活動

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2014年11月20日

理化学研究所

シナプス接着分子は神経回路の可塑性機能に多様性をもたらす

-高等脊椎動物の脳機能高度化を担ってきた分子機構の一端が明らかに-

ネトリンG1/NGL1相互作用とネトリンG2/NGL2相互作用の相互依存性とシナプス可塑性の制御機能のパターン図

ネトリンG1/NGL1相互作用とネトリンG2/NGL2相互作用の相互依存性とシナプス可塑性の制御機能のパターン

私たちは学習によって知識を得て記憶します。学習は脳の神経系が経験(刺激)によって変化する過程であり、記憶はその変化を保持することです。この作業は神経回路のシナプスという部位で行われています。シナプスは刺激を受けて変化しますが、その可変性を「シナプス可塑性」と呼んでいます。可塑性という言葉は耳慣れないのですが、簡単にいえばシナプスの伝達率が変化することです。ヒトなどの高等脊椎動物の脳はシナプス可塑性を高めることで高度化してきました。

シナプスは、神経細胞から伸びる突起状の「軸索」と、別の神経細胞の「樹状突起」で形成されます。軸索は、樹状突起との間の“シナプス間隙”に神経伝達物質を放出し、樹状突起がそれを受け取り、化学的信号を電気信号に変換して情報を伝えます。理研の研究チームは、これまでに、ヒトなど高等脊椎動物に特有な膜タンパク質「ネトリンG1」と「ネトリンG2」を発見し、これらが個別の軸索に発現、投射先の神経細胞に発現する受容体の「NGL1」と「NGL2」に結合して、神経細胞の中で情報を受け取る領域(区画)を決めていることを明らかにして、これらの分子が高等脊椎動物に特有の脳の層構造に依存した情報処理機能に関わることを示唆していました。しかし、これらの分子がどのような役割を担っているのかについては、電気生理学的、形態学的に解析したデータに基づく根拠は示せていませんでした。

研究チームは、今回、遺伝子変異マウスを用い、免疫電子顕微鏡法という手法でマウスの海馬を観察しました。この結果、ネトリンG1とネトリンG2が、それぞれ別々の神経回路のシナプス前膜(信号を伝える側)に集積していること、およびNGL1とNGL2がネトリンG1とネトリンG2に対応したシナプス後膜(信号を受け取る側)に集積していることを発見しました。また、膜タンパク質のネトリンG1、G2、および受容体のNGL1、NGL2を欠損させた変異マウスについても同様な観察を行い、これらの分子の間に相互依存関係があることを明らかにしました。また、「ネトリンG1/NGL1」と「ネトリンG2/NGL2」は、それぞれ別々の神経回路のシナプス接着分子であることも分かりました。これらの結果は、ネトリンG1とNGL1の相互作用、ネトリンG2とNGL2の相互作用が、脳の層構造と関連する神経回路の可塑性機能に多様性をもたらすことを示しています。

この発見は、ヒトの脳の高次機能がどうようにして高度化されたかの解明につながり、今後、さらに詳細な分子メカニズムの解析が進めば、多様な精神疾患の病理機構の理解を深めるとともに、新たな治療法の開発につながると期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 行動遺伝学技術開発チーム
チームリーダー 糸原 重美 (いとはら しげよし)