広報活動

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2014年11月21日

理化学研究所

大脳皮質の神経細胞はなぜ多いのか、その理由を発見

-大脳皮質の抑制性細胞は群れることで興奮性細胞へ効果的に作用する-

2光子励起カルシウムイメージング法による抑制性細胞と興奮性細胞の分布の観測の図

2光子励起カルシウムイメージング法による抑制性細胞と興奮性細胞の分布の確認

大脳皮質は大脳の表面に広がる神経細胞の薄い層です。知覚や随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司っているところです。神経細胞の数はヒトで約160億、マウスでも約1400万と極めて多数で、層構造を作って整然と並んでいます。しかし、なぜ大脳皮質に多数の神経細胞が存在するのか、どんな仕組みで働いているのかなどは分かっていません。これまで、大脳皮質の神経細胞の約20%を占める「抑制性神経細胞(抑制性細胞)」が、抑制性伝達物質を放出して「興奮性神経細胞(興奮性細胞)」の活動を抑制し、神経回路の動作を制御していると考えられていました。ただ、抑制細胞がどのように神経回路の動作を制御しているかは、明らかではありませんでした。理研の研究チームは、マウスを用いて制御の仕組みの解明を試みました。

研究チームは、抑制性細胞が緑色蛍光タンパク質を発現するようにした遺伝子改変マウスと、2光子励起走査型蛍光顕微鏡を使ったカルシウム蛍光イメージング法を使って、抑制性細胞と興奮性細胞について、大脳皮質視覚野の3次元空間における位置と視覚刺激に対する反応性を調べました。また、微小電極による電気生理学的方法を用いて、興奮性細胞が受ける抑制の強さを計測しました。その結果、抑制性細胞は大脳皮質視覚野内で3次元の群れを作り、群れの中の興奮性細胞に強い抑制をかけて、目から入る外界の視覚刺激の中で、特定の刺激だけに反応する「刺激特徴選択的」な視覚反応を鋭くさせていることが分かりました。一方、群れの外にいる単独の抑制性細胞は、興奮性細胞を強く抑制できないことを発見しました。つまり、大脳皮質の抑制性細胞は、群れを作ることによって個々の細胞では足りない抑制作用を増強して、興奮性細胞に適正で効果的な抑制をかけていることになります。この結果から、大脳皮質のような集団的な情報処理回路では、1個の細胞が脱落しても全体の機能が変わらずに安定かつ頑健な動作を保持できると考えられました。見方を変えると、多数の細胞が集団で働く情報回路では、極めて多くの細胞、すなわち“素子”が必要だということになります。哺乳類の大脳皮質で細胞数が多いのはこうした理由によるものと解釈できました。

今後、大脳皮質の神経回路の全貌が明らかにされれば、「1つひとつの作用が弱い神経細胞でも多数集合させることによって、障害に強く、柔軟な情報処理回路を作り上げる」という原理の解明につながり、脳型コンピューターなどのシステム開発に改革をもたらすと期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 大脳皮質回路可塑性研究チーム
チームリーダー 津本 忠治 (つもと ただはる)