広報活動

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2015年1月15日

理化学研究所

アルツハイマー病を進行させる糖鎖を発見

-バイセクト糖鎖はアミロイドβ産生酵素の細胞内分布を制御-

BACE1の細胞内分布の変化の図

図 BACE1の細胞内分布の変化

アルツハイマー病(AD)は認知症患者の6割以上を占める疾患で、高齢化が進む社会において、その克服が大きな課題になっています。しかし、現状では有効な予防薬や治療薬が少なく、早期の開発が強く求められています。アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ)タンパク質が脳に蓄積することが原因と考えられていますが、発症していく過程でAβの蓄積がどのように増えていくか、そのメカニズムには不明な点が多く残されています。

理研の研究者を中心とした研究グループは、タンパク質に糖が鎖状に結合した「糖鎖」というタンパク質の修飾に着目しました。特に、脳に豊富に存在する「バイセクト糖鎖」は、アルツハイマー患者の脳で量が増えているという研究結果が報告されていることから、この糖鎖がアルツハイマーの発症や進行にどう関わるかについて調べました。

研究グループは、遺伝子組み換えによってAβを溜まりやすくしてアルツハイマー病に似た症状を示すADモデルマウスを用い、さらに、バイセクト糖鎖を作る酵素「GnT-Ⅲ」を欠損させた、“バイセクト糖鎖を持たないADモデルマウス”を作製しました。このマウスを使って脳内のAβの蓄積を調べたところ、バイセクト糖鎖を持たないマウスでは、Aβの蓄積が激減し、記憶能力の低下も抑えられることが分かりました。次に、バイセクト糖鎖の欠損によって、なぜAβの蓄積が抑制できたのかを調べました、その結果、バイセクト糖鎖を欠損させるとAβの産生量が減少することが明らかになりました。Aβは、本来バイセクト糖鎖を持つβセクレターゼ(BACE1)という酵素によって前駆体タンパク質(APP)から作られますが、バイセクト糖鎖を持たないBACE1はAPPと細胞内で異なる分布を示すことでAPPに作用できなくなり、その結果Aβの産生が抑制されることが分かりました。

現在、国内外でBACE1阻害剤の開発が行われていますが、副作用を持つ可能性が指摘されています。今回の研究結果から、バイセクト糖鎖の産生を阻害するとBACE1によるAβの産生を防ぐことができ、かつBACE1が持つ他の機能は妨げないことが示唆されました。これらから、バイセクト糖鎖を作る酵素GnT-Ⅲの阻害剤は、BACE1阻害剤よりも副作用が少ないアルツハイマー病治療薬の候補になりうると考えられます。

欧州の医学専門誌『EMBO Molecular Medicine』オンライン版(1月15日付け:日本時間1月15日)に掲載。

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 理研-マックスプランク連携研究センター システム糖鎖生物学研究グループ 疾患糖鎖研究チーム
グループディレクター(兼チームリーダー) 谷口 直之 (たにぐち なおゆき)
副チームリーダー 北爪 しのぶ (きたづめ しのぶ)
基礎科学特別研究員 木塚 康彦 (きづか やすひこ)