広報活動

Print

2015年1月20日

理化学研究所

コケ植物の光化学系Ⅰ複合体の集光アンテナ調節機構を解明

-植物の進化と光合成調節との関連を示唆-

図

光化学系Ⅰ複合体とLhcb9との進化的相関図

約30億年という長い年月にわたって、植物などの光合成生物は、地球規模で起こるさまざまな環境変化に対応し、生き抜いてきました。光合成生物が環境変化にどのように適応してきたのかを調べれば、今後予想される環境変化に耐え得る植物の開発につながり、各国で研究が進んでいます。

光合成反応の場である葉緑体のチラコイド膜で働く「集光アンテナタンパク質」は、光エネルギーを吸収するクロロフィル(葉緑素)を多く含むタンパク質複合体で、吸収したエネルギーを、同じくチラコイド膜に存在する「光化学系」へと伝達しています。光化学系は、集光アンテナタンパク質から運ばれた光エネルギーを使って、エネルギーを生産する重要なタンパク質複合体です。光化学系の反応効率を高めるために、集光アンテナタンパク質が光エネルギーの供給量を調節しており、これを集光アンテナ調節機構と呼びます。これまで、緑藻と陸上植物については集光アンテナタンパク質の研究が盛んに行われていましたが、進化的に緑藻と陸上植物の中間に位置するコケ植物の集光アンテナタンパク質の研究は進んでいませんでした。

理研の研究者らで構成した共同研究グループは、コケ植物「ヒメツリガネゴケ」のチラコイド膜を分離精製して解析しました。その結果、ヒメツリガネゴケのチラコイド膜には、緑藻型と陸上植物型の2種類の光化学系Ⅰ複合体が存在していることが明らかになりました。また、現在ヒメツリガネゴケだけに存在が確認されている「Lhcb9」と呼ばれる集光アンテナタンパク質が、緑藻型光化学系Ⅰ複合体の形成に重要な役割を果たしていることも分かりました。ゲノム情報が公開されている全ての光合成真核生物の集光アンテナタンパク質との進化的な関係を調べたところ、 ヒメツリガネゴケが持つLhcb9は、その元となる遺伝子を自らの祖先から受け継いだのではなく、緑藻の祖先から“水平伝播”によって獲得したことが示唆されました(図)。これらの結果から、緑藻の祖先から水平伝播によって獲得したLhcb9が、緑藻型と陸上植物型の2つの光化学系Ⅰ複合体を持つことを可能にしたと考えられます。また、それによって、コケ植物が陸上へと進出する際に起こりうる環境変化に対して有利に働いていたことも考えられます。

今回の成果は、一つの集光アンテナタンパク質が、新しい光化学系複合体の形成に影響を及ぼすことを示す重要な結果です。多様な光合成生物の集光アンテナ調節機構を研究していくことが、今後、さまざまな環境変化に対応できる植物を作製する重要なアプローチの1つであることが示されました。

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ ライブセル分子イメージング研究チーム
客員研究員 岩井 優和 (いわい まさかず)
チームリーダー 中野 明彦 (なかの あきひこ)