広報活動

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2015年1月20日

理化学研究所

Ngly1タンパク質の欠損によりタンパク質分解反応に異常

-糖鎖脱離酵素ENGaseの阻害剤でNGLY1欠損症治療の可能性-

ENGaseによるN-GlcNAcタンパク質の生成の図

図 ENGaseによるN-GlcNAcタンパク質の生成

細胞内では、さまざまなタンパク質が生み出されています。しかし、時には遺伝子が示す設計図とは違う、いわば出来損ないのタンパク質ができることもあります。この出来損ないタンパク質を選別し、除去してタンパク質の品質管理を行っている酵素の1つが「糖鎖脱離酵素」です。真核細胞の細胞質に存在する「N-グリカナーゼ(PNGase)」もよく知られた糖鎖脱離酵素の1つです。

理研の研究チームは、これまでにPNGaseの遺伝子「PNG1」を発見するとともに、その生理機能の解析を進めてきました。一方、哺乳類のPNGaseと構造が類似していて、同じような機能を示す“オルソログ”の「Ngly1タンパク質」によって切り取られた糖鎖を、細胞質で分解する新しい「非リソソーム糖鎖代謝経路」が存在することが分かり、その代謝経路に関わる酵素群の1つ「エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)」についても、生理機能の研究を進めてきました。ENGaseは、細胞内でNgly1タンパク質によって切り取られた糖鎖の代謝に関わります。最近、ヒトにおいて、Ngly1タンパク質を作る遺伝子「NGLY1」の変異により、発育不全や筋力低下、脳波異常、肝機能障害などの症状を伴うNGLY1欠損症が発見されましたが、疾患に至る分子メカニズムの詳細は不明でした。そこで、研究チームは、NGLY1欠損症を引き起こす分子メカニズムの解明に取り組みました。

研究チームは、モデルタンパク質を用いて、細胞内の小器官である小胞体で作られたタンパク質の品質管理の仕組みを分析しました。その結果、NGLY1遺伝子を欠損させた細胞では、モデルタンパク質の分解が遅れることを発見しました。また、Ngly1タンパク質が存在しなくても、モデルタンパク質の糖鎖脱離が観察され、その反応がENGaseによって行われることが分かりました。次に、ENGaseとNgly1タンパク質の両方を欠損させた細胞でモデルタンパク質の分解を調べたところ、分解は正常に行われました。

これらの結果から、ENGaseはNgly1タンパク質が働かない状況の下で、糖の一種のN-アセチルグルコサミンが1つだけ残った「N-GlcNAcタンパク質」を生成し、それが細胞内で凝集体として蓄積することが明らかになりました。この現象がNGLY1欠損症の病態発現に関わる可能性が示されました。ENGaseの阻害剤がNGLY1欠損症の治療薬として有力な候補になる可能性があります。

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 理研-マックスプランク連携研究センター システム糖鎖生物学研究グループ 糖鎖代謝学研究チーム
チームリーダー 鈴木 匡 (すずき ただし)