1. Home
  2. 研究成果(プレスリリース)
  3. 研究成果(プレスリリース)2015

2015年1月30日

理化学研究所

ヒトES細胞から小脳の神経組織への分化誘導に成功

-脳神経系疾患に対する発症原因の究明や治療法開発などに期待-

要旨

理化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター器官発生研究チームの六車恵子専門職研究員を中心とする研究チームは、ヒトES細胞(胚性幹細胞)を小脳の神経組織へと、高い効率で選択的に分化誘導させることに成功しました。

中枢神経系(脳)は、一度損傷するとその機能の修復は非常に困難です。小脳は緻密な運動の制御や学習などをつかさどるため、その機能が障害を受けると小脳性失調症が起こり、日常生活に欠かせないさまざまな運動機能に支障が生じます。研究チームは、以前の研究で多能性幹細胞を効率良く分化できる「SFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)[1]」という3次元浮遊培養法を開発し、胚組織の発生を試験管内で自己組織化[2]により再現することで、マウスES細胞から、小脳の主要な神経細胞で医学的にも重要なプルキンエ細胞[3]への分化誘導に成功しています。

今回、研究チームはマウスで成功した培養法をヒトES細胞に応用し、プルキンエ細胞の効率的な試験管内での培養法の開発に挑みました。培養条件を最適化し、ヒトES細胞から分化したプルキンエ細胞前駆細胞を長期間培養することによって、大きな細胞体と樹状突起[4]の伸展を確認しました。電気生理学的解析[5]でも、この細胞固有の神経活動が測定でき、形態的にも機能的にも生体と非常に良く似たプルキンエ細胞であることを確認しました。また、プルキンエ細胞と顆粒細胞を同一の細胞塊内で分化させ、自己組織化によって脳の神経組織をつくるように培養条件をさらに検討したところ、これらがヒトの妊娠第1三半期に相当する小脳皮質構造を形成することを示しました。

神経変性疾患の1つである脊髄小脳変性症[6]は小脳の神経細胞の変性による細胞死が徐々に起こり、その数が著しく減少する病気です。研究チームでは、患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)からプルキンエ細胞への分化誘導にも成功しており、脊髄小脳変性症の発症原因の究明や治療法開発、創薬などの研究が加速すると期待できます。将来的にはヒトiPS細胞をさまざまな脳神経組織へと分化させることで、種々の脳神経系疾患に対する治療法開発への応用につながると期待できます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)再生医療実現拠点ネットワークプログラム「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」事業の一環として行い、米国の科学雑誌『Cell Reports』オンライン版(1月29日付け:日本時間1月30日)に掲載されます。

※研究チーム

理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 器官発生研究チーム
専門職研究員 六車 恵子(むぐるま けいこ)
テクニカルスタッフ 西山 あやか(にしやま あやか)

広島大学 原爆放射線医科学研究所 分子疫学研究分野
教授 川上 秀史(かわかみ ひでし)

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 神経生理学
教授 橋本 浩一(はしもと こういち)

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 器官発生研究グループ
グループディレクター 笹井 芳樹(ささい よしき)

背景

ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)などの多能性幹細胞は、全ての種類の体細胞に分化する能力(多能性)を有しており、試験管の中で医学的に有用な細胞を産生するための供給源として注目されています。例えば、特定の種類の細胞が変性、脱落するために発症する病気に対して、その細胞をヒト多能性幹細胞から分化させ、①発症する原因の解明、②病気の試験管内モデルとして治療候補化合物の評価、③移植などに利用できると期待されています。①、②については、これまでにもマウスなどを使った疾患モデルによって、さまざまな研究が行われてきましたが、必ずしも克服された疾患ばかりではありません。また、実験動物で有効であった薬がヒトでは効果がなかった場合もあります。このようなことから、ヒト由来の細胞を使った病態の研究や化合物の評価が重要だと考えられてきました。

小脳は中枢神経系(脳)の中で大脳に次いで大きな領域を占めており、身体の円滑な動きをつかさどる役割を担っています。小脳の機能が損傷を受けると、小脳性運動失調症が起こり、うまく歩行できない、ふらつく、手が震えるといった日常生活に欠かせない運動機能に支障が生じます。これらの症状は、小脳腫瘍や小脳梗塞でも認められますが、代表的な神経難病としては脊髄小脳変性症が挙げられます。この病気は複数の型に分類され、約3割が遺伝性です。多くの原因遺伝子が判明していますが、根本的な治療法は未だにありません。脊髄小脳変性症は、小脳あるいは小脳と連絡しながら働く部位(脊髄、延髄、橋など)の神経細胞が細胞死を起こして、徐々に減少していくために発症します。

小脳は大脳と同じく「皮質」と呼ばれる層構造を形成し、小脳皮質は、プルキンエ細胞や顆粒細胞、ゴルジ細胞など、複数の種類の神経細胞で構成されています。その中で最も中心的な役割を果たす神経細胞がプルキンエ細胞です(図1)。プルキンエ細胞にはさまざまな部位からの情報が出入りするため、個々のプルキンエ細胞は大きな細胞体と、うちわを拡げたような樹状突起の伸展という特徴的な形をしています。プルキンエ細胞が何らかの原因で障害を受け、変性、脱落すると小脳性運動失調の症状を示します。

プルキンエ細胞など小脳の神経細胞は、その発生の過程が非常に複雑なため、これまでES細胞をはじめとした多能性幹細胞から効率良く分化誘導できる方法はありませんでした。

研究チームは、以前の研究で、「SFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)」という3次元浮遊培養法を開発し、マウスES細胞をプルキンエ細胞へと高効率に分化誘導させることに成功しています注1)。この方法では、まずインスリンと線維芽細胞増殖因子FGF2の作用によって小脳の発生に必須の「峡部(きょうぶ)形成体[7]」を自己組織化により作製し、その形成体からのシグナルによって小脳を発生させるという2段階の戦略をとることで、効率的な小脳神経組織への分化誘導を実現しました。

今回、研究チームは、難病の克服という医学応用を目指して、この手法をヒトES細胞に応用し、小脳の神経細胞、特にプルキンエ細胞の効率的な試験管内での培養法の開発に挑みました。

注1)2010年9月13日プレスリリース「ES細胞からの小脳ニューロンの産生と移植に成功」

研究手法と成果

(1)ヒトES細胞からプルキンエ細胞の高効率な分化誘導

マウスES細胞で開発した分化誘導法(3次元浮遊培養法)は、基本的にヒトES細胞に応用できますが、細かい培養条件において異なる点が多くあります。小脳の神経細胞への分化に用いる「血清を含まない完全化学合成培地[8]」でヒトES細胞を培養すると、自己組織化による立体培養に欠かせない細胞凝集塊の形成が非常に脆弱になり、神経分化を維持するのが難しいことが分かりました。そこで、研究チームは小脳神経への分化に影響を与えることなく、細胞凝集塊を安定に形成し、神経分化を促進する因子の最適化を行いました。

まず、細胞死を防ぐための「ROCK阻害剤」注2)と神経分化を促進するための「トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)阻害剤」を培養液に添加して培養条件を最適化し、SFEBq法を使ってヒトES細胞の培養を始めました。その後、48~72時間の間にFGF2を添加しました(図2A)。すると、インスリンとFGF2の作用により14日目前後に小脳の発生に必須な峡部形成体のマーカー遺伝子(FGF8WNT1)の発現が増加しました。網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq)の結果からも、小脳周辺領域に特徴的な遺伝子の発現が著しく増加していることが分かりました。21日目には、小脳の神経前駆細胞へと分化した細胞塊のうち約8割で小脳領域の幹細胞のマーカー(EN2)が発現し、26日目ごろからプルキンエ細胞前駆細胞のマーカー遺伝子(KIRREL2)が発現しました。そして35日目にはプルキンエ細胞の同定と分化に必須のタンパク質(KIRREL2、PTF1A、SKOR2)が発現しました(図2B)。これらマーカータンパクの発現様式は、胎生期のマウス小脳で観察されるものと非常に良く似ており、ヒトES細胞からプルキンエ細胞の発生過程が再現できていることが分かりました。

研究チームは、以前の研究でマウスES細胞由来のプルキンエ細胞は、発生の初期に発現する細胞表面タンパク質KIRREL2(Neph3としても知られている)に対する抗体によって選択的に分離できることを報告しています。今回、この方法がヒトES細胞由来のプルキンエ細胞にも応用できるかを試しました。その結果、培養35日目の神経前駆細胞の細胞塊のうち約3割がプルキンエ細胞前駆細胞へと分化し、KIRREL2で同細胞を選択的に分離することに成功しました。また、その純度が9割近いことが分かりました(図3)。これは、目的に応じて必要な細胞だけを選択的に純化できる可能性を示しており、再生医療には欠かせないツールになり得ると期待できます。さらに、プルキンエ細胞前駆細胞を長期間培養したところ、そのほとんどがプルキンエ細胞へと成長することも確かめました。ES細胞全体でみると、大部分が神経前駆細胞となり、約3割がプルキンエ細胞へと分化しました。

注2)2007年5月28日プレスリリース「ヒトES細胞の画期的培養法開発:大量培養や大脳神経細胞産生が可能に

(2)ヒトES細胞由来プルキンエ細胞の電気生理学的解析

神経細胞として機能することを示す最も重要な解析の1つに、電気生理学的解析があります。神経細胞の基本的な機能は、神経細胞自身の電気的興奮を軸索で伝播し、その先端で形成されるシナプスを介して別の神経細胞へと伝達させることです。このような電気的挙動を解析することによって、神経としての機能を持っているかどうかを調べることができます。プルキンエ細胞の場合は、神経細胞の中でも特徴的な電気的性質が知られています。ひとつは、神経細胞の自発的発火(他の細胞からの入力がなくても、高頻度で自発的な電気的興奮を繰り返す)、もうひとつは興奮性神経入力の選択性(多くの神経細胞には神経伝達物質のグルタミン酸の受容体が2種類存在するが、プルキンエ細胞では片方のAPMA型受容体がより優位に存在する)です。これらの特徴は実験動物のマウスやラットで古くから多くの報告がありますが、ヒトのプルキンエ細胞ではこれまで全く報告がありませんでした。これは、生きたプルキンエ細胞を入手し、長期間培養することが非常に難しいためです。

研究チームが行った電気生理学的解析の結果、ヒト由来ES細胞から作製したプルキンエ細胞もマウスとほぼ同様の特徴を有していることが分かりました。これはヒトのプルキンエ細胞を用いた解析としては、世界初の報告となります。また、この解析に用いた細胞を組織学的に解析したところ、大型の細胞体と樹状突起の伸展、プルキンエ細胞特異的なマーカー分子の発現が観察され、ヒトES細胞から、機能的にも形態学的にも生体と非常に良く似たプルキンエ細胞の分化誘導に成功したと考えられます(図4)。

(3)ヒトES細胞由来の胎生期小脳皮質構造の自己組織化

小脳皮質にはプルキンエ細胞だけでなく、顆粒細胞という脳の中では最も数が多いと考えられている神経細胞が存在します。顆粒細胞は、小さな細胞体と特徴的な形態の軸索を持ち、さまざまな部位から受け取った情報を、プルキンエ細胞に入力する役割を果たしています。発生の過程で、プルキンエ細胞は脳室側から生まれ、顆粒細胞は菱脳唇(りょうのうしん)と呼ばれる最も背側に存在する構造から生まれます。小脳皮質を構成する神経細胞がその種類によって異なる場所から生み出されることが、これまで効率良い小脳の分化培養法が実現しなかった原因の1つと考えられます。

マウスES細胞から小脳の神経細胞の分化誘導に成功した2010年の報告においても、プルキンエ細胞へと効率良く分化誘導できましたが、顆粒細胞を誘導するときには、特殊な誘導因子である骨形成タンパク質4型(BMP4)を添加しなければできませんでした。

研究チームは、ヒトES細胞からプルキンエ細胞を誘導する方法で、顆粒細胞の前駆細胞のマーカー分子が、同じ神経上皮細胞付近に発現することを観察していました。そこで、プルキンエ細胞と顆粒細胞を同一の細胞塊内で分化させ、自己組織化によって皮質構造をつくるように培養条件を検討したところ、14日目にFGF19を、28日目にCXCL12(SDF1としても知られる)を順に作用させると、脳室側から生まれる細胞群(プルキンエ細胞など)と菱脳唇から生まれる細胞群(顆粒細胞など)が同時に生じ、層構造を形成しました(図5)。各層の形態から、これが妊娠第1三半期に相当すると考えられました。

今後の期待

今回の研究では、マウスのES細胞で開発したSFEBq法に改良を加え、ヒトES細胞をプルキンエ細胞を含む小脳の神経細胞へと分化させ、さらに小脳皮質構造へと誘導することに成功しました。特に、ヒトES細胞由来のプルキンエ細胞は、形態学的に生体でみられる細胞と非常によく似た特徴を有しており、電気生理学的にはマウスと同様の性質を持つことを示しました。

また、今回研究チームはヒトES細胞からプルキンエ細胞以外の小脳神経細胞を同時に産生することにも成功し、それらが初期の小脳皮質構造を形成することも見いだしました。このことから、将来的にはDandy-Walker症候群[9]などの奇形、髄芽腫[10]上衣腫[11]など小児の小脳に多い腫瘍など、種々の脳神経系疾患に対する再生医療への応用も期待できます。現在、研究チームではさまざまな種類の脊髄小脳変性症患者からのiPS細胞の樹立や、プルキンエ細胞への分化誘導を試みています。これまで、ヒトの機能的な小脳の神経細胞はほとんど入手不可能で、脊髄小脳変性症の原因解明や治療法開発・創薬のためのツールはマウスなどの実験動物を使うしかありませんでした。しかし、今回の方法を用いて患者由来のiPS細胞からプルキンエ細胞を作製することで、こうした疾患の原因解明や治療法開発・創薬などの研究が加速すると期待できます。

原論文情報

  • Keiko Muguruma, Ayaka Nishiyama, Hideshi Kawakami, Kouichi Hashimoto, Yoshiki Sasai, "Self-organization of polarized cerebellar tissue in 3D culture of human pluripotent stem cells", Cell Reports, doi: 10.1016/j.celrep.2014.12.051

発表者

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 器官発生研究チーム
専門職研究員 六車 恵子(むぐるま けいこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.SFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)
    SFEBqはSerum-free Floating culture of Embryoid Body-like aggregate with quick reaggregationの略。ES細胞などを酵素により単一細胞へとバラバラに分散させ、それを数千個程度の細胞の塊に再凝集させたものを分化培養の材料に用いる。この細胞凝集塊を培養する際、通常の細胞培養で行うような「細胞を培養シャーレに接着」させると、立体的な組織形成が損なわれて、きれいな構造体とならない。そのため、培養容器を「細胞非接着性ポリマー」でコーティングし、細胞や組織が容器に付着しないようにし、細胞塊を培養液の中で浮遊させる「浮遊培養」が可能となる。SFEBq法では、血清や転写因子などの神経分化阻害効果のある成分を一切含まない特殊な培養液に浮遊させて数日培養する。この方法により、90%以上の細胞を中枢神経系の細胞に分化させることができる(2005年2月7日プレス発表)。
  • 2.自己組織化
    1種類あるいは少数の種類の要素が、外部から特別の「指示」となる情報を受けることなく、自分たちの内在的な特性を発揮して自発的に複雑な高次の構造を組み上げて行くこと。例えば、雪の結晶形成などのように、パターンのない集合体の中で、自発的な秩序が生まれてパターンが形成されて行く自然現象が観察されるほか、ナノテクノロジーや光学結晶の作製などで工学的にも利用されている。
  • 3.プルキンエ細胞
    小脳皮質の情報処理の中心的な神経細胞。脳の中でも特に大きな細胞体を有し、広範囲に樹状突起を広げることにより、多くの神経情報を受け取り統合することが知られている。小脳皮質ではプルキンエ細胞層を形成し、細胞体が平面一列状に整列し、樹状突起は表面の分子層に伸ばし、軸索は白質を通って深部小脳核へと投射する。樹状突起では、入力神経繊維である苔状線維と登上線維からの情報を受け取る。
  • 4.樹状突起
    細胞体、軸索とともに神経細胞を構成する部分のひとつ。細胞体から枝状に広がる複数の突起構造で、その表面は樹状突起棘とよばれる小さな突起で覆われており、軸索との間にシナプスを形成し、情報の交換を行う。中枢神経系の中でもプルキンエ細胞の樹状突起は非常に特徴的で、うちわを拡げたような形状をとるため、その形態だけで細胞の種類を同定できる特異な神経細胞である。
  • 5.電気生理学的解析
    神経細胞の活動を解析するために、微小なガラス電極を神経細胞に刺し、それを通して神経細胞の電気的興奮状態やシナプスを介した電気的情報の解析を行う方法。今回用いたパッチクランプ法は1991年のノーベル医学生理学賞の受賞対象となっている。
  • 6.脊髄小脳変性症
    運動失調を主症状とする神経変性疾患の総称で、遺伝性と非遺伝性(弧発性)に分けられる。弧発性のものが最も多く全体の約2/3を占める。遺伝性の中ではSCA3、SCA6、SCA31型が日本には多く見られる。SCA6型はプルキンエ細胞の脱落が選択的に引き起こされる。
  • 7.峡部形成体
    中脳の最も尾側部に存在する形成体。形成体(オーガナイザー)は特定の構造を誘導する働きを持つ胚の領域で、他の異なった胚の領域に移植すると、本来の構造ではなく、オーガナイザーの働きに従った領域が誘導される。
  • 8.完全化学合成培地
    精製された化合物のみから調整可能な培地。組成が明確なので再現性が高くなる。
  • 9.Dandy-Walker症候群
    小脳虫部(小脳の頭尾方向正中部)の低形成と嚢胞形成を特徴とする奇形疾患で、胎生期菱脳蓋板の異常形成によるものとされる。原因遺伝子として、 ZIC1ZIC4FOXC1などの関わりが報告されている。
  • 10.髄芽腫
    小児の小脳に発生する悪性脳腫瘍。小脳虫部(小脳の頭尾方向正中部)より発生し、小脳半球へと浸潤し、第4脳室を埋めるように増殖することが多い。小脳のどの細胞から発生するかはまだ十分に解析されていない。
  • 11.上衣腫
    小児期に発症するものは小脳腫瘍として第4脳室壁から発生する。小児期のテント下に発症するものは悪性のものが多く、化学療法の効果がない極めて難治性の腫瘍である。
小脳の層構造の図

図1 小脳の層構造

大人のマウスの小脳の一部を拡大したもの。プルキンエ細胞だけが見えるように標識されている(緑)。プルキンエ細胞の細胞体が1列平面状に並び、この層を境に表層側が分子層、深層側が顆粒層となる。白質にはプルキンエ細胞から伸びた軸索が見える。

SFEBq法を使ったヒトES細胞からプルキンエ細胞への分化誘導の図

図2 SFEBq法を使ったヒトES細胞からプルキンエ細胞への分化誘導

  • (A) ヒトES細胞からプルキンエ細胞への分化誘導方法。ヒトES細胞を分散させるときにインスリンを含んだ培養液にROCK阻害剤と、TGFβ阻害剤を加える。培養開始48~72時間後にFGF2を添加して培養液中のインスリンと作用させると、21日目には小脳の神経前駆細胞へと分化した細胞塊のうち約8割が小脳へと分化する。(図は28日目の細胞塊の様子を示す)。
  • (B) 培養35日目。プルキンエ細胞の同定と分化に必須なタンパク質の発現の様子(緑:KIRREL2、赤:PTF1A, 白:SKOR2)。胎生期のマウス小脳に似た発現様式を示す。
ヒトES細胞由来の小脳プルキンエ細胞の選択的分離の図

図3 ヒトES細胞由来の小脳プルキンエ細胞の選択的分離

培養35日目には神経前駆細胞の細胞塊のうち約3割がプルキンエ細胞前駆細胞へと分化し、それらを特異的マーカーKIRREL2で選択的に分離することに成功した。グラフ中央の縦線から右側が選択的に分離した細胞の数。長期間培養するとそのほとんどがプルキンエ細胞へと成長した。

ヒトES細胞由来の成熟したプルキンエ細胞の電気生理的解析と形態の図

図4 ヒトES細胞由来の成熟したプルキンエ細胞の電気生理的解析と形態

ヒトES細胞から小脳神経前駆細胞を分化誘導し、35日目から接着培養を行った。延べ培養日数148日目の解析結果。

  • 左: プルキンエ細胞特有の自発発火の繰り返しがみられる。
  • 右: 大きな細胞体とよく広がった樹状突起が見られる。成熟したプルキンエ細胞に特異的なPCP2/L7(緑)、プルキンエ細胞のシナプス棘に特異的なGRID2(赤)、ヒト細胞に特異的なHuNu(青)が発現している。
ヒトES細胞からの小脳皮質構造の誘導の図

図5 ヒトES細胞からの小脳皮質構造の誘導

  • 上段:14日目にFGF19を作用させると、層構造を有し、神経管と似た管状構造が形成された(左)。さらに28日目にCXCL12(SDF1)を作用させると、35日目には胎児期の小脳とよく似た小脳組織が形成され(中央)、一部拡大すると菱脳唇様の構造(水色の矢印)も確認できた(右)。
  • 下段:FGF19とCXCL12を作用させたヒトES細胞由来小脳組織(培養35日目の観察結果)。脳室帯から生み出される細胞群(プルキンエ細胞)と菱脳唇から生み出される顆粒細胞前駆細胞が層構造を形成することが分かった。層構造の厚み、マーカーの発現様式から、妊娠第1三半期に相当すると考えられる。

Top