広報活動

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2015年1月30日

理化学研究所

ヒトES細胞から小脳の神経組織への分化誘導に成功

-脳神経系疾患に対する発症原因の究明や治療法開発などに期待-

ヒトES細胞由来の小脳プルキンエ細胞の選択的分離の図

ヒトES細胞由来の小脳プルキンエ細胞の選択的分離

小脳は脳の中で大脳に次いで大きな部分を占め、身体の円滑な動きをつかさどっています。大脳と同じく「皮質」と呼ばれる層構造を形成し、プルキンエ細胞や顆粒細胞、ゴルジ細胞といった複数の細胞で構成されています。その中でも中心的な役割を果たしているのがプルキンエ細胞で、さまざまな部位からの情報が出入りします。プルキンエ細胞が障害を受け変性・脱落すると、うまく歩行できなかったり、手が震えたりする小脳性運動失調の症状を示します。

理化学研究所の研究チームはこれまでに、多能性幹細胞を効率よく分化できる「無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)」という三次元浮遊培養法を開発し、これを用いてマウスES細胞(胚性幹細胞)からプルキンエ細胞を分化誘導することに成功しています。ただ、実験動物由来の細胞より、ヒト由来の細胞を使った病態の研究や薬など化合物の評価のほうが、より重要と考えられることから、SFEBq法をヒトES細胞に応用し、小脳の神経細胞、特にプルキンエ細胞の効率的に分化誘導できる培養法の開発に取り組みました。

SFEBq法は、基本的にヒトES細胞に応用できますが、細かな培養条件は異なります。そこで研究チームは、小脳神経への分化に影響を与えることなく、細胞凝集塊を安定に形成して神経分化を促進するため、さまざまな培養条件を最適化しました。その結果、ヒトES細胞から分化したプルキンエ細胞前駆細胞を長期間培養することで、大きな細胞体と樹状突起の伸展を確認しました。電気生理学的な解析でも、この細胞固有の神経活動が測定でき、それが形態的・機能的にも生体と非常によく似たプルキンエ細胞であることを確認しました。また、プルキンエ細胞と顆粒細胞を同一の細胞塊内で分化させ、自己組織化によって脳の神経組織をつくるように培養条件を検討したところ、これらがヒトの妊娠第1三半期に相当する小脳皮質構造を形成することも見いだしました。

この成果は、種々の脳神経疾患に対する再生医療への応用につながるものと考えられます。また現在、研究チームは、さまざまな種類の脊髄小脳変性症患者からのiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立やプルキンエ細胞への分化誘導を試みています。患者由来のiPS細胞からプルキンエ細胞を作製することで、こうした疾患の発症原因の究明や治療方法の開発、創薬などの研究が加速するものと期待できます。

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 器官発生研究チーム
専門職研究員 六車 恵子 (むぐるま けいこ)