広報活動

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2015年2月6日

独立行政法人理化学研究所
東京大学
大阪大学

誰でも、どこでも、高分子を精密合成できる新手法を開発

-高分子材料の製造プロセス簡素化とリサイクルの実現に向けて-

要旨

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発ソフトマター機能研究グループの宮島大吾基礎科学特別研究員、相田卓三グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)と東京大学大学院工学系研究科の姜志亨大学院生、大阪大学大学院工学研究科の井上佳久教授らの共同研究グループは、試験管中で原料を混ぜるだけで「高分子を精密に合成する方法」を開発しました。

プラスチックやゴムのような素材は日常生活になくてはならないものです。それらの素材は小さな分子(モノマー)が鎖状につながった高分子(ポリマー)からできており、必要とする機能に合わせて、つなぎ方が精密に制御されています。しかし、ニーズに合わせ多種多様な高分子を作製するには、高度な専門知識と熟練した技術、反応条件を制御できる設備による精密合成が必要です。1980年代後半に、「温和な条件下で原料を混ぜるだけ」でできる高分子「超分子ポリマー[1]」の合成法が報告されていますが、この合成法では小分子同士が勝手に連結してしまうため、思い通りの設計は実現できません。

そこで、共同研究グループは、小分子が持つ2つの連結点をあらかじめ分子内で接着することで環状にし、他の分子と勝手に連結できなくしました。そこに連結反応を促す小分子(連結反応開始剤[2])を混ぜたところ、鎖状の2量体をつくり、さらに3量体、4量体と連結反応を繰り返し、鎖の長いポリマーに成長しました。例えば、連結反応開始剤に対して環状の小分子を1,000倍加えれば、1,000回の連結反応が繰り返されるので、鎖の長さを一義的に決めることができます。

共同研究グループが開発した高分子の精密合成法は、誰でも、どこでも高分子の精密合成ができる手法です。自由な設計が可能なため新しい高分子材料の開発につながると同時に、製造プロセスを著しく簡素化し、コストの削減が期待できます。また、分子同士が化学結合していないため、簡単な操作で原料まで分解できることから、完璧なリサイクルを実現し環境に影響を与えないことも大きな特徴です。今後は、高分子合成の例をどれだけ増やしていけるかが課題です。

本研究は、科学研究費助成事業 特別推進研究「物理的摂動を用いる巨視スケールにおよぶ 構造異方性の制御と特異物性発現」の支援を得て行われました。成果は、米国の科学雑誌『Science』に掲載されるに先立ち、オンライン版(2月5日付け:日本時間2月6日)に掲載されます。

※共同研究グループ

理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ
基礎科学特別研究員 宮島 大吾 (みやじま だいご)
グループディレクター 相田 卓三 (あいだ たくぞう)(東京大学大学院工学系研究科教授)

東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻
博士課程 姜 志亨 (カン・ジヒョン)
助教 伊藤 喜光 (いとう よしみつ)

大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
教授 井上 佳久 (いのうえ よしひさ)
准教授 森 直 (もり ただし)

背景

私たちの身の回りにあふれているプラスチックやゴムといった素材は、高分子(ポリマー)と呼ばれる物質が絡み合ってできています。高分子は、小分子(モノマー)が鎖や数珠のようにたくさんつながってできた長大な分子です。高分子は小分子のつなぎ方を精密に制御することで、素材としてさまざまな機能を発揮するため、多くの用途に用いられています。例えば、高分子の鎖を長くしていくと、絡み合いの度合いが増し、その状態は、粘度の高い液体⇒ワックス⇒固体のように変わっていきます。高分子に対する多様なニーズに応えるためには、高分子を自在に精密合成できる新しい方法の開発が重要です。

従来の高分子は、化学反応を利用して、原料の小分子を共有結合[3]という強い力で連結させて合成します。しかし、必要とする長さの高分子を合成するなどの精密な合成には、水や酸素といった反応を阻害する物質を除去したり、反応温度を長時間維持したりするなど、高度な技術と経験、設備が必要です。

そのような中、1980年代の後半に新しいタイプの高分子(超分子ポリマー)が、フランスのジャン=マリー・レーン(Jean-Marie Lehn)博士やオランダのバート・マイヤー(Bert Meijer)博士らによって報告されました。超分子ポリマーは小分子を化学反応で連結させるのではなく、非共有結合[3]と総称される、水素結合や分子間の相互作用など、小分子間に働く引力を利用して、互いに接着させることでつくる高分子です。本来、非共有結合は弱く、分子がくっついたり離れたりを繰り返すのですが、超分子ポリマーでは複数点で非共有結合を行うことで離れるのを防いでいます。また、超分子ポリマーは共有結合に比べ弱い力で結合しているため、磁石のN極とS極が力をかけることで離れるように、超分子ポリマーの連結も物理的な力によって解除でき、また力を緩めると自動的に再連結します。

このような可逆的性質がありながら従来の高分子と類似の性質を持つ超分子ポリマーは、合成の容易さと相まって新時代の高分子として大きな期待が寄せられています。ただし、従来の高分子のように鎖の長さを自在に変えたり、分子をつなぐ順番を制御したりすることは原理的にできません。そこで、共同研究グループは、「原料を室温で混ぜるだけ」という簡単な操作で、誰もが、どこででも「望んだ数の小分子をつなぐ」ことができる高分子の精密合成法の開発に取り組みました。

研究手法と成果

高分子合成の原料となる小分子が高分子になるには、2つの連結点が必要です。図1で模式的に示したように、小分子Bの赤と青の連結点が連結し、高分子が合成されます。従来の高分子合成法では、化学反応でこの連結を行っていたため、反応を阻害する物質を完全に排除する必要がありました。

一方、本研究の対象である超分子ポリマーは、小分子Bの赤い連結点と他の小分子Bの青い連結点が磁石のN/S極のように物理的に接着するだけなので、阻害要因は非常に少なく、容易に合成を行うことができます。しかし、赤と青の連結点が小分子同士、小分子と高分子、高分子同士で勝手に連結してしまうため、精密合成ができませんでした。

共同研究グループは、この問題を解決すべく、図2の小分子Bのように、赤と青の連結点をあらかじめ分子内で連結させ、環状にしました。これによって小分子Bは勝手に連結し、高分子を形成することはできなくなります。そこに青の連結点を1つだけ持つ小分子A(連結反応開始剤)を混ぜると、小分子Bの環状が解かれて赤の連結点を小分子Aの青い連結点に連結させA-Bという2量体を形成します。また、この2量体が持つ連結の解けた小分子Bの青い連結点は、他の小分子Bの赤い連結点と連結するため、A-B-Bという鎖状3量体を形成します。この連結反応を何度も繰り返すことで、鎖の長いポリマーに成長します。連結反応開始剤の小分子Aに対して環状分子Bを1,000倍加えておくと、原理的にはその比と同じ回数だけ上記の連結反応が繰り返される(1,000量体の生成)ことから、環状分子の数をコントロールすることで、高分子の鎖の長さを一義的に決めることができます。

今回開発した合成法は、誰でも、どこでも「望んだ数の小分子をつなぐ」ことのできる精密な高分子合成法です。さまざまな設備や、高度な技術と経験の伝承が必要であった精密な高分子合成反応を、試験管さえあれば誰でもできる身近なものにします。

今後の期待

今回開発した合成法を産業技術として応用できれば、製造プロセスの簡素化、設備投資の削減、製造コストの引き下げにつながります。ただ、高分子の性質はつなげる小分子の種類によって大きく異なります。既存の高分子を超分子ポリマーで置き換えるには、超分子ポリマーで従来の高分子ポリマーに近い性質を実現しなければなりません。今後の研究の進展が期待されます。

また、この研究成果は、分野を越えて科学技術の発展にも貢献すると考えられます。今後は、「高分子の精密合成が簡便にでき、使用後は原料まで完全にリサイクルできる」高分子合成の例をどれだけ増やしていけるかが、課題となります。持続性社会の実現において欠かせない「省資源・省エネ」プロセスの達成は、21世紀を生きる人類が次世代にすべき必須の貢献だと考えられます。

原論文情報

  • Jiheong Kang, Daigo Miyajima, Tadashi Mori, Yoshihisa Inoue, Yoshimitsu Itoh, and Takuzo Aida, "A Rational Strategy for the Realization of Chain-Growth Supramolecular Polymerization", Science, doi: 10.1126/science.aaa4249

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 創発ソフトマター機能研究グループ
基礎科学特別研究員 宮島 大吾 (みやじま だいご)
グループディレクター 相田 卓三 (あいだ たくぞう)
(東京大学大学院工学系研究科教授)

東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻
博士課程 姜 志亨 (カン・ジヒョン)

大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
教授 井上 佳久 (いのうえ よしひさ)

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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kouhou [at] pr.t.u-tokyo.ac.jp (※[at]は@に置き換えてください。)

大阪大学工学研究科 総務課評価・広報係
Tel: 06-6879-7231 / Fax: 06-6879-7210
shimamoto-n [at] office.osaka-u.ac.jp (※[at]は@に置き換えてください。)

産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. 超分子ポリマー
    従来の高分子(ポリマー)は小さな分子(モノマー)が化学反応を経て、共有結合と呼ばれる非常に強い結合によって鎖状に連結され作られていた。超分子ポリマーは分子間に働く引き付け合う力(非共有結合)を利用し分子同士を接着し、鎖状に連結することで合成される高分子である。この接着は温度を上げる、特定の有機溶媒を使うなどすると容易に外れ元の小分子に戻すことができる。
  2. 連結反応開始剤
    連結点を1つだけ持った小分子で、この分子を混ぜることで連結点を2つ持つ分子と反応し、高分子が作られ始める。従来の高分子合成では単に開始剤と呼ばれている。
  3. 共有結合、非共有結合
    共有結合とは原子同士の間で電子を共有することで生じる化学結合で、結合力が強い。非共有結合は共有結合以外の原子同士を結びつける力を表し、水素結合やπ-π(パイ-パイ)相互作用などが知られている。共有結合に比べて結合力は弱いが、複数の力が協同的に働くことで原子・分子はあたかも共有結合のように連結される。

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従来の高分子合成法の模式図

図1 従来の高分子合成法の模式図

小分子Bが持つ赤と青の連結点がつながることで、小分子Bから高分子が合成できる。

連結反応開始剤を用いた精密高分子合成の模式図

図2 連結反応開始剤を用いた精密高分子合成の模式図

青い連結点だけを持つ小分子A(連結反応開始剤)が環状になった小分子Bの連結点に近づくと、小分子Bは赤い連結点と青い連結点を解き、赤い連結点を小分子Aの青い連結点につないで2量体を形成する。つながる相手がいなくなった小分子Bの青い連結点は、別の小分子Bの赤い連結点とつながり、3量体を形成する。環状分子の数だけこの連結を繰り返す。

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