広報活動

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2015年2月13日

理化学研究所

遺伝子制御部位の活性はエンハンサーが先行

-細胞の表現型を決める転写制御の仕組み-

細胞が変化する過程で共通する遺伝子制御部位の活性化パターンの図

細胞が変化する過程で共通する遺伝子制御部位の活性化パターン

細胞は状況に応じて、発現する遺伝子の種類や量を変化させます。特に、幹細胞がさまざまな特徴をもつ細胞に分化したり、分化した細胞が外界の刺激に応答してその性質を変えるためには、遺伝子の発現パターンが大きく切り替わる必要があります。DNA上に位置し、遺伝子の発現を調節している「遺伝子制御部位」と呼ばれているものに「プロモーター」と「エンハンサー」があります。プロモーターは、DNA上のRNAに転写される遺伝子領域の近くにあって、遺伝子を発現させる機能を持ちます。一方、エンハンサーは、主に遺伝子領域から離れた上流や下流にあり、遺伝子の転写効率を高めます。しかし、プロモーターやエンハンサーが、細胞が分化する過程で、どのように協調して分化に必要な遺伝子の発現を制御しているのかは、詳しく分かっていません。これまで、エンハンサーの活性化が遺伝子発現より先に起きる例があることは報告されていましたが、多様な細胞のさまざまな変化を網羅的に解析した研究はなく、むしろ、同じ遺伝子の発現制御に関わるプロモーターとエンハンサーは同時に活性化していると考えられていました。

そこで、理研の研究者らが中心となり結成された国際研究コンソーシアム「FANTOM」の研究チームは、細胞の状態が変化していく過程での遺伝子制御部位の活性変化を網羅的、経時的にとらえ、遺伝子発現が動的に変化する仕組みの解明に取り組みました。研究チームは、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)の分化や、培養細胞が外界の刺激に応答する過程など33例を対象に、数時間から数十日かけてプロモーターとエンハンサーの活性を測定しました。解析の結果、エンハンサーの活性化が一連の遺伝子発現の変化に先行して起こる現象であり、続いて転写因子の発現に関わるプロモーター、その後に転写因子以外の発現に関わるプロモーターと、遺伝子制御部位の活性化には共通の順序があることが明らかになりました。

これは、プロモーターとエンハンサーの活性化が同時に起きるという、従来のモデルを覆す発見です。また、iPS細胞の分化、がん細胞の成長因子への応答など、生命現象の理解に向けた手掛かりとなる成果といえます。将来的には、例えばiPS細胞から目的の細胞を作製するときに、エンハンサーを操作することで分化誘導を行う、などの応用も期待できます。

理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門 LSA要素技術研究グループ ゲノム情報解析チーム
チームリーダー Piero Carninci (ピエロ・カルニンチ)(副センター長)
副チームリーダー Erik Arner (エリック・アーナー)

予防医療・診断技術開発プログラム
プログラムディレクター 林崎 良英 (はやしざき よしひで)