広報活動

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2015年2月17日

理化学研究所

筋肉を動かすカルシウムは筋肉を作る指令役も担う

-カルシウム枯渇の指標となる多層化した小胞体膜構造を発見-

小胞体内カルシウム枯渇による筋分化の制御の図

小胞体内カルシウム枯渇による筋分化の制御

動物の体には、3種類の筋肉があります。意識して動かすことが可能な骨格筋、意思によって動かせない心筋、血管や消化管などの平滑筋です。骨格筋は筋繊維細胞の束で構成されています。筋繊維細胞は、数多くの筋芽細胞が融合して作られており、大きなものでは数千個の多核細胞になります。この融合、つまり、筋肉を作るには、遺伝子の発現と、それに応じたタンパク質発現という変化が必要です。遺伝子発現の変化は筋芽細胞外からのシグナルで開始されますが、理研の研究チームは、細胞内でも「小胞体」という細胞小器官からシグナルが発信され、筋分化を制御していることを発見していました。小胞体がシグナルを発信するのは、正常でないタンパク質の蓄積、酸化ストレスやウイルス感染、カルシウム濃度低下などの要因でストレス環境にある時です。ただ、多様な要因のうち、何が小胞体にストレスを与え、シグナル発信に至るかは不明であり、研究チームはその解明に挑みました。

研究チームは、筋芽細胞が融合し筋肉が作られる過程の小胞体を蛍光標識して観察しました。その結果、小胞体が部分的に変形した特殊な構造(SARC体)が一時的にできることを発見しました。SARC体を解析したところ、小胞体内のカルシウムの濃度が低下すると生じることが分かりました。また、小胞体からカルシウムを放出する出口となっているカルシウムチャネルをふさぎ、カルシウム濃度の低下を防ぐと、SARC体はできず、小胞体ストレスも見られなくなり、筋芽細胞の融合が起こらなくなりました。これは、筋肉を作る過程の進行には小胞体のカルシウム濃度の低下が必要なことを示しています。一方、筋肉の収縮は、カルシウムが小胞体から出たり入ったりすることで制御されています。したがって、小胞体内のカルシウムは、筋肉を動かしているだけではなく、筋肉を作るためのシグナル発信にも関わっていることになります。

今後、筋芽細胞内の小胞体内カルシウム濃度を人為的に制御できるようになれば、筋芽細胞の融合を促すことによって、筋肉作りの効率を上げることが期待できます。病気や高齢化などに伴う筋委縮の予防や改善などにも役立つ可能性があります。

理化学研究所
主任研究員研究室 小林脂質生物学研究室
協力研究員 中西 慶子 (なかにし けいこ)
専任研究員 森島 信裕 (もりしま のぶひろ)