広報活動

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2015年2月19日

理化学研究所
住友化学

ヒトES細胞から毛様体縁を含む立体網膜を形成

-立体網膜の安定生産に向け、分化誘導技術を確立-

ヒトES細胞から毛様体縁を含む立体網膜への分化誘導法の図

ヒトES細胞から毛様体縁を含む立体網膜への分化誘導法

毛様体縁は、胎児の網膜の端に存在する領域で、これまでに魚類や鳥類などで幹細胞を維持する特殊な構造(ニッチ)として働いていることが報告されていました。しかし、ヒトの毛様体縁の網膜発生における役割は、これまでほとんど明らかにされていませんでした。この謎を解明するには、ヒト毛様体縁を含む立体的な網膜を作製する新しい技術が有用です。

これまで理研では、「SFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)」という分化誘導法を開発し、ES細胞やiPS細胞から、複雑な神経組織を作製してきました。網膜についても、マウスES細胞やヒトES細胞から立体網膜を作製しています。今回、理研と住友化学の共同研究グループは、この技術をさらに改良して、新しい網膜分化誘導法の開発に挑みました。
まず、(1)ヒトES細胞をSFEBq法で分化させる条件を検討した結果、培養初期にBMP(骨形成因子)と呼ばれるシグナル作用物質を加えると、効率よく安定的に網膜組織へと分化誘導できることが分かりました。次に、毛様体縁が胎児期の網膜と網膜色素上皮(RPE)の境目に形成されることに着目し、網膜とRPEが共存する「複合網膜組織(カブラ型網膜)」を目指しました。様々な検討を行った結果、(2)ヒトES細胞からBMP法で作製した網膜細胞をRPEに分化させ、その後、再び神経網膜を誘導する条件で培養して神経網膜に戻すという“揺り戻し法”を使うことで、神経網膜とRPEが共存した複合網膜組織の形成に成功しました。そして、(3)この複合網膜組織を分化60日目まで培養したところ、網膜とRPEの境界に、自己組織化により毛様体縁が形成されることが分かりました。毛様体縁を含む立体網膜を詳しく解析したところ、(4)ヒト毛様体縁には幹細胞が存在し、この幹細胞が増殖する機能を発揮することで、網膜を試験管内で成長させることが分かりました。

新しい分化誘導技術には、胎児型網膜と良く似た立体網膜を、安定的に効率よく生産できる長所があります。本研究により重要な基盤技術を確立できたことで、網膜色素変性を対象とした再生医療の実現化に向けて一歩前進しました。

理化学研究所
多細胞システム形成研究センター 器官発生研究チーム
客員研究員 桑原 篤 (くわはら あつし)
(住友化学株式会社 主任研究員)
(現所属:大日本住友製薬株式会社 再生・細胞医薬事業推進室)

多細胞システム形成研究センター 立体組織形成研究ユニット
ユニットリーダー 永樂 元次 (えいらく もとつぐ)