広報活動

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2015年3月9日

理化学研究所
(株)ジーテック

食品の非破壊放射能測定を実現する低コスト測定器の開発

― 食品出荷時の簡便な全品放射能検査実現に向けて ―

要旨

理化学研究所(理研)グローバル研究クラスタEUSOチームのカソリーノ・マルコ チームリーダーと、株式会社ジーテックの後藤昌幸代表取締役らの共同研究グループは、食品に含まれる天然由来の放射性カリウム[1]と区別して、原発事故に由来する放射性セシウム[2]放射能[3]を非破壊で測定できる高感度、大面積、低コストな放射能測定器[4]を開発しました。

福島県では、東京電力福島第一原子力発電所の事故から4年を経た現在でも、食品に関する風評被害に悩まされています。風評被害を防ぐ有効手段の1つとして、農産物や魚介類、それらを使用した加工食品などの放射能を測定し安全性を確認することが挙げられます。ところが、従来の測定器は放射線(ガンマ線)を感知し発光する部分(シンチレータ[5])が底面にあるため、食品の形によっては正確な測定が難しいという問題がありました。そのため、食品をミキサーにかけ、小さく破砕してから測定する作業が必要でした。

共同研究グループは、食品を破砕せずに測定するために、食品を包み込むようにシンチレータを配置する設計を考えました。まず、低コストで成形が比較的簡単なプラスチックシンチレータ(Plastic Scintillators:PS)を検出器として用いることを検討しましたが、エネルギー分解能[6]が低く、天然由来の放射性カリウムと原発事故に由来する放射性セシウムの区別が困難でした。そこで、PSからの発光シグナルの数(光子数)の分布を詳細に調べ、測定した光子数分布の形から、放射性のカリウムとセシウムの割合を算出する手法を考案しました。この手法を適用し円筒形のPSを配置した放射能測定器「LANFOS(Large Area Non-destructive Food Sampler)」を開発しました。

LANFOSの技術を用いることで、箱詰めされた食品をそのまま計測できる大型の放射能測定器を安価に制作することが可能となります。これにより出荷時の全品検査の実現が期待できます。

本研究開発は独立行政法人科学技術振興機構(JST)の先端計測分析技術・機器開発プログラム(放射線計測領域)における開発課題「LANFOS:食品の非破壊放射能検査を可能とする低コスト検出器の開発」の一環として行われました。成果は日本物理学会第70回年次大会(3月24日)で発表予定です。

※共同研究グループ

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グループ EUSOチーム
チームリーダー CASOLINO Marco(カソリーノ・マルコ)
特別研究員 Piotrowski Lech Wiktor(ピオトロブスキー・レク・ビクトル)
テクニカルスタッフ 東出 一洋 (ひがしで かずひろ)
研究補助パート 田島 典夫 (たじま のりお)

戎崎計算宇宙物理研究室
主任研究員 戎崎 俊一 (えびすざき としかず)

仁科加速器研究センター 応用研究開発室 RI応用チーム
チームリーダー 羽場 宏光 (はば ひろみつ)

株式会社ジーテック
代表取締役 後藤 昌幸 (ごとう まさゆき)
技術 久永 勇 (ひさなが いさむ)

背景

4年前に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、大量の放射性物質が環境に放出されました。それらによって汚染された食品の流通を防ぐことは、現在も大きな課題です。特に福島県では食品に関する風評被害に今も悩まされています。風評被害を防ぐ1つの手段として、すべての食品の放射能を測定し客観的に安全性を示すことが有効ですが、従来の放射能測定器は放射線(ガンマ線)を感知し発光する部分(シンチレータ)が底面にあるため、食品の形によっては、正確な測定が難しいという問題がありました(図1左)。従って、食品をミキサーにかけ小さく破砕し、シンチレータにできるだけガンマ線が届くようにする作業が必要でした。

そこで共同研究グループは、実際に店頭に並ぶ食品を破壊せずに、そのまま測定できる放射能測定器の開発を目指しました。

研究手法と成果

共同研究グループは、2013年9月の電気学会・原子力研究会において測定器のコンセプトとシミュレーションの結果を報告しています注)。本研究では、食品を包み込むようにシンチレータを配置し大面積化することで、食品を破砕せずにそのまま入れても放射能を正確に測定できる放射能測定器の開発に取り組みました(図1右)。

共同研究グループは、材料費が安く成形が簡単なプラスチックシンチレータ(Plastic Scintillators、PS)を検出器として使うことにしました。しかし、PSではエネルギー分解能が低いため天然由来の放射性カリウムと、原発事故由来の放射性セシウムを区別することができませんでした。厚生労働省が定める放射能レベルの基準では、放射性セシウムが食品に含まれていても安全とされる基準値が天然由来の放射性カリウムと同程度(100ベクレル/kg)に設定されています。両者を区別して測定できなければ、放射性セシウムをほとんど含まない食品でも基準値を超えてしまうという、誤った結果を導く可能性があります。

そこで共同研究グループは、PSが放射線(ガンマ線)を感知した際の発光シグナルの数(光子数)の分布を詳細に調べました。その結果、放射性のカリウムとセシウムでは、ガンマ線のエネルギーの差によって、光子数の分布に有意な差があることを確認しました(図2)。そして、測定した光子数分布の形から、放射性のカリウムとセシウムの割合を算出する手法を開発しました。食品から検出される放射能はほとんどの場合、放射性のセシウムとカリウムに由来することから、共同研究グループが開発した手法は食品の放射能測定に適していると言えます。

共同研究グループは、この手法を用いて、円筒形のPSを配置した放射能測定器「LANFOS(Large Area Non-destructive Food Sampler)」を開発しました。LANFOSには、PSからの発光シグナルを光検出器で効率よく測定するために、シンチレーションファイバー[7]をPSの側面に巻きつけています(図3)。光検出器にはシリコン・フォトマルチプライヤー(Silicon Photomultiplier:Si-PM)検出器を用いました。 Si-PM検出器は①高圧電源を必要としない(約70Vで動作)、②シンチレーションファイバーとの接続が容易、③普通の光電子増倍管に比べて低コスト、などの特徴があります。また、食品500gに含まれる放射性セシウムを時間15分程で測定することが可能です。共同研究グループは、宇宙望遠鏡「JEM-EUSO」[8]のために開発されたSi-PMによる光検出などの望遠鏡の技術をLANFOSに応用して開発を行いました。天体観測のような基礎的研究が社会に直接役立つ製品の開発につながりました。

共同研究グループの一員である株式会社ジーテックがLANFOSの製品版試作機を製作しました。販売前のテストを兼ねて、2014年11月1日・2日に福島県南相馬市で行われた「JAまつり」に参加し、LANFOSを使って実際にジャガイモ、サツマイモ、キャベツ、大根、梨といった食品の放射能を測定しました。生産者の方からは「測定器が簡便であり便利であると同時に、実際の放射能を示すことで、消費者に安心して買っていただける」と好評でした(図4)。

注) LANFOS: 食品の放射線測定のための4π検出器、Marco Casolino et. al.、電気学会研究会資料. NE, 原子力研究会 2013(1), 7-11, 2013-09-02

今後の期待

LANFOSの技術を使えば、材料費が安く成形が簡単なプラスチックシンチレータを用いて、さまざまな形や大きさの放射能測定器の製造が可能になります。今後は、試験操業が始まった小名浜港(福島県いわき市)の本格的な操業再開に合わせて、箱詰めされた魚介類をそのまま測定できる大型の放射能測定器の開発に着手する予定です。これにより出荷時の全品検査の実現が期待できます。

発表者

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グループ EUSOチーム
チームリーダー カソリーノ・マルコ

株式会社ジーテック
代表取締役 後藤 昌幸 (ごとう まさゆき)

お問い合わせ先

理化学研究所 戎崎計算宇宙物理研究室
アシスタント 大畑 智子
Tel: 048-467-9074 / Fax: 048-467-4078

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 放射性カリウム
    カリウム原子の中で放射能を持つもの(放射性同位体)。天然に存在する中ではカリウム40が放射能を持ち、天然カリウムの内0.012%存在する。
  2. 放射性セシウム
    セシウム原子の中で放射能を持つもの(放射性同位体)。東京電力福島第一原子力発電所の事故によって主にセシウム137とセシウム134が放出された。
  3. 放射能
    物質が放射線を発生させる性質。または、原子核が単位時間あたりに崩壊する数。
  4. 放射能測定器
    放射線の頻度やエネルギーを測定することによって、物質の放射能を測定する。開発したLANFOSではガンマ線を測定して放射能を測定する。
  5. シンチレータ
    LANFOSおいては吸収した放射線(ガンマ線)のエネルギーに応じた強度で光を放出する物質。
  6. エネルギー分解能
    放射線のエネルギーを決める精度のこと。
  7. シンチレーションファイバー
    シンチレータでできた光ファイバー。波長変換ファイバーともいわれ、ファイバーに入射した光を測定しやすい波長に変換して集めることができる。
  8. 宇宙望遠鏡「JEM-EUSO」
    宇宙起因の地球大気圏での瞬間発光現象を観測する国際宇宙ステーションに装着予定の広視野望遠鏡。高度約400kmの軌道上から半径約250kmの領域の地球大気を観測できる。詳細はホームページ参照。

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従来型の放射能測定器と開発したLANFOSの模式図

図1 従来型の放射能測定器と開発したLANFOSの模式図

従来型の放射能測定器(左)ではシンチレータが底面にしかないため、食品を破砕し、シンチレータを囲うように置くことで検出精度を高めていた。新開発のLANFOS(右)では食品を包み込むようにシンチレータを配置しているため、食品を破砕する必要がない。

放射性セシウムとカリウムの光子数分布

図2 放射性セシウムとカリウムの光子数分布

縦軸は放射線の検出頻度、横軸は検出時に発生した光子数を示す。放射性のカリウム(赤)とセシウム(黒)では、元のガンマ線のエネルギーに差があるため、測定した光子数分布に有意な差ができる。測定した光子数分布(青)の形から放射性のカリウムとセシウムの割合を算出する。

LANFOSのプラスチックシンチレータ

図3 LANFOSのプラスチックシンチレータ

円筒形のプラスチックシンチレータ(青)からの発光シグナルを光検出器で効率よく測定するために、シンチレーションファイバー(緑)をプラスチックシンチレータの側面に巻いた。光検出器にはシリコン・フォトマルチプライヤー(Si-PM)検出器を用いている。

放射能測定試験の様子

図4 放射能測定試験の様子

LANFOSを使った農産物の放射能測定試験(福島県南相馬市で2014年11月1・2日に行なわれたJAまつりにて)。装置のサイズは高さ83cm×幅58cm×奥行45cm。

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