広報活動

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2015年3月11日

理化学研究所

星の「ストレス発散」で飛び散ったプラズマの拡散過程を観測

- 世界最高のX線望遠鏡で天文単位の超精密写真判定 -

要旨

理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター放射光イメージング利用システム開発ユニットの武井大 基礎科学特別研究員を中心とする共同研究グループは、「新星[1]」爆発の衝撃波によって加熱された高温プラズマが宇宙で拡散する様子を初めて捉えました。

星は進化の過程で新星と呼ばれる核爆発を起こします。表面のガスを数十年から数万年程度の周期で吹き飛ばし、言わば溜めたストレスを爆発で定期的に発散させています。爆発の際に起こる爆風が強い衝撃波を作れば、周りのガスをプラズマになるまで加熱しながら大きく広がります。その際、プラズマはX線を放射します。加熱された高温プラズマが拡散する様子は、爆発のメカニズムや宇宙の歴史を探るための重要な鍵となります。しかし、これまで新星の爆風が広がる様子を示す明確な証拠がありませんでした。なぜなら、新星の場合は規模が小さいため爆風による痕跡の観測が難しく、さらに爆風が広がる過程を追うには、最低でも2枚の鮮明なX線写真を十分な期間をあけて撮影する必要があるからです。

共同研究グループは、1901年に新星爆発を起こした「ペルセウス座GK[2]」に着目しました。ペルセウス座GK は、2000年に米国のチャンドラX線観測衛星[3]に搭載されたX線望遠鏡で撮影された写真に、衝撃波で過熱された高温プラズマの痕跡(X線)が検出されています。共同研究グループは2013年に同望遠鏡で追従観測し、高温プラズマが広がる様子を捉えることに成功しました。そして、2000年に撮影された写真と比較した結果、地球から約1,500光年の距離にあるペルセウス座GKの爆風が、ガスの温度を約100万度に維持しながら、14年間で0.01光年(約900億km)ほど広がったことを突き止めました。

これにより、新星が宇宙に及ぼす影響の理解がさらに進むと期待できます。本研究は、米国の科学雑誌『The Astrophysical Journal』オンライン版(3月10日付け)に掲載されます。

※共同研究グループ

理化学研究所 放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門 ビームライン基盤研究部 放射光イメージング利用システム開発ユニット
基礎科学特別研究員 武井 大(たけい だい)

ハーバード・スミソニアン天体物理学センター
研究員 Jeremy J. Drake(ジェレミー・ジェイ・ドレーク)
研究員  Patrick Slane(パトリック・スレーン)

アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター
研究員 山口 弘悦*(やまぐち ひろや)

立教大学理学部物理学科
准教授 内山 泰伸(うちやま やすのぶ)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
開発員 勝田 哲*(かつだ さとる)

*理研仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 客員研究員

背景

今から約400年前、デンマークの天文学者ティコ・ブラーエ(1546~1601年)は夜空で急激に明るく輝き始める星を「新星」と名付けました。現在では、新星は新たに星が産まれるのではなく、星が爆発して明るくなる現象と考えられています。さらに、爆発の規模や機構の違いから「超新星[4]」、「新星」、「矮新星」など細かく分類されるようになりました。なかでも有名な超新星は、星が中心部から一気に吹き飛ぶ巨大な核爆発です。爆風は強い衝撃波を作り、周りのガスをプラズマになるまで加熱しながら大きく広がります。その際、プラズマはX線を放射します。爆発の様子は、電波からガンマ線まで幅広い波長の望遠鏡を使って観測され、詳細に研究が進められてきました。

一方、新星は超新星に比べると小型の核爆発です。ある星は進化の過程で新星を起こし、表面に堆積したガスを数十年から数万年程度の周期で吹き飛ばし、言わば溜めたストレスを爆発で定期的に発散させています。新星は、地球を含む天の川銀河でも年に数回以上という高い頻度で発見されるため、アマチュア天文家の間で高い人気があります。

超新星と新星は異なる現象ですが、爆風によって生じる衝撃波の振る舞いは1つの理論で説明できると考えられてきました。しかし、新星の場合は規模が小さいため爆風による痕跡の観測が難しく、鮮明なX線写真が撮影できる天体は現時点で数例しかありません。新星のX線写真から衝撃波で加熱される高温プラズマが広がる様子を観測できれば、観測結果を理論と比較することで爆発の全体像がつかめると予想されていました。

研究手法と成果

共同研究グループは1901年に新星爆発を起こした「ペルセウス座GK」に着目しました。ペルセウス座GKは、新星爆発で飛び散ったガスの残骸が可視光望遠鏡[5]で最も大きく観測されている天体です(図1)。2000年に米国のチャンドラX線観測衛星に搭載された世界最高の撮像能力を持つX線望遠鏡で撮影された写真には、衝撃波で過熱された高温プラズマの痕跡(X線)が検出されていました。そこで、同望遠鏡で再び観測すれば、爆風が広がる様子やプラズマの変化を観測できると考えました。2013年に追従観測した結果、世界で初めて衝撃波で過熱された高温プラズマが広がる様子を捉えることに成功しました。

撮影した写真と2000年に撮影された写真を比較した結果、X線の放射領域が14年間で0.01光年(約900億km)ほど広がっていることが分かりました(図2)。これは、地球から約1,500光年(約1京4000兆km)離れた「ペルセウス座GK」の爆発に対して、約15万分の1という超高精度での測定に成功したことを意味します。測定結果から、爆風の速度が秒速300 km程度と推定できました。X線の色を調べたところ、プラズマの温度は約100万度で14年の間に顕著な変化は見られず、飛び散ったガスにはネオンの元素が比較的多く含まれていることも判明しました。さらにX線の明るさを見ると、爆発から14年間を経て明るさが約60%~70%になっていました。X線の明るさはプラズマの温度や密度に比例しますが、プラズマの温度に顕著な変化がないことから衝撃波で過熱された高温プラズマが拡散して14年の間に密度が薄くなった可能性が高いことを示しています。また、観測から求めた温度や密度、爆風の速度、爆発のタイムスケールなどを理論と照らし合わせ、爆発全体のエネルギーや飛び散ったガスの全体量を見積もることができました。

今後の期待

観測装置の性能が上がるにつれて、観測可能な宇宙の範囲は大きく広がってきました。今回の結果のように、今まで見えなかった現象が見えたことは、まさしく天文学の根源的な面白さであり目的ともいえます。共同研究グループは、他の新星でも同じような測定を行える可能性を求め、世界中の人工衛星や地上望遠鏡を駆使した新たな天体観測に挑んでいきます。

また、今後数年間で日本のX線観測体制は大幅な拡充が図られる予定です。2015年度には、日本で6番目のX線天文衛星となる「ASTRO-H」の打ち上げが予定されています。より精密なX線分光や広い視野の観測、高エネルギーX線・ガンマ線の高感度検出が可能になると期待できます。理研では、初の軟X線偏光観測を目指す新衛星の開発も進めています。

また、理研放射光科学総合研究センターは、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA[6]」や、全長が約1kmと世界最高水準の長尺放射光ビームライン[7]を所有しています。これらを使用すると、星の爆発のような遠い宇宙から地球に届くX線を擬似的に作り出すことも可能です。放射光イメージング利用システム開発ユニットではこれらを活用して、将来の天体観測も見据えたX線光学技術や光制御技術の基礎開発にも積極的に取り組んでいきます。

原論文情報

  • Takei, D., Drake, J. J., Yamaguchi, H., Slane, P., Uchiyama, Y., and Katsuda, S., "X-ray Fading and Expansion in the “Miniature Supernova Remnant” of GK Persei", The Astrophysical Journal

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門 ビームライン基盤研究部 放射光イメージング利用システム開発ユニット
基礎科学特別研究員 武井 大 (たけい だい)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 新星
    太陽のような恒星が年老いて水素燃料を使い果たした後に生成される天体(白色矮星)の表面で起こる核爆発。年老いた隣の星から水素のガスを取り込み、十分な量に到達すると核燃焼のサイクルに火がついて溜め込んだガスを吹き飛ばす。超新星と名前が似ているが爆発の機構は別物であり、超新星に比べて規模が小さいが発生する頻度は高い。1つの天体は数十年から数万年に1度しか爆発しないが、同様の天体が数多く存在するため、天の川銀河でも年に数回かそれ以上の爆発が、近年発見されている。
  2. ペルセウス座GK
    ペルセウス座にある天体で、地球から1,500光年ほど離れている。1901年に新星爆発を起こして表面に堆積していたガスを吹き飛ばした。飛び散ったガスは大きく広がり、その爆風による衝撃波で過熱されたプラズマがX線望遠鏡で観測されている。爆発から114年ほど経過した現在では、飛び散ったガスの外縁部は中心からの半径で約0.4光年にまで広がっている。
  3. チャンドラX線観測衛星
    1999年に米国のNASAが打ち上げた人工衛星。現時点で世界最高の空間分解能を持つX線望遠鏡を搭載し、銀河や超新星の残骸、ブラックホールなどの観測からこれまでに多くの成果を上げてきた。
  4. 超新星
    重い恒星が一生を終える際に起こす巨大な核爆発。飛び散ったガスが周りに強烈な衝撃波を形成し、その残骸によって過熱された高温のプラズマがX線で明るく輝く。新星に比べると規模は大きいものの発生する頻度は低い。天の川銀河では1604年に報告された「ケプラーの超新星」以来、約400年近く発見されていない。
  5. 可視光望遠鏡
    肉眼で見える波長付近の光をターゲットとする一般的な望遠鏡。X線望遠鏡では高温のプラズマが見えるが、可視光望遠鏡では低温のガスが見える。
  6. SACLA
    理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのX線自由電子レーザー(XFEL)施設。2011年3月に完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。諸外国と比べて数分の1というコンパクトな施設の規模にも関わらず、0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有する。
  7. 長尺放射光ビームライン
    理化学研究所と日本原子力研究所(当時)が共同で建設した第三世代放射光施設SPring-8にある理研物理科学I(BL29XUL)ビームライン。1kmの長いパイプでX線を導くことで、干渉性の高い光を作り出すことができる。

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新星爆発「ペルセウス座GK」の天体写真

図1 新星爆発「ペルセウス座GK」の天体写真

左:ペルセウス座全体の写真。赤丸がペルセウス座GK。可視光(撮影:デジタルスカイサーベイ)。

右:ペルセウス座GKの拡大写真。茶色が可視光(撮影:ハッブル宇宙望遠鏡)、マゼンタが電波(撮影:超大型干渉電波望遠鏡群)、青がX線(撮影:チャンドラX線観測衛星)の強度分布をそれぞれ示す。3つの望遠鏡で撮影した画像を重ね合わせている。

ペルセウス座GKの爆風先端部におけるX線強度分布の比較

図2 ペルセウス座GKの爆風先端部におけるX線強度分布の比較

2000年と2013年にそれぞれ撮影された2枚のX線写真から、ペルセウス座GKの放射領域の先端部分で位置と明るさを比較した。爆風が14年の間に0.01光年ほど広がったことが分かる。

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