広報活動

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2015年3月27日

理化学研究所

ヒト型多能性幹細胞の高効率樹立・安定維持技術を開発

-低分子化合物を用い、均質な高品質幹細胞樹立に成功-

Wnt阻害剤を用いて樹立したEpi幹細胞の分化多能性の図

Wnt阻害剤を用いて樹立したEpi幹細胞の分化多能性

マウスの着床前の胚である胚盤胞には、将来さまざまな細胞や組織に分化しうる多能性細胞が含まれています。この多能性細胞は子宮に着床後、エピブラストという細胞へと発達します。マウスエピブラスト幹細胞(Epi幹細胞)は、このエピブラスト細胞から作られる多能性幹細胞です。多能性幹細胞は未分化なナイーブ型と分化が進んだプライム型に分けられますが、マウスES細胞がナイーブ型であるのに対し、Epi幹細胞はプライム型です。また興味深いことに、Epi幹細胞は、マウスES細胞よりヒトES細胞やヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)に性質が近いのです。このため、ヒト型多能性幹細胞と呼ばれ、ヒトES細胞やヒトiPS細胞の特性を知るためのモデル細胞となっています。ただ、Epi幹細胞は樹立効率が低く、安定して維持することも困難でした。そこで、理研の研究者を中心とする共同研究グループは、Epi幹細胞を簡便に効率よく樹立でき、安定に維持できる培養法の開発に取り組みました。

共同研究グループは、細胞の増殖や分化を制御しているシグナル分子であるWntタンパク質が、ナイーブ型多能性幹細胞の未分化性を維持することに着目しました。Wntタンパク質の発現を阻害してナイーブ型多能性幹細胞の増殖を抑制すれば、プライム型のEpi幹細胞の形成が促進できるのではないかと考えました。そこで、Wntタンパク質の分泌を抑制する低分子化合物を添加してEpi幹細胞の樹立を試みたところ、従来0~20%程度だった樹立効率が90~100%に大幅に向上しました。通常のEpi幹細胞は、培養中に自発的に分化した細胞が混在するため、未分化性を維持したまま培養することが困難でしたが、Wntタンパク質の発現を阻害することで、分化細胞の出現が抑制され未分化状態を維持した均質なEpi幹細胞を得ることができました。また、分化抑制のための阻害剤を添加して樹立したEpi幹細胞は、阻害剤を除いて分化を誘導すると、多様な細胞へと分化することが可能で、分化多能性を維持していることを確認しました。

Epi幹細胞はヒト型多能性幹細胞であり、Wntシグナルの阻害が、ヒトES細胞やヒトiPS細胞の樹立や維持にも同様な効果をもつ可能性があります。開発した培養技術を用いて、ヒト-マウスに共通なプライム型多能性幹細胞の特徴や、ヒト、マウスそれぞれに独自な幹細胞の特性を明かにしていくことは、哺乳類発生プロセスに関する基礎的な理解をより深めるものと考えられます。

理化学研究所
バイオリソースセンター 疾患ゲノム動態解析技術開発チーム
チームリーダー 阿部 訓也 (あべ くにや)