広報活動

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2015年4月14日

理化学研究所
東京大学
東北大学

トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態の量子化を実証

-トポロジカル絶縁体を用いた低消費電力素子への応用に期待-

要旨

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの吉見龍太郎研修生(東京大学大学院工学系研究科博士課程)、十倉好紀グループディレクター(同研究科教授)、強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター(同研究科教授)、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループは、新物質のトポロジカル絶縁体[1]「(Bi1-xSbx)2Te3」薄膜を用いて、エネルギー損失なく電流が流れる「整数量子ホール効果[2]」を初めて観測し、トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態[3]の量子化を実証しました。

トポロジカル絶縁体は、内部は電流を流さない絶縁体状態ですが、表面は金属状態の物質です。表面の金属状態は、質量を持たないディラック電子[3]が存在するディラック状態です。このとき金属表面のディラック状態は量子化し、試料の端にエネルギー損失のない電流が流れる「整数量子ホール効果」が現れます。トポロジカル絶縁体はエネルギーをほとんど使わずに電気伝導が可能なことから、低消費電力素子への応用に向け研究が活発化しています。しかし、実際のトポロジカル絶縁体の内部では、結晶欠陥などによってわずかに電流が流れてしまい、表面のディラック状態だけの純粋な電気伝導を取り出すことは難しいとされていました。

共同研究グループは、トポロジカル絶縁体の1つ「(Bi0.12Sb0.88)2Te3」(Bi:ビスマス、Sb:アンチモン、Te:テルル)の高品質薄膜の作製手法を確立し、ほとんど結晶欠陥のない(内部に電流が流れることがない)薄膜の作製に成功しました。これを用いて電界効果型トランジスタ[4]構造を作製し、試料内部の電子数を少しずつ変化させながらホール抵抗を測定したところ、ホール抵抗が量子化抵抗値[5](約25.8kΩ=h/e2)で一定となり、試料に整数量子ホール状態になっていることを確認しました。さらに、外部電圧を制御することで、ディラック状態の整数量子ホール状態と絶縁的な状態を電気的に制御できることを示しました。この成果は、高速で低消費電力の素子への応用が期待できます。

本研究は、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)課題名「強相関量子科学」の事業の一環として行われ、成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(4月14日付け:日本時間4月14日)に掲載されます。

背景

近年発見された「トポロジカル絶縁体」は、内部が絶縁体状態でその表面が金属状態を示す物質です。金属状態の表面は、質量を持たないディラック電子が存在するディラック状態です。このとき金属表面のディラック状態は量子化し、試料の端にエネルギー損失のない電流が流れる「整数量子ホール効果」(図1)が現れます。これは、光学特性や熱特性、力学特性などに優れたナノ炭素材料「グラフェン[6]」にも見られるものです。このトポロジカル絶縁体表面のディラック状態により、従来の半導体に比べて、不純物などによる散乱を受けずに電流を流すことができます。この特性から、トポロジカル絶縁体は低消費電力素子としての応用が期待され、活発に研究されています。しかし、これまでの研究では、絶縁体であるはずの内部でも結晶欠陥などによってわずかに電流が流れてしまうことから、表面のディラック状態だけの純粋な電気伝導を取り出すことは困難でした。このため、整数量子ホール効果を確認したという報告はありませんでした。

そこで共同研究グループは、内部に結晶欠陥のないトポロジカル絶縁体を作製し、整数量子ホール効果の観測を目指しました。

研究手法と成果

共同研究グループは、トポロジカル絶縁体の1つ「(Bi0.12Sb0.88)2Te3」(Bi:ビスマス、Sb:アンチモン、Te:テルル)薄膜を、半導体材料のインジウムリン(InP)基板上に作製しました。その上に絶縁体酸化膜と電極材料を取り付けて、電界効果型トランジスタ構造としました(図2(a)、(b))。電界効果型トランジスタ構造にすることで、外部からの制御電圧を用いて、試料内部の電子数を連続的に変化させることができます。特に、ディラック状態では、電子の流れと正孔(電子が欠落した部分)の流れを電気的に制御できるかどうかが重要になります。

共同研究グループは、一定の磁場(14テスラ)下で制御電圧を変化させながらホール抵抗を測定しました。その結果、ある範囲の制御電圧領域でホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)で一定となりました。量子化抵抗が一定値を示すことは、(Bi0.12Sb0.88)2Te3薄膜が整数量子ホール状態になっていることを示しています(図2(c))。ホール抵抗が±h/e2と正と負の2つの値をとることはディラック電子であることの1つの特徴であり、電子と正孔の両方の流れを制御できたことを意味しています。

次に、電気抵抗の制御電圧依存性を調べました。整数量子ホール状態になっている領域では抵抗値が低い一方、2つの整数量子ホール状態の中間で高抵抗となっており、トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態に特有の特殊な絶縁体になることを見いだしました。この実験では、電気抵抗の値が1Vの外部電圧変化によって10倍に増大することを検出しました(図3)。

今後の期待

今回の成果によりトポロジカル絶縁体の表面ディラック状態の量子化を電気伝導手法で検出でき、外部電圧によって抵抗を制御できることが示されました。今後さらに改良することでより高抵抗な状態を作り出し、絶縁体状態でも情報などを伝達できる可能性の探索に向けて、新たな量子状態の研究が進むと考えられます。

また、既存の半導体技術とトポロジカル絶縁体特有のディラック状態が融合した、3端子デバイスの1つの例であり、今後、低消費電力素子への展開が期待できます。

原論文情報

  • R. Yoshimi, A. Tsukazaki, Y. Kozuka, J. Falson, J. G. Checkelsky, K. S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura., "Quantum Hall Effect on Top and Bottom Surface States of Topological Insulator (Bi1−xSbx)2Te3 Films", Nature Communications, doi: 10.1038/ncomms7627

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物性研究グループ
研修生 吉見 龍太郎 (よしみ りゅうたろう)(東京大学大学院工学系研究科博士課程2年)
グループディレクター 十倉 好紀 (とくら よしのり)(東京大学大学院工学系研究科教授)

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関界面研究グループ
グループディレクター 川﨑 雅司 (かわさき まさし)(東京大学大学院工学系研究科教授)

東北大学
金属材料研究所
教授 塚﨑 敦 (つかざき あつし)(理研客員主管研究員)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
広報室 永合 由美子
Tel: 03-5841-1790 / Fax: 03-5841-0529
kouhou [at] pr.t.u-tokyo.ac.jp (※[at]は@に置き換えてください。)

国立大学法人東北大学 金属材料研究所
総務課総務係 水戸 圭介
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imr-som [at] imr.tohoku.ac.jp (※[at]は@に置き換えてください。)

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. トポロジカル絶縁体
    近年発見された物質で、物質内部が絶縁体である一方、物質表面だけは金属であるという性質を持つ。今回の研究では、トポロジカル絶縁体としての性質を持つことが知られているBi2Te3とSb2Te3という2つの物質の混合物を用いた。
  2. 整数量子ホール効果
    磁場中を運動する電子にはローレンツ力が働き、電子の運動軌道が曲げられる。この効果をホール効果という。それによって生じる抵抗はホール抵抗、ホール抵抗が量子化する現象を量子ホール効果と呼ぶ。1980年にシリコンを用いた素子で初めて報告され、現在では抵抗標準値の基準に利用されている。整数量子ホール状態では、ホール抵抗が量子化抵抗(約25.8kΩ=h/e2hはプランク定数、eは電気素量)の1/2、1/3、1/4…と厳密に整数分の1になることが知られている。この時、試料の端にエネルギー損失のない「エッジ電流」が流れている。
  3. ディラック状態、ディラック電子
    光速に近い速度で動く電子は相対論的量子力学においてディラック方程式を用いて記述される。近年、固体中の電子にもディラック方程式に従って運動する高速な電子が存在することが分かってきた。固体中で質量を持たない電子をディラック電子と呼び、それらが存在する状態をディラック状態と呼ぶ。質量がなく、高いフェルミ速度を持つことから、高速で低消費電力の素子応用が期待されている。ディラック電子はトポロジカル絶縁体の表面金属状態のほかにも、グラフェンやビスマスなどでその存在が確認されている。
  4. 電界効果型トランジスタ
    半導体材料などに絶縁体材料と電極材料を取り付けた素子構造。取り付けた電極から制御電圧をかけることで、絶縁体材料を通して半導体材料中の伝導度(電荷密度)を変えることができる。制御電圧によって電流が流れる状態(オン)と流れない状態(オフ)を切り替えられるため、コンピュータの基本素子となっている。
  5. 量子化抵抗値
    プランク定数hと電気素量eを用いてh/e2と表される抵抗値で、約25.8kΩ(キロオーム)。整数量子ホール状態ではこの値の整数分の1になる。
  6. グラフェン
    炭素原子が蜂の巣状に二次元配列した構造を持つ物質。原子1層分の厚みしかない二次元シートであり、高速で動くディラック電子が存在すること、化学的、機械的な耐性に優れているといった理由からシリコンに代わる次世代材料として注目されている。2010年のノーベル物理学賞の対象にもなった。

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イメージ図

図1 トポロジカル絶縁体表面における整数量子ホール効果のイメージ

整数量子ホール効果では、試料の端にエネルギー損失のない電流が流れる。

電界効果型トランジスタ構造と整数量子ホール効果状態を示す電圧依存性の図

図2 電界効果型トランジスタ構造と整数量子ホール効果状態を示す電圧依存性

(a)トポロジカル絶縁体「(Bi0.12Sb0.88)2Te3を用いた電界効果型トランジスタ構造。

(b) 電界効果型トランジスタの光学顕微鏡写真。電気抵抗及びホール抵抗の測定箇所。

(c) 制御電圧によって試料内の電子数を変化させると、ある範囲の制御電圧領域でホール抵抗が量子化抵抗(約±25.8kΩ=h/e2)で一定となり変化しない整数量子化状態が観測された。

トポロジカル絶縁体薄膜の電気抵抗の制御電圧依存性の図

図3 トポロジカル絶縁体薄膜の電気抵抗の制御電圧依存性

制御電圧を0Vに調整した場合に観測される高い抵抗状態は特殊な量子状態である可能性が示唆されており、最低値から1Vの変化で約10倍高い抵抗値になることを見出した。

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