広報活動

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2015年4月22日

理化学研究所
東京大学大学院医学系研究科

哺乳類と爬虫類-鳥類は、独自に鼓膜を獲得

-2億年以上前の進化の痕跡を発生学実験で明らかに-

正常型と実験操作を施したマウスとニワトリの図

正常型(左)と実験操作を施した(右)マウスとニワトリ

陸上に棲む脊椎動物は、空気中の音を聴くときに、鼓膜で音の振動を受け取り、中耳骨を通して内耳の神経へ伝達しています。中耳骨は哺乳類では3個、爬虫(はちゅう)類-鳥類では1個あります。中耳骨は祖先となる動物の顎(がく)関節を構成していた骨から進化していることがこれまでに分かっています。この進化に関する一連の研究は、ある骨がまったく別の機能を持つようになった進化過程を復元したものとして「比較形態学の金字塔」と言われています。しかし、いつ、どのようなきっかけで、哺乳類系統が爬虫類-鳥類系統よりも多くの中耳骨をもつようになったのかは不明でした。理研と東京大学の研究者らの共同研究グループは、中耳骨に付着する鼓膜の発生に着目してこの謎の解明に挑みました。

共同研究グループは、まず、胚発生時に顎の前駆組織を下顎へと分化させる役割をもつ遺伝子の働きを抑える実験操作を行い、下顎の位置にも上顎の骨が発生するようなマウスとニワトリを作り出しました。マウスでは遺伝子ノックアウト技術を用い、遺伝子操作が難しいニワトリでは発生中の胚に薬剤を投与して作りました。これらの操作を受けたマウスとニワトリは、同じように本来下顎の骨要素が占める位置に上顎の骨要素が形成されていました。しかし、鼓膜に関してはマウスとニワトリで正反対の結果が出ました。なんと、マウスでは鼓膜がなくなり、逆にニワトリでは鼓膜が上下に重複していたのです。このことは、マウスでは下顎ができる領域で鼓膜が発生し、ニワトリでは上顎ができる領域で鼓膜が発生することを示しています。

今回の研究結果から、鼓膜は哺乳類と爬虫類-鳥類の共通祖先で獲得されたものではなく、哺乳類系統では下顎の領域に鼓膜を獲得し、それとは別に爬虫類-鳥類系統では上顎領域に鼓膜を獲得して、両系統でそれぞれ鼓膜と顎の位置関係を保持してきた、という進化過程が強く支持されました。また、顎関節の位置のわずかな違いが進化の分かれ道になり、その後の両系統の中耳や顎の骨の進化パターンに影響したものと推測できました。とくに哺乳類系統で、もともと下顎の骨だったものが中耳の骨に組み込まれていく進化は非常に重要なステップであり、これをもとに哺乳類が独自に獲得した聴覚や咀嚼(そしゃく)機能の進化などについても、発生学的なアプローチによる研究が進むものと予想されます。

理化学研究所
主任研究員研究室 倉谷形態進化研究室
主任研究員 倉谷 滋 (くらたに しげる)
元研究員 武智 正樹 (たけち まさき)(現 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野 テニュアトラック助教)