広報活動

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2015年5月18日

理化学研究所

DNA情報の変換ルールを人為的に改変

-多様なアミノ酸を高い効率でタンパク質に導入することが可能に-

生物の遺伝暗号の図

生物の遺伝暗号

医薬品や産業用酵素などのタンパク質の多くは、組換えDNA技術を用いて大腸菌で生産されています。ヒトのタンパク質は20種類のアミノ酸が結合してできており、体を作り、体の働きを担っています。DNAに含まれる情報を、タンパク質中のアミノ酸の並び方に変換するルールは「遺伝暗号」と呼ばれています。遺伝暗号は基本的には全ての生物で同じであり、これが、大腸菌にヒトの遺伝子を組み込んでヒトのタンパク質を生産することを可能にしています。しかし、生物の遺伝暗号には20種類のアミノ酸しか含まれないため、それ以外の有用な新規アミノ酸を含む組換えタンパク質の生産技術の開発が求められていましたが、実用レベルの生産量を実現するには到っていません。研究チームは生物の遺伝暗号を操作することで、この問題を解決しようと試みました。

DNAにはA、G、C、Tの4つの塩基があり、その中の3つの塩基が1つのまとまり(コドン)となって特定の意味を持ちます。コドンのうちTAA、TGA、TAGの3つは「終止コドン」といい、タンパク質の合成終了を意味しています。研究チームは、大腸菌のゲノムを改変することで、終止コドンの1つ「TAGコドン」を何の意味も持たないコドンに変えることに成功しました。TAGコドンで終わる遺伝子は大腸菌に約300個ありますが、あまり多くの遺伝子に改変を施すと生育を悪くする懸念があることから、生命活動の維持に重要な遺伝子95個に絞り、かつDNA修復機構を利用した結果、95個の遺伝子のTAGコドンを他の終止コドンに置き換えることができました。

研究チームは、血液の凝固を防ぐ薬品として使われている「ヒルジン」が硫酸基を持つアミノ酸を取り込むと効果が強まることに着目し、今回開発した大腸菌株を用いて硫酸化アミノ酸の取り込みを大きく改善することに成功しました。また、従来は新規アミノ酸の導入箇所を増やすことが難しいとされていた抗体Fab分子中の3カ所に、新規アミノ酸を導入することにも成功しています。いずれも従来の組み換えタンパク質生産技術では実現できなかったことで、遺伝暗号の改変によって初めて可能になりました。

遺伝暗号という、生物にとって最も基本的な性質が人為的に改変できることが明らかになりました。また、抗体を活用した医薬品は次世代の医薬品として有望視されていますが、その抗体にも自由に新規アミノ酸を導入して機能を高度化できる可能性を示しました。今後、有用なタンパク質の開発・生産につながる技術であり、とくに、タンパク質性医薬品の分野で注目される技術になると考えられます。