広報活動

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2015年5月21日

理化学研究所
マックスプランク研究所
インペリアルカレッジロンドン

腸管免疫システムにおけるレクチンの新たな機能を発見

-結核菌の糖鎖の認識様式を解明-

要旨

理化学研究所(理研)グローバル研究クラスタ糖鎖構造生物学研究チームの山口芳樹チームリーダー、マックスプランクコロイド界面研究所のピーター・シーバーガー所長、インペリアルカレッジロンドン糖鎖科学研究室のテン・フェイジ教授ら国際共同研究グループは、ヒト腸管に存在するレクチン[1]「ZG16p」が結核菌の糖鎖である「ホスファチジルイノシトールマンノシド(PIM)」[2]と結合することを発見し、ZG16pとPIMの相互作用を原子レベルで捉えました。

膵臓や腸管に存在するZG16pは、マンノース[3]ヘパリン[4]の2種類の異なったタイプの糖鎖と結合するユニークな性質が知られています。しかし、これまでZG16pが生体内でどのような役割を果たしているのかよく分かっていませんでした。

そこで、国際共同研究グループは、微生物由来の糖鎖を固定化した糖鎖マイクロアレイ[5]を利用してZG16pの糖鎖結合特異性を調べました。その結果、ZG16pが結核菌の細胞壁に存在する糖脂質のPIMと結合することが分かりました。さらに、PIMの化学合成を行いZG16pとの相互作用をNMR法により解析したところ、ZG16pがマンノース結合部位を活用してPIMと特異的に結合することを解明しました。

今回の研究成果は、腸管免疫システムにおけるレクチンの生理的機能を理解するための重要な知見であるとともに、腸管免疫を調節するレクチンを用いた医薬品の開発、結核菌の診断・検出など、薬学・医療分野への応用が期待できます。

本研究は、欧州の科学雑誌『ChemBioChem』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(4月28日付け:日本時間4月27日)に掲載されました。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 グローバル研究クラスタ 糖鎖構造生物学研究チーム
チームリーダー 山口 芳樹 (やまぐち よしき)
客員研究員 花島 慎弥 (はなしま しんや)(大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻 学際化学講座 生体分子化学研究室講師)

マックスプランクコロイド界面研究所
所長 Peter Seeberger (ピーター・シーバーガー)
研究員 Sebastian Götze (セバスチャン・ゲッツエ)

インペリアルカレッジロンドン 糖鎖科学研究室
教授 Ten Feizi (テン・フェイジ)
プロジェクトリーダー Yan Liu (ヤン・リュウ)

お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系
准教授 相川 京子  (あいかわ きょうこ)

背景

膵臓や腸管に存在するレクチン「ZG16p」は、植物に由来するレクチンのジャカリンとアミノ酸配列において相同性[6]があることが知られていました。ジャカリンは糖と結合するレクチンとして知られており、そのため、ZG16pも同様に糖と結合する能力をもつことが予想されていました。最近の研究では、ZG16pはマンノースとヘパリンの2種類の異なったタイプの糖リガンドと結合するユニークな性質をもっていることが分かっています。さらにZG16pは哺乳動物のレクチンとしては非常に珍しいベータプリズム型[7]の立体構造を持つことが最近明らかになりました。しかし、このように特徴的な糖結合性と立体構造をもつZG16pが、ヒトの生体内でどのような役割を果たしているのかは、よく分かっていませんでした。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、微生物由来の糖鎖を固定化した糖鎖マイクロアレイを利用してZG16pの糖鎖結合特異性を調べました。その結果、ZG16pは結核菌の細胞壁に豊富に存在する糖脂質のホスファチジルイノシトールマンノシド(PIM)と結合することが分かりました。さらに、化学合成したPIMを用いて、ZG16pとの相互作用を安定同位体を用いたNMR法により解析しました。その結果、ZG16pはマンノース結合部位を活用してPIMと特異的に結合していることを解明しました(図1)。これまで明らかになっているヘパリン結合部位とPIM結合部位は異なる領域に存在することから、ZG16pはヘパリン結合性を利用して腸管に局在し、一方で、マンノース結合性を利用して表面にPIMを持つ結核菌などの細菌と結合して、その働きを抑制する機能をもつことが予想されます。

今後の期待

今回の研究成果は、これまで不明な点が多かった腸管免疫システムにおけるレクチンの生理的機能を理解するための重要な知見となります。また、腸管免疫を調節するレクチン医薬品の開発、結核菌をはじめとする細菌感染の診断・治療など、薬学・医療分野への応用が期待されます。

原論文情報

  • Shinya Hanashima, Sebastian Götze, Yan Liu, Akemi Ikeda, Kyoko Kojima-Aikawa, Naoyuki Taniguchi, Daniel Varón Silva, Ten Feizi, Peter H. Seeberger and Yoshiki Yamaguchi, "Defining the interaction of human soluble lectin ZG16p and mycobacterial phosphatidylinositol mannosides", ChemBioChem, doi: 10.1002/cbic.201500103

発表者

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 理研-マックスプランク連携研究センター システム糖鎖生物学研究グループ 糖鎖構造生物学研究チーム
チームリーダー 山口 芳樹 (やまぐち よしき)

マックスプランク コロイド界面研究所
所長 Peter Seeberger (ピーター・シーバーガー)

インペリアルカレッジロンドン 糖鎖科学研究室
教授 Ten Feizi (テン・フェイジ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. レクチン
    糖と結合するタンパク質のこと。ジャカリン、ZG16pもレクチンの1種である。
  2. ホスファチジルイノシトールマンノシド(PIM)
    結核菌などの細菌表面に見出される糖脂質の1種。ヒトには存在しないことから、異物として免疫システムにより認識される。
  3. マンノース
    天然に広く存在する単糖の1種。ヒトから微生物や細菌の糖鎖中に見出される。
  4. ヘパリン
    硫酸化を受けた糖鎖(多糖)のこと。細胞表面に存在しており、その負電荷を利用してさまざまなタンパク質と結合する。血液凝固を阻害する作用をもつことで有名である。
  5. 糖鎖マイクロアレイ
    さまざまな種類の糖鎖をアレイ状に基盤に固定したもの。レクチンの糖鎖結合の特異性を調べるために用いる。
  6. 相同性
    タンパク質間のアミノ酸配列の類似度を表す指標の一つ。アミノ酸配列の相同性が高い場合、そのタンパク質は似た機能をもつ場合が多い。
  7. ベータプリズム型
    タンパク質のとり得る立体構造の1種。3枚のβシートが3角柱のように配置していることからそのように名付けられた。

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ZG16pが結核菌の糖鎖PIMを認識する様子の図

図1 ZG16pが結核菌の糖鎖PIMを認識する様子

PIMのマンノース残基がZG16pのポケットと相互作用している。

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