広報活動

Print

2015年7月1日

理化学研究所
大阪大学
東京大学
科学技術振興機構

固体中で非局所量子もつれを実証

-量子計算機等の基盤となるもつれ電子対発生器の実現へ大きな一歩-

開発したナノデバイスの概念図

量子力学というと、扱う対象が原子や電子、中性子、陽子、光子、イオンなどなど。出てくる科学者も、育ての親がボーアで、シュレディンガー、ハイゼンベルグと続くとなると、ちょっと近寄りがたい学問のようにみえます。しかし、半導体を利用した電子機器に使われている技術のほとんどが量子力学を基礎になり立っていると聞けば、少しは身近に感じるかも知れません。 量子力学が対象とする現象の1つに「非局所性量子もつれ」があります。「もつれ」といっても恋愛とは違い、量子の場合は結構スッキリしていて、複数の粒子が量子力学的に説明できる相関によって結合している状態を指します。そのうち、相関をもつ2つの粒子が空間的に離れている場合を非局所量子もつれと呼びます。この「もつれた状態」にある2つの粒子は、空間的に離れていても、1つの粒子に対する測定が、瞬時に残りの粒子に影響します。この現象は、片方の粒子状態の情報を遠く離れたもう片方の粒子に復元する「量子テレポーテーション」の実験などで実証されています。しかし、これまで、非局所量子もつれを固体デバイス中で生成することは実現していません。これは、固体の中の電子は乱れた環境にあり、もつれ電子対を1つだけ生成してそれを空間分離することが難しいためです。

理研の研究者を中心とした共同研究グループは、超伝導体中のクーパー対から1つのもつれ電子対を取り出し、電子対を構成する2つの電子を2つの量子ドット(電子を閉じ込めるナノメートルサイズの箱のような微小空間)に、それぞれ分離する新しいナノデバイスを開発しました。このデバイスを流れる電流は、単一電子ではなく非散逸な超伝導電流としてもつれ電子対によって運ばれます。それぞれの量子ドットは十分に小さく、1つのドットを2つの電子が占有しにくくなります。その結果、2つのドットにクーパー対の2つの電子が分離する過程を介して超伝導電流が流れるようになります。これを「クーパー対の非局所性のトンネル効果」と呼び、実験の結果、超伝導電流が観測されました。これによって、2つの電子が空間分離して各ドットを通過(トンネル)する際に、非局所量子もつれを維持していることが初めて明らかになりました。ゲート電極でそれぞれの量子ドットを独立に制御して、各ドットの単一電子トンネルをオン/オフすることで、非局所伝導のオン/オフにも成功しました。

この成果は、量子計算機や量子通信などの基盤となる「もつれ電子対発生器」の実現に向けた重要なステップとなり、固体素子中で量子もつれを研究するという新しい機会を拓く成果といえます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子機能システム研究グループ
グループディレクター 樽茶 清悟 (たるちゃ せいご)
(東京大学大学院工学系研究科 教授)

創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子効果デバイス研究チーム
研究員 Russell Stewart Deacon (ラッセル・スチュワート・ディーコン)