広報活動

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2015年7月7日

理化学研究所

光による磁気弾性波の発生と磁区の駆動に成功

-光による高速磁気メモリ制御の実現へ前進-

図

磁気弾性波発生の模式図と磁区駆動の磁気光学顕微鏡写真

従来の磁気メモリーデバイスは、電流をコイルに流して磁界を発生させ、磁性体の磁化の向きを反転させてデータを書き換えるものでした。しかし、磁気メモリの構造の微細化・高密度化に伴って消費エネルギーが増大する問題が出てきています。このため、金属磁性体の「磁区」と呼ばれる磁化の向きが一様にそろった領域とそれに隣接する領域の間の境界領域である「磁壁」を、電子スピンを注入することによって駆動し、磁化を反転させてデータ書き換えを行おうとする試みが行われています。しかし、この方法は、電流の流れない磁性絶縁体には不向きです。そこで、金属磁性体、磁性絶縁体の双方に適用できるスピン波(電子スピンの整列の乱れが、スピン間の相互作用によって結晶内を伝わっていく波)を使い、磁化の反転や磁壁の駆動を可能にして省エネデバイスを作ろうという動きが出てきました。

理研の研究チームは、パルス幅が約百フェムト秒(100兆分の1秒)のフェムト秒レーザーを磁性絶縁体である「鉄ガーネット薄膜」に照射し、スピン波と結晶中の原子の振動の結合波である「磁気弾性波」を発生させることに成功しました。フェムトレーザーの波長は、鉄ガーネット薄膜が吸収しない近赤外線領域のため、光吸収によるエネルギー消費がありません。薄膜中の磁気弾性波は時間分解磁気光学顕微鏡で観測し、連続写真として撮影しました。発生した磁気弾性波は伝搬速度と空間パターンの異なる波から構成されており、ギガヘルツ(1GHzは109Hz)の周波数で振動するスピン波としての性質を持つことが分かりました。光の吸収を介さずに高速かつ局所的にスピン波を生成する方法と言えます。次に、同サイズの磁気構造との相互作用を観測したところ、磁気弾性波と磁壁との間に引力が働き磁区を駆動できることが分かりました。磁壁の形状を変えて観測した結果、磁壁の曲がり方が大きいほど、磁気弾性波と磁壁、磁区の相互作用が大きくなることが明らかになりました。また、理論式に磁壁の曲率を取り込むことで、磁壁、磁区の動作を定性的に説明できることが分かりました。これは、より小さく複雑な磁気構造についてもスピン波との相互作用を理論的に予測できることにつながります。

今回の研究で、光を用いて磁性絶縁体中の磁壁、磁区を高速化かつ局所的に操作できることを示しました。さまざまな磁性体中で、スピン波と磁壁、磁気スキルミオンなどトロポジカルな磁気構造との相互作用をリアルタイムで観測することによって、次世代磁気デバイスの基礎をとなる知見が得られると期待できます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物性研究グループ
グループディレクター 十倉 好紀 (とくら よしのり)
上級研究員 小川 直毅 (おがわ なおき)