広報活動

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2015年7月15日

理化学研究所

ミナトカモジグサとコムギの蓄積代謝物の共通点と相違点を解明

-草本バイオマス研究と麦類研究を加速させる研究基盤を提供-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターのセルロース生産研究チームの持田恵一チームリーダーと恩田義彦特別研究員らの研究グループは、モデル実験植物として注目されるミナトカモジグサに主要作物であるコムギなどの植物の形態的特徴から定義される生育スケールを適用し、ミナトカモジグサとコムギの生育段階をそろえることで、同一の生育過程、環境ストレス下で蓄積代謝物を比較することを可能とし、両者の共通点と相違点を明らかにしました。

人口増加や環境変動による食糧問題を受けて、人類の主要なカロリー源であるコムギやイネ、トウモロコシといった主要作物の生産性の向上が期待されています。同時に、二酸化炭素の排出削減を目指して、植物バイオマス資源として利用されるイネ科草本植物[1]の生産性の向上も期待されています。これらの研究を効率的に進めるためのモデル実験植物として、イネ科草本植物で栽培が容易なミナトカモジグサが注目されています。しかし、種や系統の違いによって生育速度が異なるため、正確な比較のためには生育段階を定義した生育スケールが必要でした。

そこで研究グループは、コムギをはじめとする植物の形態的特徴を基準に定義された生育スケールを、ミナトカモジグサに適用しました。種子から芽生え、開花、そして結実といった植物の一生に渡る生育段階を調べたところ、ミナトカモジグサにおいても生育スケールが十分利用可能であることが分かりました。次に、この生育スケールを用いて定義したいくつかの生育段階と、温度などの環境ストレス条件下別に、ワイドターゲットメタボローム解析[2]によるミナトカモジグサとコムギの蓄積代謝物の網羅的な比較を行い、共通点と相違点を明らかにしました。ミナトカモジグサとコムギの間で、蓄積代謝物に多くの共通点があったことから、ミナトカモジグサがコムギなどの麦類を研究するためのモデルとして適していると考えられます。この研究で定義したミナトカモジグサの生育スケールは、世界中の誰もが利用できるようイメージライブラリーとしてインターネット上に公開しました注1)

研究グループが作成したイメージライブラリーは、異なる施設やプロジェクトで収集されたミナトカモジグサの実験データを比較や統合することに役立ち、草本バイオマス研究分野の世界的な発展に大きく貢献するものです。また、ミナトカモジグサとコムギの蓄積代謝物のデータ比較が進むことで、モデル実験植物と主要作物の研究の橋渡しとして利用され、麦類の基礎研究の発展にも貢献することが期待できます。

本研究は、理研の最先端研究基盤事業 植物科学最先端研究拠点ネットワークの一環として実施しました。成果は、英国の科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B』オンライン版(7月8日付け)に掲載されました。

注1) 「イメージライブラリー」

※研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター
バイオマス工学研究部門
セルロース生産研究チーム
チームリーダー 持田 恵一(もちだ けいいち)(機能開発研究グループ 上級研究員)
特別研究員 恩田 義彦(おんだ よしひこ)

バイオマス基盤研究チーム
チームリーダー 篠崎 一雄(しのざき かずお)(機能開発研究グループ グループディレクター)

技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット
上級研究員 豊岡 公徳(とよおか きみのり)
テクニカルスタッフⅡ 橋本 恵(はしもと けい)

統合ゲノム情報研究ユニット
ユニットリーダー 櫻井 哲也(さくらい てつや)
テクニカルスタッフⅠ 吉田 拓広(よしだ たくひろ)

代謝システム研究チーム
チームリーダー 平井 優美(ひらい まさみ)
研究員 澤田 有司(さわだ ゆうじ)

背景

人口増加と気候変動による食糧問題は、私たちが直面している喫緊の課題です。国際連合の報告では、2050年には世界人口が90億人に到達すると予想され注2)、現在の1.7~2.0倍の食糧生産が必要であるとも試算されています注3,4)。また、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書注5)」では、気候システムの温暖化は疑う余地が無く、温室効果ガスの削減に向けた取り組みが求められています。このような状況を受けて、人類の主要なカロリー源であるコムギやオオムギ、イネ、トウモロコシといった主要穀物の生産性を向上させることや、大型の草本植物などの非食用植物をバイオマス資源として利用することが期待されています。これらの主要穀物やバイオマス資源植物の多くはイネ科に分類されますが、室内での栽培や実験には不向きです。そこで、イネ科植物としての生物学的な特徴と実験植物としての扱いやすさを併せ持つモデル実験植物が待ち望まれていました。

ミナトカモジグサは、コムギやオオムギと同じくイネ科イチゴツナギ亜科に属する草本植物で、植物のサイズが小さく実験室内で簡単に栽培することができるため、麦類研究と草本バイオマス研究のモデル実験植物として注目されています。理研では、ミナトカモジグサの種子を研究リソースとして提供注6)、遺伝子材料である完全長cDNA[3]の整備や提供注7,8)といった、ミナトカモジグサを対象とした研究の基盤整備を進めてきました。ミナトカモジグサのモデル実験植物としての利用性をさらに高めるためには、生育スケールの定義が有用です。異なる施設やプロジェクトで収集されたミナトカモジグサの実験データの比較や統合を行うためには、実験に用いた生育段階の基準である生育スケールが必要です。また、ミナトカモジグサの生育段階と応用対象となるコムギの生育段階をそろえて研究することで、モデル実験植物から得られた知見を応用研究に利用しやすくなると考えられます。

注2) United Nations. World Population Prospects: The 2012 Revision, United Nations, New York, 2013.
注3) World Bank. World Development Report 2008: Agriculture for Development, World Bank, Washington, DC, 2008.
注4) Royal Society. Reaping the benefits: Science and the sustainable intensification of global agriculture, Royal Society, London, 2009.
注5) IPCC. Climate Change 2014: Synthesis Report. Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC, Geneva, Switzerland, 2014.
注6) 2013年4月5日のトピックス「イネ科のモデル実験植物「ミナトカモジグサ」の種子を8日から提供
注7) 2013年10月10日のプレスリリース「モデル実験植物ミナトカモジグサの遺伝子構造を9,000カ所以上刷新
注8) 2013年10月10日のトピックス「ミナトカモジグサの遺伝子材料(完全長cDNA)を10日から提供

研究手法と成果

研究グループは、植物の形態的特徴を基準に定義された生育スケールをミナトカモジグサに適用しました。ミナトカモジグサと主要作物であるコムギについて、種子から芽生え、開花、そして結実といった植物の一生に渡り、生育スケールを基準に比較しました(図1)。その結果、適用した生育スケールはミナトカモジグサにおいても十分利用可能であることが分かりました。

さらに、ミナトカモジグサについて、様々な生育段階を、誰でも同じ基準で同定できるようにするためのイメージライブラリーを作成し、公開しました(図2)。

研究グループは、麦類研究におけるミナトカモジグサのモデル実験植物としての適性を調べました。具体的には、ミナトカモジグサとコムギについて、生育スケールと作成したイメージライブラリーを用いて同定したいくつかの異なる生育段階、もしくは、同一の生育段階での低温・高温・塩ストレス条件下での蓄積代謝物を網羅的に測定し、比較しました。ワイドターゲットメタボローム解析を実施した結果、最大で517個の代謝物の一斉検出に成功し、そのうち生育段階ごとに182個、ストレス条件ごとに145個の蓄積代謝物についてより詳細に解析しました。具体的には、生育段階ごとの蓄積代謝物の量的な変動をミナトカモジグサとコムギで比較し、共通に蓄積される代謝物と特異的に蓄積される代謝物を明らかにしました。さらに、低温・高温・塩ストレス条件下におけるワイドターゲットメタボローム解析により、各ストレスに応答して、ミナトカモジグサとコムギで共通に蓄積される代謝物などを見つけることに成功しました。

研究グループは、ミナトカモジグサの生育スケールについて閲覧可能なイメージライブラリーをインターネット上に公開しました。また、ワイドターゲットメタボローム解析で得られたデータもあわせて公開注9)しました。ミナトカモジグサとコムギの網羅的なメタボローム解析データを公開したことで、草本バイオマス植物や麦類におけるさらなる基礎研究や育種研究を行うための研究基盤になると考えられます。

注9) 「Platform for RIKEN Metabolomics:PRIME

今後の期待

研究グループが作成したイメージライブラリーは、異なる施設やプロジェクトで収集されたミナトカモジグサの実験データの比較や統合を実現し、草本バイオマス研究分野の世界的な発展に貢献するものです。また、ミナトカモジグサとコムギの蓄積代謝物のデータ比較が進むことで、モデル実験植物と主要作物の研究の橋渡しとして利用され、麦類の基礎研究の発展等にも貢献することが期待できます。

原論文情報

  • Yoshihiko Onda, Kei Hashimoto, Takuhiro Yoshida, Tetsuya Sakurai, Yuji Sawada, Masami Yokota Hirai, Kiminori Toyooka, Keiichi Mochida and Kazuo Shinozaki, "Determination of growth stages and metabolic profiles in Brachypodium distachyon for comparison of developmental context with Triticeae crops", Proceedings of the Royal Society B, doi: 10.1098/rspb.2015.0964

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門 セルロース生産研究チーム
チームリーダー 持田 恵一 (もちだ けいいち)
特別研究員 恩田 義彦 (おんだ よしひこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 草本植物
    地上部にある茎の生存期間が短く、木化や肥大成長することがほとんどない植物。くさ。大型草本植物には、ネピアグラス、エリアンサス、ミスカンサスなどが含まれる。
  2. ワイドターゲットメタボローム解析
    細胞内の目的の代謝産物を網羅的に個別に定量して解析すること。現在では、アミノ酸などの一次代謝物と、フラボノイドなどの二次代謝物を合わせて、最大700化合物程度の検出が可能となっている。この方法は、非ターゲット解析と比べて、多検体処理に向いており、定量性の高い解析ができる利点がある。
  3. 完全長cDNA
    cDNAとは、ゲノムDNAのうちタンパク質をコードする配列のみの遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。cDNAはmRNAから作られるが、その際mRNAの全ての領域をカバーできずに不完全なものになることが多い。完全長cDNAは、mRNAの全領域をカバーするように作られているため、その配列情報からは遺伝子の完全な構造がわかり、そのクローンを翻訳してタンパク質を合成したり、遺伝子機能を細かく調べたりすることができる。

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ミナトカモジグサの一生の図

図1 ミナトカモジグサの一生

ミナトカモジグサを室内で栽培した場合、およそ3ヶ月で一生を終える。種子から芽生え、開花、そして結実といった植物の一生に渡る各生育段階が分かるようなイメージライブラリーを作成した。

イメージライブラリーの図

図2 イメージライブラリー

研究グループが作成したイメージライブラリーの一部。ミナトカモジグサの一生に渡って定義されている生育スケールについて、その生育段階の植物の様子を写真で参照できるようになっている。
イメージライブラリー」で公開している。

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