広報活動

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2015年10月27日

理化学研究所

かび毒テヌアゾン酸の生合成遺伝子を同定

―新しいタイプの二次代謝産物生合成酵素を発見―

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターケミカルバイオロジー研究グループの尹忠銖(ユン・チュンス)研究員、本山高幸専任研究員、長田裕之グループディレクターらの研究チームは、かび毒[1]の1つテヌアゾン酸[2]の生合成遺伝子を同定し、テヌアゾン酸が新しいタイプの二次代謝産物生合成酵素[3]で作られていることを発見しました。

テヌアゾン酸はかび毒として知られる化合物(二次代謝産物[3])で、植物病原糸状菌[4]Alternaria(アルタナリア)[5]から発見され、1957年に報告されています。その後、テヌアゾン酸はAlternariaだけでなくイネいもち病菌[6]など多くの植物病原糸状菌が生産することが明らかになっています。テヌアゾン酸はタンパク質の合成を阻害し、植物毒として作用したりします。一方で、抗腫瘍、抗バクテリア、抗ウイルス活性を示すことも報告されています。テヌアゾン酸などのかび毒の制御を行うためには、その生合成遺伝子を同定することが重要です。テヌアゾン酸は、その構造から既知の二次代謝産物生合成酵素と類似の酵素により作られると予想されていましたが、この予想に基づく生合成遺伝子の探索は成功していませんでした。

研究チームは、イネいもち病菌でテヌアゾン酸の生産が誘導される条件を2つ見いだし、この条件下で共通して発現誘導される二次代謝遺伝子を探索しました。その結果、テヌアゾン酸の生合成遺伝子の同定に成功しました。同定した遺伝子は新しい機能特性を持つ二次代謝産物生合成酵素をつくる遺伝子で、組換え酵素を調製し解析することなどにより、同酵素がテヌアゾン酸の生合成を担う酵素であることを証明しました。テヌアゾン酸生合成遺伝子と類似の遺伝子はさまざまな病原性糸状菌やキノコのゲノム中にも存在し、これらの遺伝子はテヌアゾン酸や類似の化合物の生合成に関与していると考えられます。

今回の成果により、テヌアゾン酸の生産制御ができるようになり、生理活性を持つ新規の二次代謝産物の創製が可能になることが期待できます。

本研究は、農林水産省の農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(研究課題「ケミカルバイオロジーを基盤とした農薬等の探索研究」(研究統括:長田裕之))などの支援を受けて行われ、国際科学雑誌『Nature Communications』(10月27日付け)に掲載されます。

背景

テヌアゾン酸はかび毒として知られる化合物(二次代謝産物)で、植物病原糸状菌Alternaria (アルタナリア)から単離・同定され、1957年に初めて報告されました。Alternariaは世界中に広く分布しており、さまざまな穀物や果物などに被害を及ぼしています。テヌアゾン酸はAlternariaが感染した植物から検出されてきましたが、その後、イネいもち病菌などの多くの植物病原糸状菌がテヌアゾン酸を生産することが明らかになっています。テヌアゾン酸はタンパク質の合成を阻害し、植物毒として作用したりします。一方、抗腫瘍、抗バクテリア、抗ウイルス活性なども報告されています。

テヌアゾン酸など、かび毒の制御を行うためには生合成遺伝子を同定することが重要です。テヌアゾン酸は、これまでの生合成メカニズム研究から、イソロイシン(アミノ酸の1種)と酢酸を材料として作られることが示されていました。またテヌアゾン酸の構造から、糸状菌型のPKS-NRPS融合酵素(ポリケタイド合成酵素(PKS)と非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)の融合酵素)[7]がテヌアゾン酸をつくっていると予想され、この予想に基づく生合成遺伝子の同定の試みがされてきましたが、同定には至っていませんでした。

研究手法と成果

研究チームは、テヌアゾン酸生合成遺伝子を同定するための材料として、テヌアゾン酸を特定の条件でのみ生産するイネいもち病菌を用いました(図1)。まず、イネいもち病菌のゲノム中には糸状菌型のPKS-NRPS融合酵素をつくる遺伝子が6個存在するため、それぞれの遺伝子を一つずつ欠損させた株を作製しましたが、テヌアゾン酸の生産能を失うものはありませんでした。この結果から、テヌアゾン酸は糸状菌型のPKS-NRPS融合酵素でつくられていないことが明らかになりました。そこで、方針を変え、テヌアゾン酸の生産誘導条件を見つけて、この条件下で発現上昇する遺伝子の中から生合成遺伝子を探すことにしました。

テヌアゾン酸を含む二次代謝産物は特定の環境条件で生産誘導されます。そこで環境変化への適応に関与する情報伝達系因子の1つ「OSM1[8]」の遺伝子を欠損させたところ、テヌアゾン酸の生産が誘導されました。また、化合物添加によるテヌアゾン酸の生産誘導を試みる課程で、溶媒のジメチルスルホキシドが生産を誘導することも分かりました。このテヌアゾン酸を生産誘導する2つの条件下で共通して発現誘導される二次代謝産物生合成酵素の遺伝子をDNAマイクロアレイ解析により探索したところ、1つの遺伝子が見つかりました。そこで、この遺伝子を欠損させたところ、ジメチルスルホキシド存在下でもテヌアゾン酸を生産しなくなったことから、この遺伝子がテヌアゾン酸生産に関与することが明らかになり、「TAS1(tenuazonic acid synthetase 1)」と名付けました。一方、TAS1遺伝子を大量発現させたところ、生産誘導条件下以外でもテヌアゾン酸を生産するようになりました。

TAS1遺伝子からつくられるタンパク質「TAS1」は、糸状菌型のPKS-NRPS融合酵素とは大きく異なるドメイン構造(C-A-PCP-KS)をしており、新しいタイプの二次代謝産物生合成酵素であることが分かりました(図2)。そこでTAS1の組換え酵素を調製するなどの手法を用いてテヌアゾン酸の生合成メカニズムを解析しました。その結果、イソロイシンとアセトアセチルCoA[9]から、テヌアゾン酸が生合成されていることが明らかになりました(図3)。特にTAS1に特徴的なケト合成酵素(KS)ドメイン[10]が新規の機能を持ち、テヌアゾン酸生合成の最終段階の反応を行っていることが明らかになりました。通常のKSドメインは炭素鎖の伸長反応を行いますが、TAS1のKSドメインは伸長反応ではなく環化反応を行います。TAS1のKSドメインの配列を用いて系統解析を行ったところ、既知のKSドメインとは異なるところに分類され、配列からもその独特の特徴が示されました。

TAS1遺伝子と類似の遺伝子はさまざまな糸状菌のゲノム中でも発見されました。(図4)。興味深いことに、TAS1遺伝子と類似の遺伝子を持つ糸状菌はほとんどが昆虫や線虫や植物に対する病原菌、あるいは植物に寄生するキノコでした。これらの遺伝子はテヌアゾン酸や類似の化合物の生合成に関与していると考えられます。

今後の期待

本研究の成果により、かび毒であるテヌアゾン酸の効率的な生産制御が可能になることが期待できます。また、同定したTAS1遺伝子が新しいタイプの二次代謝産物生合成酵素をつくることが明らかになりました。多くの病原性糸状菌やキノコがTAS1遺伝子の類似遺伝子を持ち、これらからつくられるタンパク質(二次代謝産物生合成酵素)が生合成する化合物の機能を明らかにすることは、興味深い研究課題です。また、テヌアゾン酸は植物に対して病害抵抗性誘導を引き起こす活性も報告されており、生産を適切に制御することにより、植物病害制御を行うことができる可能性があります。

原論文情報

  • Choong-Soo Yun, Takayuki Motoyama, and Hiroyuki Osada, "Biosynthesis of the mycotoxin tenuazonic acid by a fungal NRPS-PKS hybrid enzyme", Nature Communications, doi:10.1038/ncomms9758

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ
グループディレクター 長田 裕之
専任研究員 本山 高幸
研究員 尹 忠銖

集合写真

ケミカルバイオロジー研究グループのメンバー

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. かび毒

    マイコトキシンとも呼ばれ、糸状菌の二次代謝産物として生産される毒の総称。アフラトキシン、トリコテセンなどが知られ、農産物の汚染による健康被害や植物病害を引き起こすため経済的損失が大きく問題となっている。

  2. テヌアゾン酸

    かび毒として知られる二次代謝産物で、植物病原糸状菌Alternaria(アルタナリア)から単離・同定され、1957年に初めて報告された。Alternaria以外のさまざまな植物病原糸状菌もテヌアゾン酸を生産する。欧州食品安全機関(EFSA)はテヌアゾン酸に対する毒性学的懸念の閾値として一日あたり1,500 ng/kgという値を示している。

  3. 二次代謝産物生合成酵素

    二次代謝産物をつくる酵素。生物体を構成、維持する上で重要な物質を一次代謝物と呼ぶ。一方、生育そのものには必要とされない代謝産物を二次代謝物と呼び、抗生物質などが含まれる。

  4. 植物病原糸状菌

    植物に対して病気を引き起こす糸状菌(かび)。

  5. Alternaria(アルタナリア)

    世界中に広く分布する植物病原糸状菌で、さまざまな穀物や果物などに被害を及ぼす。テヌアゾン酸以外にもさまざまなかび毒を生産する。

  6. イネいもち病菌

    イネにいもち病を引き起こす病原性の糸状菌(かび)。

  7. 糸状菌型のPKS-NRPS融合酵素(ポリケタイド合成酵素(PKS)と非リボソームペプチド合成酵素の融合酵素)

    二次代謝産物生合成に関与するポリケタイド合成酵素(PKS)と非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)の融合酵素の1種であり、PKSの後にNRPSが続くドメイン構造を示す(図2参照)。この酵素が生合成する化合物は特徴的な構造(テトラミン酸構造)を持つ。

  8. OSM1

    細胞内情報伝達系因子の1つであり、高浸透圧環境応答などに関与する。酵母のHog1と相同性が高い酵素であり、MAPキナーゼ(リン酸化酵素)の1種である。

  9. アセトアセチルCoA

    二次代謝産物であるテルペノイドやステロールなどの生合成の前駆体をつくるメバロン酸経路の初期の中間体。また、生分解性プラスチックであるPHB(ポリヒドロキシ酪酸)の前駆体としても知られる。

  10. ケト合成酵素(KS)ドメイン

    二次代謝産物の生合成に関与するポリケタイド合成酵素(PKS)に必要とされるドメインの1つ。通常は、二次代謝産物の生合成において炭素鎖伸長に関与する。

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イネいもち病菌とテヌアゾン酸

図1イネいもち病菌とテヌアゾン酸

イネいもち病菌Magnaporthe oryzaePyricularia oryzae)は植物病原糸状菌の1種であり、イネに感染してイネいもち病を引き起こす。イネいもち病菌は他のいくつかの植物病原糸状菌と同様にかび毒であるテヌアゾン酸を生産する。

テヌアゾン酸生合成酵素TAS1のドメイン構造と他のPKSとNRPSの融合型酵素との比較

図2テヌアゾン酸生合成酵素TAS1のドメイン構造と他のPKSとNRPSの融合型酵素との比較

TAS1のドメイン構造は糸状菌型PKS-NRPSとは異なる。さらに、バクテリア型のNRPS-PKSなどとも異なり、新しいタイプのドメイン構造を示す。ドメイン名の詳細は以下の通り(C:condensation(縮合);A:adenylation(アデニル化);PCP:peptidyl carrier protein(ペプチジルキャリアタンパク質);KS:ketosynthase(ケト合成酵素);AT:acyltransferase(アシル基転移酵素);DH:dehydratase(脱水酵素);MT:methyltransferase(メチル基転移酵素);ER0:nonfunctional enoylreductase(機能しないエノイル還元酵素);KR:ketoreductase(ケト還元酵素);ACP:acyl carrier protein(アシルキャリアタンパク質);R/D:reducing/Dieckmann cyclization(還元/ディークマン環化);TE:thioesterase(チオエステラーゼ))。

テヌアゾン酸生合成経路

図3 テヌアゾン酸生合成経路

イソロイシンとアセトアセチルCoAからTAS1によりテヌアゾン酸が作られる。イソロイシンとアセトアセチルCoAからC、A、およびPCPドメインを用いて生合成中間体が作られ、ユニークな機能を持つKSドメインがテヌアゾン酸生合成の最終段階であるディークマン環化反応を行う。

テヌアゾン酸生合成酵素と類似タンパク質の系統解析

図4 テヌアゾン酸生合成酵素と類似タンパク質の系統解析

糸状菌に存在するTAS1類似タンパク質の系統樹。バクテリア由来の配列をアウトグループ(外群:かけ離れていることが明らかな生物種)として用いた。TAS1類似タンパク質遺伝子を持つ糸状菌名を示している。TAS1ホモログ(共通の祖先に由来する類似性の高いタンパク質)は約30個ある。それらは全て糸状菌由来であり、4グループ(AからD)に分類された。TAS1ホモログを持つものは、植物病原糸状菌(緑)、昆虫あるいは線虫の病原糸状菌(青)、担子菌(キノコ:赤)が多いことが分かる。テヌアゾン酸を生産することが分かっているものは枠で囲んだ。

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