広報活動

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2015年11月10日

理化学研究所

細胞分裂のブレーキの働きを解明

-植物バイオマスの増大に期待-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター細胞機能研究チームの杉本慶子チームリーダー、原島洋文研究員と、ルイジアナ州立大学のジョン・ラーキン教授らの国際共同研究グループは、植物の細胞分裂に抑制的に働く阻害タンパク質の機能を解明しました。

細胞が分裂する過程を「細胞周期」[1]といい、その細胞周期をコントロールするメカニズムは、動物、植物、酵母で多くの共通点があります。なかでも細胞周期のON/OFFは、サイクリン依存性キナーゼ[2]と呼ばれるタンパク質の働きを調節することで制御されています。サイクリン依存性キナーゼの働きを抑制する阻害タンパク質として、植物に特有のSMRタンパク質ファミリー[3]が知られていました。SMRタンパク質ファミリーは多くの遺伝子で構成されていますが、どのSMRタンパク質がどのサイクリン依存性キナーゼの働きを抑制するのかについては明らかにされていませんでした。

国際共同研究グループは、SMRタンパク質ファミリーの1つ「SIM」が働かない植物では、葉の表面にある毛細胞の形に異常がでることに着目し、さまざまな植物由来のSMRタンパク質を導入することで、毛の形が正常に戻るかをモデル植物のシロイヌナズナを用いて調べました。その結果、導入したすべてのSMRタンパク質で毛の形が正常に戻ることが確認されました。このことから、それぞれのSMRタンパク質の類似性は小さいにも関わらず、個々のSMRタンパク質の機能に差はなく、働く場所や時間が異なることが大きな違いであることが分かりました。また、SMRタンパク質ファミリーの1つ、SMR2が働かない植物では葉のサイズが大きくなることが観察されました。

これらの研究成果は、植物細胞の分裂や分化の基礎的な仕組みを理解する上で重要な知見であるばかりでなく、植物バイオマスを増大するような育種への応用が期待できます。

本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(B):「植物の形態形成を司る転写制御ネットワークの解明」(代表者:杉本慶子)の一環として行われました。成果は、米国の科学雑誌『The Plant Cell』オンライン版(11月6日付け)に掲載されました。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター 細胞機能研究チーム
チームリーダー 杉本 慶子 (すぎもと けいこ)
研究員 原島 洋文 (はらしま ひろふみ)

ルイジアナ州立大学 生物学部
教授 John C. Larkin(ジョン・ラーキン)
学生(博士後期過程) Narender Kumar(ナレンダ・クマール)

アントワープ大学 理学部
教授 Gerrit T.S. Beemster(ゲリット・ビームスター)
研究員 Shweta Kalve(シュエタ・カルヴェ)

ハンブルグ大学 数学・情報科学・自然科学部
教授 Arp Schnittger(アルプ・シュニットガー)

背景

細胞が分裂する過程を「細胞周期」といい、その細胞周期をコントロールするメカニズムは、動物、植物、酵母で多くの共通点があります。なかでも細胞周期のON/OFFは、サイクリン依存性キナーゼと呼ばれるタンパク質の活性を調節することで制御されています。サイクリン依存性キナーゼは細胞周期の各時期に、さまざまな基質[4]をリン酸化することでDNA合成や有糸分裂[5]などをコントロールしています。サイクリン依存性キナーゼの活性化にはサイクリンタンパク質[2]との結合や自身がリン酸化されることが必要です。また、阻害タンパク質が結合することでもサイクリン依存性キナーゼの働きは抑制されます。この阻害タンパク質の中で、植物に特有のSMRタンパク質ファミリーが知られています。SMRタンパク質ファミリーは多くの遺伝子から構成されていますが、どのSMRがどのサイクリン依存性キナーゼの働きを抑制するのかについては明らかにされていませんでした。

そこで国際共同研究グループは、SMRタンパク質ファミリーの1つ「SIM」が働かない植物では、葉の表面にある毛細胞の形に異常が出ることに着目し、さまざまな植物由来のSMRタンパク質を導入して、毛の形が正常に戻るかどうかを見ることで、それぞれのSMRタンパク質に機能の違いがあるかどうかを調べました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、最初にさまざまな陸上植物が、それぞれいくつのSMR遺伝子を持つかをコンピューター解析を使って調べました。これにより、モデル植物として研究に広く使われているシロイヌナズナでは、合計17個のSMR遺伝子があると予測されました。SMR遺伝子を元に作られるそれぞれのSMRタンパク質の類似性は小さく、特定の領域だけに共通性が見られました。

シロイヌナズナの葉の表面には、通常、トライコーム[6]と呼ばれる毛細胞があります。トライコームは1つの細胞から構成されていますが、SMRタンパク質ファミリーの1つ「SIM」が働かない植物では、トライコームが多細胞化して異常な形になります。国際共同研究グループはこのことに着目し、さまざまな植物由来のSMRタンパク質を導入して、異常なトライコームの形が正常に戻るかを見ることで、それぞれのSMRタンパク質に機能の違いがあるかを調べました。すると、調べたすべてのSMRタンパク質でトライコームの形が正常に戻ることが確認されました。これにより、それぞれのSMRタンパク質の類似性は小さいにも関わらず、個々のSMRタンパク質の機能に差がないことが分かりました。

植物の細胞周期をコントロールするサイクリン依存性キナーゼは主にCDKAとCDKB[7]に分かれます。これまでSMRタンパク質がどのサイクリン依存性キナーゼの働きを抑制するのかは、議論が分かれていました。そこでSIMタンパク質とサイクリン依存性キナーゼの結合を調べると、SIMはCDKAとCDKBの両方に結合することが分かりました。また実際にSIMがCDKAとCDKBのキナーゼ活性を抑制することも確認しました。

これにより、それぞれのSMRタンパク質の類似性は小さいにも関わらず、個々のSMRタンパク質の機能に差はなく、働く場所や時間が異なることが大きな違いであることが分かりました。

また、驚くべきことに「SIM」が働かない植物の中で、CDKAのパートナーとなるサイクリンタンパク質(CYCD3)を働かないようにすることでも、トライコームの形が正常に戻ることが確認されました。このことから、SIMが阻害していたサイクリン依存性キナーゼの正体はCDKA-CYCD3複合体であることが分かりました(図1)。

今後の期待

今回、SMRタンパク質ファミリーの1つ、SMR2が働かないシロイヌナズナ植物では葉の大きさが顕著に大きくなることが認められました。SMRタンパク質はイネをはじめ多くの植物種に存在していることから、これらの研究成果は、植物細胞の分裂や分化の基礎的な仕組みを理解する上で重要な知見であるばかりでなく、植物バイオマスを増大するような育種への応用が期待されます。

原論文情報

  • Narender Kumar, Hirofumi Harashima, Shweta Kalve, Jonathan Bramsiepe, Kai Wang, Bulelani L. Sizani, Laura L. Bertrand, Matthew C. Johnson, Christopher Faulk, Renee Dale, L. Alice Simmons, Michelle L. Churchman, Keiko Sugimoto, Naohiro Kato, Maheshi Dasanayake, Gerrit Beemster, Arp Schnittger, John C. Larkin, "Functional Conservation in the SIAMESE-RELATED Family of Cyclin-Dependent Kinase Inhibitors in Land Plants", The Plant Cell, doi: 10.1105/tpc.15.00489

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 細胞機能研究チーム
チームリーダー 杉本 慶子 (すぎもと けいこ)
研究員 原島 洋文 (はらしま ひろふみ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 細胞周期
    細胞が分裂する一連の過程をいう。細胞が分裂する際、つまりひとつの細胞が2つの娘細胞に分かれるには、DNAをコピー(DNA合成期)して均等に分配する(有糸分裂)必要がある。DNA合成期をS期、有糸分裂とそれに続く細胞質分裂をM期と呼び、それぞれはギャプ(G)で仕切られている。細胞周期はG1→S→G2→Mと一方向に進む。
  2. サイクリン依存性キナーゼ、サイクリンタンパク質
    細胞周期の進行に関わる重要なタンパク質。触媒サブユニットのサイクリン依存性キナーゼは、調節サブユニットのサイクリンタンパク質と結合して活性化し、さまざまな基質タンパク質をリン酸化する。一般的に、サイクリンタンパク質は細胞周期依存的に発現量が変化する。サイクリン依存性キナーゼはこのほか、サイクリン依存性キナーゼ活性化キナーゼによるリン酸化、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子の結合などにより活性が制御される。
  3. SMRタンパク質ファミリー
    サイクリン依存性キナーゼ阻害因子。モデル植物のシロイヌナズナでは、KRPタンパク質ファミリーとSMRタンパク質ファミリーがあり、サイクリン依存性キナーゼに結合することでその活性を阻害する。
  4. 基質
    生化学の分野では、酵素の作用を受ける分子のことを指す。たとえば、サイクリン依存性キナーゼの一般な基質として、ヒストンタンパク質が知られている。
  5. 有糸分裂
    真核生物の細胞分裂様式のひとつ。細胞分裂の際に、染色体が紡錘体によって分配される分裂様式のこと。動物や植物に一般的に見られる。
  6. トライコーム
    植物の葉や茎などの表皮細胞に形成される毛状突起。モデル植物のシロイヌナズナでは単一細胞から形成され、害虫などから植物体を守っていると考えられている。
  7. CDKAとCDKB
    植物の細胞周期を制御するサイクリン依存性キナーゼ。モデル植物のシロイヌナズナにはひとつのCDKAと4つのCDKBが存在する。CDKAはS期、CDKBはG2/M期を主にコントロールしていると考えられている。

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SIMによる細胞周期から核内倍加移行への制御の図

図1 SIMによる細胞周期から核内倍加移行への制御

一般的に植物では、細胞の分化に先立って細胞分裂の活性を停止させる。シロイヌナズナの主に葉の表面に存在する毛細胞トライコームは、その分化にDNA含量の増加を伴う(核内倍加)。SMRタンパク質ファミリーの1つ「SIM」はこの移行期に働くことが知られていたが、本研究により、多くの組み合わせが考えられるサイクリン依存性キナーゼの中で、CDKA-CYCD3がその重要なターゲットであることが明らかになった。

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