広報活動

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2015年12月21日

理化学研究所

CD4陽性キラーT細胞への分化機構を解明

-CRTAMタンパク質による刺激がキラー細胞へと分化誘導する-

要旨

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター免疫シグナル研究グループの斉藤隆グループディレクターらの共同研究グループは、特別なキラーT細胞の分化にタンパク質「CRTAM[1]」が重要であることを発見しました。

リンパ球の1種であるT細胞は、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞とに大別され、CD8陽性T細胞はウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷する「CD8陽性キラーT細胞[2]」に分化し、CD4陽性T細胞はさまざまな免疫応答を助ける「CD4陽性ヘルパーT細胞[3]」に分化します。CD8陽性キラーT細胞は、強力な細胞傷害活性によりウイルス感染細胞を殺傷できますが、感染が慢性化した場合などには徐々にその活性が弱まることが知られていました。このような状況下では、CD4陽性T細胞の一部が、細胞傷害活性を持つキラーT細胞(CD4陽性キラーT細胞)に分化して働きを補うことや、高い抗腫瘍効果を持つようになることなどが報告されています。しかし、CD4陽性T細胞の一部がどのようにCD4陽性キラーT細胞へと分化するのか、そのメカニズムは分かっていませんでした。

共同研究グループは、一部のCD4陽性T細胞にCRTAMが発現していることに注目しその機能を調べました。その結果、CRTAMが発現しているCD4陽性T細胞がCD8陽性キラーT細胞と似た性質を持ち合わせること、また、CD4陽性キラー細胞に分化することを突き止めました。さらに、人為的にCRTAMの遺伝子をCD4陽性T細胞に発現させたところ、CD4陽性キラーT細胞へと効率的に分化しました。これらの結果から、CRTAM が発現しているCD4陽性T細胞がCD4陽性キラーT細胞に分化するには、CRTAMが重要な働きをしていることが示されました。

これまでCD4陽性キラーT細胞を同定することはできませんでしたが、今回の成果によりCRTAMが有効なマーカーになることが分かりました。また、CRTAMの特徴を利用することで、感染症やがんの治療に役立てることができる可能性があります。

本研究は、米国の科学雑誌『Journal of Experimental Medicine』(1月11日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(12月21日付け:日本時間12月22日)に掲載されます。

※共同研究グループ

理化学研究所 統合生命医科学研究センター
免疫シグナル研究グループ
グループディレクター 斉藤 隆 (さいとう たかし)
客員研究員 竹内 新 (たけうち あらた)

サイトカイン制御研究チーム
研究員 宮内 浩典 (みやうち こうすけ)

東京理科大学 生命医科学研究所 分子病態学研究部門
教授 久保 允人 (くぼ まさと)

産業総合研究所つくばセンター バイオメディカル研究部門
免疫恒常性チーム
主任研究員 辻 典子 (つじ のりこ)

東京大学医科学研究所 人癌病因遺伝子分野
教授 村上 善則 (むらかみ よしのり)

背景

私たちの体には、過去に感染したウイルスや細菌などに対して抵抗性を獲得する仕組みが備わっています。この仕組みを「獲得免疫」と呼び、主に白血球の1つであるリンパ球が重要な役割を果たしています。リンパ球には、T細胞とB細胞の2種類が存在し、その中でもT細胞は、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞に大別され、CD4陽性T細胞は、抗体を分泌するB細胞の働きを助ける「CD4陽性ヘルパーT細胞」へ、CD8陽性T細胞は、強力な細胞傷害活性によりウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷する「CD8陽性キラーT細胞」へ分化します。

CD8陽性キラーT細胞は、感染が慢性化した場合などには徐々にその活性が弱まることが知られていました。このような状況下では、CD4陽性T細胞の一部が、細胞傷害活性を持つキラーT細胞(CD4陽性キラーT細胞)に分化して働きを補うことや、高い抗腫瘍効果を持つようになることなどが報告されています。しかし、どのようにCD4陽性ヘルパーT細胞やCD8陽性キラーT細胞へ分化し機能を発揮するかは詳しく解析されてきましたが、CD4陽性T細胞の一部がどのようにCD4陽性キラーT細胞へと分化するのか、そのメカニズムは分かっていませんでした。「CRTAM」は細胞の表面に存在するタンパク質の1つで、これまでの研究では活性化したCD8陽性T細胞やナチュラルキラー細胞(NK細胞)に発現することが報告されています。2009年に斉藤隆グループディレクターらの研究グループはCRTAMの発現がCD8陽性キラーT細胞を介した免疫応答で重要な働きをすることを明らかにしました注)。その後、一部のCD4陽性T細胞にもCRTAMが発現することが分かり、共同研究グループはCRTAMに注目し、その機能を調べることにしました。

注)Takeuchi A, Itoh Y, Takumi A, Ishihara C, Arase N, Yokosuka T, Koseki H, Yamasaki S, Takai Y, Miyoshi J, Ogasawara K,, Saito T.: "CRTAM confers late-stage activation of CD8+ T cells to regulate retention within lymph node." J. Immunol. 183:4220-4228(2009)

研究手法と成果

共同研究グループは、CRTAM を発現しているCD4陽性T細胞がどのような働きをするのかを詳しく知るために、マイクロアレイ[4]を用いて、CD4陽性T細胞で働いている遺伝子を網羅的に解析しました。通常、CD4陽性T細胞と、CD8陽性T細胞では異なる遺伝子群が発現することで異なる働きをしています。しかし、CRTAMを発現しているCD4陽性T細胞は、CD8陽性T細胞で働く遺伝子群も同時に発現しており、両方の特徴を兼ね備えたユニークな細胞群であることが判明しました(図1)。

この結果から、CRTAMを発現しているCD4陽性T細胞にはCD8陽性キラーT細胞と同様の機能が備わっていると予想し、細胞傷害活性を持っているか解析しました。その結果、CD8陽性キラーT細胞と同等の強力な細胞傷害活性を持つことが分かりました(図2A)。実際にインフルエンザを感染させたマウスの肺の中に存在するT細胞を調べたところ、CRTAMを発現しているCD4陽性T細胞が増えており、インフルエンザに特異的な細胞傷害活性を示しました。一方、CRTAMを欠損したマウスにインフルエンザを感染させた場合には、肺のT細胞の細胞傷害活性が減りました(図2B)。さらに、CD4陽性T細胞にCRTAMを強制的に発現させたマウスを作製し、その機能を調べたところ、このマウス由来のCD4陽性T細胞は、細胞傷害活性を持つCD4陽性キラーT細胞へ効率的に分化しました。

一方、CRTAMの細胞内領域が欠損した分子を発現させたマウスのT細胞では、こうした細胞傷害活性を持つCD4陽性キラー細胞を誘導することができませんでした。これらの結果から、CRTAMからの刺激がCD4陽性キラー細胞の誘導に重要な働きをしていることが分かりました(図3)。

また、これまでCD4陽性キラーT細胞を同定することはできませんでしたが、今回の成果によりCRTAMがCD4陽性キラーT細胞の同定に有用な分子であることが分かりました。

今後の期待

CD4陽性キラーT細胞は、慢性化したウイルス感染や腫瘍を排除する際に重要な役割を果たす細胞として数多くの報告があります。

今回の成果により、CD4陽性キラーT細胞の同定が容易になり、CRTAMの発現を制御することで効果的にCD4陽性キラーT細胞へ分化誘導することが可能となりました。今後、CRTAMの特徴を利用することで、ウイルス感染やがんなどの疾患に対する治療へ応用できる可能性があります。

原論文情報

  • Arata Takeuchi, Mohamed El Sherif Gadelhaq Badr, Kosuke Miyauchi, Chitose Ishihara, Reiko Onishi, Zijin Guo, Yoshiteru Sasaki, Hiroshi Ike, Akiko Takumi, Noriko M. Tsuji, Yoshinori Murakami, Tomoya Katakai, Masato Kubo and Takashi Saito, "CRTAM determines the CD4+ cytotoxic T lymphocyte lineage", Journal of Experimental Medicine, doi: 10.1084/jem.20150519

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 免疫シグナル研究グループ
グループディレクター 齊藤 隆 (さいとう たかし)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. CRTAM
    CD8陽性キラーT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞などが活性化されて細胞表面に発現するイムノグロブリン(Ig)ドメイン(領域)を2つ持つ接着レセプターの1種。結合するリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)はCADM1で、表皮細胞や樹状細胞などに発現している。CD8陽性キラーT細胞では、リンパ節から末梢に成熟分化する過程を制御していることが知られる。
  2. CD8陽性キラーT細胞
    キラーT細胞はリンパ球の一種で、感染細胞やがん細胞を特異的に殺傷する。CD8は、T細胞受容体の共受容体として働く、膜貫通糖タンパク質で、MHCクラスIに結合する。標的である感染細胞やがん細胞を抗原特異的に認識し、キラーT細胞が接着し、細胞傷害を誘導するタンパク質であるグランザイム(gzmB)やパーフォリン(pfr)などを放出して標的細胞を殺傷する。
  3. CD4陽性ヘルパーT細胞
    ヘルパーT細胞はリンパ球の一種で、さまざまなサイトカイン(細胞間の情報伝達を担うタンパク質の総称)の産生を誘導し、抗体を分泌するB細胞の活性化を促進する。CD4は、ヘルパーT細胞や樹状細胞などに発現している膜貫通糖タンパク質で、MHCクラスIIに結合する。CD4陽性ヘルパーT細胞は、主にCD4陽性T細胞から分化し、産生するサイトカインによってTh1(IFN)、Th2(IL-4)、Th17(IL-17)などに分類され、それぞれ機能分化を誘導するサイトカインや転写因子も知られる。Th1、Th2、Th17はそれぞれウイルス感染、寄生虫感染、真菌感染に対抗する免疫応答を起こす。
  4. マイクロアレイ
    数万~数十万に区切られた基板の上にDNAの部分配列を高密度に配置して固定したもので、細胞から抽出したメッセンジャーRNA(mRNA)を逆転写酵素で変換したcDNAと、基板上のDNA配列とを、ハイブリダイゼーションすること(DNAやRNAが相補的に複合体を形成すること)によって、細胞内で発現している遺伝子の情報を網羅的に解析できる。

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CRTAMを発現するCD4陽性ヘルパーT細胞の遺伝子発現パターンの図

図1 CRTAMを発現するCD4陽性ヘルパーT細胞の遺伝子発現パターン

CD8陽性T細胞、 CD4陽性T細胞はそれぞれに特徴的な遺伝子の発現パターンが存在し、この違いによって各細胞は異なる働きをしている。CRTAMを発現するCD4陽性T細胞はこの両方の特徴を兼ね備えた遺伝子の発現パターンを示すことが分かった。特にキラー細胞に関与する遺伝子群(Eomes, gzmB, pfr, IFNγ)を発現している。

CRTAMを発現するCD4陽性T細胞の細胞傷害活性の図

図2 CRTAMを発現するCD4陽性T細胞の細胞傷害活性

(A)通常、細胞傷害活性はCD8陽性T細胞に備わっており、CD4陽性T細胞には認められない。しかし、CRTAMを発現しているCD4陽性T細胞ではCD8陽性T細胞と同様の活性を示す。

(B)マウスをインフルエンザに感染させると、肺のCD4陽性T細胞がインフルエンザ特異的な細胞傷害活性を示すが、CRTAM欠損マウスをインフルエンザに感染させた肺のT細胞では、傷害活性が下がっていた。つまり、CD4陽性キラーT細胞の誘導にCRTAMが重要であることが確認された。

CRTAMのシグナルがキラー細胞を誘導の図

図3 CRTAMのシグナルがキラー細胞を誘導

右グラフで、野生型のCRTAM(CRTAM-FL)を発現するCD4陽性T細胞(■)は、効率的にCD4陽性キラー細胞に分化するが、細胞内領域を欠損したCRTAM (CRTAM-TL)を発現するCD4陽性T細胞(□)は刺激が伝達できず、CD4陽性キラー細胞に分化することができない。左図はそれを模式的に表したものである。

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