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2016年1月21日

理化学研究所

川崎病の発症に関わる「ORAI1遺伝子の多型」を発見

-日本人に多い遺伝子多型が関与-

要旨

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター循環器疾患研究グループの尾内善広客員研究員(千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学准教授)、田中敏博グループディレクターらの共同研究グループは、川崎病の発症に関わる「ORAI1遺伝子[1]」の遺伝子多型[2]を発見しました。

川崎病は乳幼児を中心に発症する原因不明の急性熱性疾患であり、1967年に小児科医の川崎富作博士(現・日本川崎病研究センター理事長)によって初めて報告されました。日本を筆頭に、東アジアの国々での高い罹患率が知られています。大半が自然に治癒しますが、心臓の冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)[3]などの合併症を生じることがあるため、原因の究明と効果的な治療法の開発が急がれています。尾内客員研究員らは、これまでゲノムワイド連鎖解析[4]ゲノムワイド関連解析[5]を通じ、川崎病と関連する一塩基多型(SNP)[2]を複数見出し報告してきました。しかし、川崎病が東アジア人に多い理由は依然不明であり、遺伝的背景には未解明な部分が多いと考えられています。

共同研究グループは、以前実施したゲノムワイド連鎖解析において川崎病との連鎖の傾向がみられた12番染色体にある「ORAI1遺伝子」に着目し、日本人の川崎病患者729人、非患者1,315人を対象にSNPを用いた関連解析を実施しました。次に関連が認められたSNPについて、上記とは別の患者1,813人、非患者1,097人で検証を行いました。その結果、ORAI1タンパク質を構成するアミノ酸の配列の変化に関わるSNPが川崎病と関連することが分かりました。このSNPのリスク型[6]の頻度は人種によって大きく異なり、最も頻度が高いのは日本人でした。共同研究グループはさらに解析を進め、ORAI1タンパク質のアミノ末端[7]付近にある「まれな遺伝子多型(レアバリアント)」も川崎病と強く関連することを確認しました。

本研究によりORAI1遺伝子が川崎病の発症に関与している可能性が高いことが分かりました。ORAI1タンパク質は細胞膜上のカルシウム(Ca2+)チャネル(Ca2+を選択的に透過する透過口)で、川崎病の発症や重症化に関わりが深いと考えられる「Ca2+/NFAT経路」の活性化に重要なタンパク質です。今後Ca2+/NFAT経路と川崎病の病態との関わりをさらに詳しく調べることで、病態の理解と新たな治療法の開発が進むと期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(1月20日付け:日本時間1月21日)に掲載されます。

背景

川崎病は、乳幼児を中心に発症する原因不明の急性熱性疾患であり、1967年に小児科医の川崎富作博士(現・日本川崎病研究センター理事長)によって初めて報告されました。5日以上続く発熱、両側眼球結膜の充血、口唇紅潮や咽頭粘膜の発赤、不定形発疹、四肢末端の変化、頚部リンパ節膨張などを主要症状とする疾患で、1歳前後を中心に、主に6カ月~4歳以下の乳幼児が発症します。発症時期が胎盤を通して母体から授かる受動免疫(他の生体の抗体を投与することにより得られる免疫)の消退時期と一致することや、これまでに全国規模の大流行が起こったことから、川崎病にはある種の細菌やウイルスなど病原体の感染が関連していると考えられていますが、いまだ原因となる病原体は特定できていません。

川崎病は全身の中小動脈に生じる血管炎で、特に心臓の冠状動脈が強く侵されます。多くは自然に治癒しますが、治療を受けないでいると、20~25%の患者で冠状動脈に瘤(りゅう)などの病変が生じることが知られています。瘤の内部が血栓により閉塞することで、急性心筋梗塞を発症し突然死することもあるため、治療は早期に炎症を抑えて合併症の発生を防ぐことを主眼に行われています。1980年代後半頃からガンマグロブリン大量静注療法[8]が導入され、合併症の発生率を5%以下に抑えられるようになりました。

しかし、現在でも川崎病は、先進国における小児の後天性心疾患の原因としてトップに位置しています。特に日本人に多く、1年間に約1万5千人が川崎病を発症しており、原因の究明と効果的な治療法の開発が急がれています。日本を筆頭に東アジアの国々で罹患率が高く、また親子例、同胞(同じ父母から生まれた兄弟・姉妹)例が多いことから遺伝的要因が関与することが知られています。

尾内客員研究員らはこれまで、ゲノムワイド連鎖解析やゲノムワイド関連解析を通じ、ITPKCCASP3、BLK、CD40、HLAクラス2といった遺伝子領域に川崎病と関連する一塩基多型(SNP)を見出し報告してきました注1)。しかしそれらのSNPはいずれも、日本人集団における頻度が欧米人と同等か、むしろ欧米人において高いものばかりであり、川崎病が東アジア人に多い理由は不明のままでした。

注1)2007年12月17日「川崎病の発症と重症化に遺伝子「ITPKC」が関与することを発見
2010年5月12日プレスリリース「川崎病の発症に遺伝子「CASP3」がかかわることを発見
2012年3月26日のプレスリリース「川崎病の発症に関わる3つの遺伝子領域を新たに発見

研究手法と成果

共同研究グループは、川崎病と関連するSNPを含む罹患感受性遺伝子(疾患原因遺伝子の探索過程で見つかる原因遺伝子の候補)の候補として、以前実施したゲノムワイド連鎖解析において川崎病と連鎖の傾向がみられた12番染色体長腕(12q24)のORAI1遺伝子に着目しました。

まず、ORAI1遺伝子を含む14,300塩基に存在する遺伝子多型を94人の川崎病患者由来DNAを用いたシークエンス法により検索しました。その結果見出された69カ所の遺伝子多型のうち、集団内での頻度が5%以上であった37カ所を遺伝子多型同士の染色体上での関連の強さにより9つのグループに分類しました。続いて、それぞれのグループから代表としてSNPを選出し、日本人の川崎病患者729人、非患者1,315人を対象に関連解析を実施しました。次に関連が認められたSNPについて、上記とは別の患者1,813人、非患者1,097人で検証しました。

その結果、DNAを構成するアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基の配列のうちアデニン(A型)からグアニン(G型)へと変わることによりORAI1タンパク質のアミノ酸配列に変化を生じるSNP(rs3741596)が川崎病と関連することが分かりました(図1)。

このSNPは、尾内客員研究員らが以前行ったゲノムワイド関連解析のSNPセットには含まれないものでした。川崎病との関連がみられたG型は、アフリカ系および東アジアの民族以外では存在しない、もしくは低頻度で、最も頻度が高いのは約20%を占める日本人でした(図2)。

共同研究グループは、さらにORAI1遺伝子内の「まれな遺伝子多型(レアバリアント)」と川崎病との関連を川崎病患者2,528人、非患者2,410人を対象に調べました。その結果、6塩基(CCGCCA)の挿入によりORAI1タンパク質のアミノ末端付近にあるプロリン残基の繰り返し配列が伸長するレアバリアント(rs141919534)も、川崎病と強く関連することを見出しました(図3)。

ORAI1タンパク質は、さまざまな種類の細胞の細胞膜上に存在するカルシウム(Ca2+)チャネル(Ca2+を選択的に透過する透過口)です。細胞が細胞外から特定のシグナルを受け、細胞質内のCa2+貯蔵庫である小胞体内のCa2+濃度が低下すると、それが引き金となり細胞外から大量のCa2+が細胞内に流入します(ストア作動性カルシウム流入)。ORAI1タンパク質はこのCa2+の流入に関わっています。細胞内へのCa2+流入に伴い、細胞質中のCa2+濃度が上昇し転写因子[9]NFATが活性化すると、NFATは細胞質から核内へと移動してサイトカイン[10]遺伝子などの転写を促します。これを「Ca2+/NFAT経路」と呼びます。ORAI1タンパク質は、この分子経路の活性化に重要な役割を果たしています。

共同研究グループは、これまでの研究から川崎病の発症や重症化にCa2+/NFAT経路の活性化が深く関わっていると考えており、今回の知見はその仮説を裏付けるものだと考えられます。

今後の期待

今回の研究で、欧米人に比べて日本人に頻度が高いORAI1遺伝子のSNP(rs3741596)や同遺伝子内のレアバリアント(rs141919534)が川崎病と強く関連することが示されました。この知見は、今後川崎病の遺伝的背景の全容解明を目指す上で重要な手がかりになると考えられます。今後、ORAI1遺伝子と川崎病の病態との関わりをさらに詳しく調べることで、病態の理解と新たな治療法の開発が進むと期待できます。

※共同研究グループ

理化学研究所統合生命医科学研究センター 循環器疾患研究グループ
グループディレクター 田中 敏博(たなか としひろ)
上級研究員 尾崎 浩一(おざき こういち)
客員研究員 尾内 善広##(おのうち よしひろ)

日本医科大学 小児科
教授 小川 俊一##(おがわ しゅんいち)
准教授 深澤 隆治##(ふかざわ りゅうじ)

九州大学大学院医学研究院 成長発達医学分野
教授 原 寿郎##(はら としろう)(現:福岡市立こども病院 病院長)
診療講師 山村 健一郎##(やまむら けんいちろう)

和歌山県立医科大学 小児科
教授 鈴木 啓之##(すずき ひろゆき)
講師 武内 崇##(たけうち たかし)
助教 末永 智浩##(すえなが ともひろ)
助教 垣本 信幸##(かきもと のぶゆき)

東京女子医科大学八千代医療センター 小児科
教授 寺井 勝##(てらい まさる)(現:千葉海浜病院 副院長)
准教授 濱田 洋通##(はまだ ひろみち)
講師 安川 久美##(やすかわ くみ)
医員 本田 隆文##(ほんだ たかふみ)

千葉大学大学院 医学研究院 小児病態学
助教 江畑 亮太##(えばた りょうた)

千葉県こども病院 循環器内科
医長 東 浩二##(ひがし こうじ)

東邦大学医療センター 大森病院 小児科
教授 佐地 勉##(さじ つとむ)
講師 高月 晋一##(たかつき しんいち)
助教 監物 靖##(けんもつ やすし)(現:監物小児科医院)

川崎医科大学 小児科
教授 尾内 一信##(おうち かずのぶ)

川崎医科大学 分子生物学2(遺伝学)
教授 岸 文雄(きし ふみお)

藤田保健衛生大学 小児科
教授 吉川 哲史(よしかわ てつし)

獨協医科大学越谷病院 小児科
教授 永井 敏郎(ながい としろう)(現:中川の郷療育センター)

国際医療福祉大学 作業療法学科
教授 濱本 邦洋(はまもと くにひろ)

富士重工業健康保険組合太田記念病院
病院長 佐藤 吉壮(さとう よしたけ)

総合病院 国保旭中央病院 小児科
主任部長 本多 昭仁(ほんだ あきひと)
部長 小林 宏伸(こばやし ひろのぶ)

船橋市立医療センター 小児科
部長 佐藤 純一(さとう じゅんいち)

紀南病院 小児科
主任部長 宮脇 正和(みやわき まさかず)
部長 澁田 昌一(しぶた しょういち)

橋本市民病院 小児科
部長 大石 興(おおいし こう)

公立那賀病院 小児科
科長 山家 宏宣(やまがひろのぶ)

和歌山ろうさい病院 小児科
部長 青柳 憲幸(あおやぎ のりゆき)

国保日高総合病院 小児科
部長 芳山 恵(よしやま めぐみ)

泉大津市立病院 小児科
部長 宮下律子(みやした りつこ)

仙台市立病院
副院長 村田 祐二(むらた ゆうじ)

慶応義塾大学医学部 外科学
講師 藤野 明浩(ふじの あきひろ)

非営利活動法人 日本川崎病研究センター
理事長 川崎 富作(かわさき とみさく)

国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部 免疫療法研究室
室長 阿部 淳##(あべ じゅん)

国立成育医療研究センター研究所 臨床研究推進部 開発企画部 臨床研究企画室
室長 小林 徹##(こばやし とおる)

群馬大学大学院 小児科学分野
助教 関 満##(せき みつる)
教授 荒川 浩一##(あらかわ ひろかず)

千葉大学大学院 医学研究院 公衆衛生学
教授 羽田 明(はた あきら)
准教授 尾内 善広##(おのうち よしひろ)

##「川崎病遺伝コンソーシアム」のメンバーとして研究に参加

原論文情報

  • Yoshihiro Onouchi, Ryuji Fukazawa, Kenichiro Yamamura, Hiroyuki Suzuki, Nobuyuki Kakimoto, Tomohiro Suenaga, Takashi Takeuchi, Hiromichi Hamada, Takafumi Honda, Kumi Yasukawa, Masaru Terai, Ryota Ebata, Kouji Higashi, Tsutomu Saji, Yasushi Kemmotsu, Shinichi Takatsuki, Kazunobu Ouchi, Fumio Kishi, Tetsushi Yoshikawa, Toshiro Nagai, Kunihiro Hamamoto, Yoshitake Sato, Akihito Honda, Hironobu Kobayashi, Junichi Sato, Shoichi Shibuta, Masakazu Miyawaki, Ko Oishi, Hironobu Yamaga, Noriyuki Aoyagi, Megumi Yoshiyama, Ritsuko Miyashita, Yuji Murata, Akihiro Fujino, Kouichi Ozaki, Tomisaku Kawasaki, Jun Abe, Mitsuru Seki, Tohru Kobayashi, Hirokazu Arakawa, Shunichi Ogawa, Toshiro Hara, Akira Hata and Toshihiro Tanaka, "Variations in ORAI1 gene associated with Kawasaki disease", PLOS ONE, doi: 10.1371/journal.pone.0145486

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 循環器疾患研究グループ
客員研究員 尾内 善広(おのうち よしひろ)

尾内 善広客員研究員の写真 尾内 善広

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.ORAI1遺伝子
    細胞膜上のカルシウム(Ca2+)チャンネル分子の1つであるORAI1タンパク質をコードする(作る)遺伝子。細胞質内にある膜性の袋状細胞小器官・小胞体内部のCa2+イオン濃度が低下すると、ORAI1タンパク質は小胞体膜上のセンサータンパク質(STIM1など)との相互作用により、Ca2+イオンを細胞外から細胞内に通す活性型に変化する。 ORAI1遺伝子の変異による常染色体劣性の「原発性免疫不全症候群」は、免疫細胞の1つT細胞が抗原提示を受け活性化する際のORAI1タンパク質を通じたCa2+イオン流入の障害により起こることが知られている。
  • 2.遺伝子多型、一塩基多型(SNP)
    私たちの顔が個々人で異なるように、ヒトゲノムの全配列約30億塩基対は一人一人を比較すると、塩基配列に違いがみられる。このうち、集団内での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。その代表的なものとして一塩基(アデニン:A、チミン:T、グアニン:G、シトシン:C)の違いによる一塩基多型(SNP; Single Nucleotide Polymorphism、スニップ)がある。300塩基に1個のSNPがあり、ヒトゲノム全体で約1,000万カ所、遺伝子領域では100万カ所あると考えられている。遺伝子領域にあるSNPは、作られるタンパク質の時期や量、機能に違いを生み出すことがある。
  • 3.冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)
    心筋に酸素や栄養を供給する冠(状)動脈に生じた動脈瘤のこと。
  • 4.ゲノムワイド関連解析
    遺伝子多型を用いて疾患感受型遺伝子(罹りやすさに関係する遺伝子)を見つける方法の1つ。ある疾患の患者とその疾患にかかっていない者の集団間で、多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。検定の結果得られた P値(偶然にそのような事が起こる確率)が低いほど、関連が確かだと判定できる。集団内で頻度の高い、ゲノム全体で30万~1,000万ヶ所の遺伝子多型を一人一人について一度に調べる。数百人以上(通常は数千人以上)の規模で行なう。
  • 5.ゲノムワイド連鎖解析
    同じ染色体上にある遺伝子多型マーカーと疾患の原因遺伝子とは、互いに「連鎖」と呼ばれる関係にある。染色体上での距離が近いほど、世代間で両者の間に生じる組換えの確率は低くなり、家系内で同じ疾患を持つ患者が同じ対立遺伝子(アレルもしくは型)を持つ確率が高くなる。ヒトの全染色体ゲノムを対象に多数のマーカーを設定し、家系内でマーカーの対立遺伝子と疾患がどう伝わっているかを調べることで、原因遺伝子の存在する染色体を決定、疾患原因遺伝子の位置を絞り込む。
  • 6.リスク型
    SNPの型の頻度を疾患の患者とその疾患にかかっていない者を集団間で比べた時、患者集団で多いSNPの型をリスク型と呼ぶ。
  • 7.アミノ末端
    タンパク質は、アミノ酸同士がカルボキシル基(-COOH)とアミノ基(-NH2)の間のペプチド結合とにより直鎖状に連なった一次構造をしている。両端には他のアミノ酸との結合に使われないカルボキシル基(カルボキシ末端;C末端)、またはアミノ基(アミノ末端;N末端)が存在する。メッセンジャーRNA(mRNA)からタンパク質が合成される反応は、アミノ末端側からカルボキシ末端側に向けて進行する。
  • 8.ガンマグロブリン大量静注療法
    血漿由来の完全分子型ガンマグロブリン製剤を大量に静脈内に点滴投与する治療法。2g/kg/日を1回で、もしくは1g/kg/日を1回あるいは2日間で2回投与する方法が、高い効果を得られるとされている。
  • 9.転写因子
    遺伝子の転写を制御するタンパク質で、これまでに1,000種以上同定されている。
  • 10.サイトカイン
    細胞同士の情報伝達に関わる、さまざまな生理活性を持つ可溶性タンパク質の総称。
ORAI1遺伝子のSNP(rs3741596)と川崎病との関連表の画像

図1 ORAI1遺伝子のSNP(rs3741596)と川崎病との関連

患者・対照1:川崎病患者729人、非患者1,315人(関連するSNPのスクリーニング)

患者・対照2:川崎病患者1,813人、非患者1,097人(関連の再現性を別の集団で確認)

オッズ比:関連の強さの指標。この場合遺伝子多型の異なる型が発症リスクに及ぼす影響(寄与)の大きさの違いを表す。A型と比較し、G型の川崎病発症リスクへの寄与が約1.2倍大きい。

P値:関連の確からしさの指標(観察された関象が偶然に起こる確率で、低いほど川崎病との関連が確かだと判定する)。アレル頻度(※)の違いをχ2検定で評価。

メタ解析:患者・対照1と患者・対照2のデータを統合したもの。

※アレル頻度:個々のヒトゲノムを比較するとその塩基配列に違いがある。例えば、ある染色体上の位置において、個人によりAA/AG/GGのどれかの塩基配列を持つ。集団の中でのA(アデニン)やG(グアニン)の頻度をアレル頻度という。

HapMap26集団におけるrs3741596のA型、G型の頻度の比較図

図2 HapMap26集団におけるrs3741596のA型、G型の頻度の比較

JPT:日本人 (東京 0.207)、ACB:アフリカ系カリブ人 (バルバドス 0.125)、CHS:漢族 (中国・シンガポール 0.105)、CXD:タイ族 (中国・西双版納 0.091)、LWK:ルイヤ族 (ケニア・ウェブイエ 0.086)、YRI:ヨルバ族 (ナイジェリア・イバダン 0.079)、CHB: 漢族 (中国・北京 0.078)、KHV:キン族 (ベトナム・ホーチミン 0.076)、ESN: エサン族 (ナイジェリア 0.076)、MSL: メンデ族 (シエラレオネ 0.071)、:ASW アフリカ系アメリカ人 (アメリカ西南部0.057)、 GWD:ガンビア人 (ガンビア西部 0.053)、 ITU :インド系テルグ語話者 (イギリス 0.015)、FIN:フィン人 (フィンランド 0.015)、GBR:白人 (イングランド、スコットランド 0.011)、PUR:プエルトリコ人 (プエルトリコ 0.01)、STU:スリランカ系タミル語話者 (イギリス 0.01)、IBS:白人 (スペイン0.009)、PEL:(ペルー・リマ 0.006)、BEB:ベンガル人 (バングラデシュ 0.006) 、TSI:白人 (イタリア・トスカーナ 0.005)、 CEU:白人 (アメリカ・ユタ州 0.005)、 PJL:パンジャブ人(パキスタン・ラホール 0.006)、 MXL:メキシコ系アメリカ人 (アメリカ・ロサンゼルス 0.0)、CLM:コロンビア人 (コロンビア・メデジン 0.0)、GIH:インド系グジャラート語話者 (アメリカ・ヒューストン0.0)

( )内は、居住地とG型の頻度を表す。川崎病に関連するG型の頻度は、世界の26集団の中で、日本人が約20%と最も高い。

EnsemblのWebサイト(英語)より引用。

ORAI1遺伝子のレアバリアント(rs141919534)と川崎病との関連表の図

図3 ORAI1遺伝子のレアバリアント(rs141919534)と川崎病との関連

川崎病患者2,528人、非患者2,410人

P値:関連の確からしさの指標(偶然に起こる確率で、低いほど川崎病との関連が確かだと判定する)。アレル頻度の違いをFisher正確確率検定(※)で評価。

オッズ比:関連の強さの指標。この場合、遺伝子多型の異なる型が発症リスクに及ぼす影響(寄与)の大きさの違いを表す。野生型と比較し、6塩基(CCGCCA)挿入型の川崎病発症のリスクへの寄与が約3.8倍大きい。

(※)Fisher正確確率検定:データを2つのカテゴリーに関して分類した際に、カテゴリーの間に関連があるか、あるいは互いに独立か、を検定する方法の一つ。全データ数が少ない場合や、分割表において期待値が小さいマスがある場合にχ2検定よりも正確なP値が得られる。

「Ca2+/NFAT経路」と川崎病罹患感受性遺伝子の図

図4 「Ca2+/NFAT経路」と川崎病罹患感受性遺伝子

細胞が細胞外から特定のシグナルを受けると、小胞体内のCa2+濃度が低下し、それが引き金となりカルシウムチャネル(ORAI1タンパク質)を通って、大量のCa2+が細胞外から細胞内に流入する。すると、細胞質中のCa2+濃度の上昇により活性化した転写因子NFATが、細胞質から核内へと移動し、サイトカイン遺伝子などの転写を促す。この「Ca2+/NFAT経路」にはORAI1タンパク質だけでなく、川崎病と関連するタンパク質「ITPKC」、「CASP3」も制御因子として作用しており、川崎病の発症や重症化への深い関与が予想されている。

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