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2016年2月16日

理化学研究所
兵庫医科大学

脳の進化的起源を解明

-脊椎動物の脳の領域化は5億年以上前に成立-

脊椎動物における脳の進化のシナリオの図

図 脊椎動物における脳の進化のシナリオ

ヒトに至る過程で、脳はどう進化したのでしょうか?脊椎動物の脳は、非常に複雑な器官ですが、その進化の過程には未解明な点が多く残されています。脳は柔らかいため、骨や歯などの化石と違って残りにくく、絶滅した初期の動物の化石から分かることは限られています。一方、現在も生息している脊椎動物は、顎(あご)を持たない「円口類」と、私たちヒトも含めた顎を持つ「顎口類」とに大別され、これらは今から5億年以上前に分岐しました。したがって、円口類と顎口類の発生過程を比較すれば、5億年以上前に起きた脳の進化のシナリオを解明できると考えられます。

これまでの研究では、円口類の一種ヤツメウナギには「大脳の一部分の発生の基となる部位(内側基底核隆起)」がなく、「小脳」は未発達であることが分かっていました。そのため、この2つの領域は顎口類になってから新しく発達したと考えられました。あるいは、これらの領域がヤツメウナギでのちに退化した可能性もあります。その問題を解決するには、円口類のもう1つの系統、ヌタウナギの脳と比較すれば良いのですが、ヌタウナギの発生過程は謎に包まれていました。ヌタウナギが深海に生息し、胚を得るために必要な受精卵の入手が極めて難しかったためです。しかし、共同研究グループは2007年に、世界で初めてヌタウナギの人工養殖に成功しました。

今回、共同研究グループは、希少なヌタウナギ胚の脳の各領域を特徴付ける遺伝子の発現と、脳内の神経線維の走行の解析を行いました。その結果、ヤツメウナギでは見つかっていなかった「内側基底核隆起」、「小脳が発生する場となる部位(菱脳唇)」などを発見しました。これらの結果を踏まえ、ヤツメウナギ胚を再解析したところ、それまで存在しない、未発達とされていた2領域が、実際には存在していることを突き止めました。これは、先行研究の内容を覆すものです。

以上の結果から、これまで段階的に進化してきたと考えられてきた、脊椎動物の脳の各領域の多くが、5億年以上前という脊椎動物の進化過程の極めて早い段階に、すでに成立していたことが明らかになりました。今後の課題として「大脳新皮質の起源はどのような進化的変遷を経て、ヒトの「知性」がどのように生まれたのか」などの非常に興味深いテーマが挙げられます。

理化学研究所
主任研究員研究室 倉谷形態進化研究室
主任研究員 倉谷 滋 (くらたに しげる)