広報活動

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2016年2月17日

理化学研究所

コヒーレントX線の高効率利用法を提案・実証

-X線タイコグラフィによる高分解能・高効率観察を目指して-

要旨

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター構造可視化研究チームのニコラス・バーデット特別研究員、下村啓研修生(大阪大学大学院工学研究科大学院生)、高橋幸生チームリーダー(同准教授)らの研究チームは、X線の可干渉性(コヒーレンス)[1]を利用したイメージング技術であるX線タイコグラフィ[2]で、コヒーレントX線を高効率に利用する方法を提案・実証しました。

X線タイコグラフィは高い空間分解能と感度が実現可能なX線顕微法であり、放射光施設を中心に利用法の研究が進められています。しかし、測定には高強度のコヒーレントX線が必要です。世界トップクラスのX線強度を持つSPring-8[3]であっても、X線タイコグラフィにはコヒーレントX線の強度が小さく、高い空間分解能を有する試料像を再構成するには、X線回折強度パターンの取得に長い時間を要するという課題がありました。

そこで研究チームは、完全ではなく部分的にコヒーレントなX線(部分コヒーレントX線)を使っても試料像の再構成が可能な「混合状態再構成アルゴリズム」を駆使することで、X線タイコグラフィでコヒーレントX線を最大限に利用する方法を提案しました。SPring-8でテスト試料を用いた検証実験の結果、従来法と比べて6倍程度高い効率でコヒーレントX線を利用できることを実証しました。

今回実証した方法を用いることで、X線タイコグラフィによる試料観察の効率が向上します。特に、生物試料の観察や三次元イメージングに効果的です。本手法の普及・促進による、数多くの成果の創出が期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Applied Physics Letters』(2月15日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(2月16日付け:日本時間2月17日)に掲載されます。

※研究チーム

放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門
可視化物質科学研究グループ 構造可視化研究チーム
特別研究員 ニコラス・バーデット (Nicolas Burdet)
研修生 下村 啓 (しもむら けい)
研修生 広瀬 真 (ひろせ まこと)
研修生 鈴木 明大 (すずき あきひろ)
チームリーダー 高橋 幸生 (たかはし ゆきお)

背景

X線の可干渉性(コヒーレンス)を利用したイメージング技術であるX線タイコグラフィは、原理的に非常に高い空間分解能と感度が実現可能なX線顕微法であり、放射光施設を中心に利用法の研究が進められています。従来のレンズとしての機能を持つ光学素子を用いて試料像を結像する一般的なX線顕微鏡法とは異なり、測定によって得られた回折強度パターンに位相回復計算を実行して試料像を再構成するイメージング技術です。これまでレンズ性能によって制限されてきたX線顕微法の空間分解能を飛躍的に向上させる技術であり、原理的にはX線の波長程度の空間分解能が達成可能です。しかし、世界トップクラスのX線強度を持つSPring-8のような第三世代放射光施設あっても、X線タイコグラフィにはコヒーレントX線の強度が小さく、高い空間分解能を有する試料像の再構成には、回折強度パターンの取得に長い時間を要するという課題がありました。

研究手法と成果

研究チームは、完全ではなく部分的にコヒーレントなX線(部分コヒーレントX線)を使って得られた試料の回折強度パターンからも試料像の再構成が可能な「混合状態再構成アルゴリズム」を駆使することで、コヒーレントX線を最大限利用する方法を提案・実証しました。混合状態再構成アルゴリズムとは、X線の強度分布を考える際に、「部分コヒーレントX線の強度分布を互いに干渉しない複数モード[4]のコヒーレントX線の強度分布の和」とすることで、X線回折強度パターンから試料像を再構成するアルゴリズムです。このアルゴリズムを用いることで、測定時に入射するX線に部分コヒーレントX線を用いても、X線タイコグラフィで試料像を得ることができます。しかし、入射X線のコヒーレンスが悪くなるにつれてモード数が増えることで試料像の再構成に必要な回折強度パターンの数も増えるため、測定条件の最適化が必要です。そこで研究チームは、部分コヒーレントX線を集光することでモード数の増加を抑制しつつ、第1モード[4]のコヒーレントX線を効率良く利用するために最適な測定条件を計算機シミュレーションにより決定しました。そして、この条件に基づき、SPring-8の理研専用ビームラインBL29XULにおいて実証実験を行いました(図1)。

厚さ12nmのタンタル製テストパターンを試料として、入射X線に(ほぼ完全な)コヒーレントX線と部分コヒーレントX線を用い、X線回折強度パターンを測定しました。その際、X線の照射時間は、両者において同じになるようにしました。そして、実験で得られたX線回折強度パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成しました。位相回復計算には、混合状態を考慮しない従来の再構成アルゴリズムと混合状態再構成アルゴリズムを用いました。従来法では、コヒーレントX線を照射した場合のみ、試料像が再構成されました。一方、混合状態再構成アルゴリズムを用いた場合、いずれのX線照射においても試料像が再構成されましたが、部分コヒーレントX線を照射することで、分解能の向上が確認されました(図2)。これは、部分コヒーレントX線に含まれる第1モードのコヒーレントX線の強度がコヒーレントX線に含まれる第1モードのコヒーレントX線の強度よりも大きいことを意味します。再構成された入射X線の波動場(図3)から、試料に照射された第1モードのコヒーレントX線の光子数を比較したところ、コヒーレントX線に比べて、部分コヒーレントX線は6倍程度大きいことが判明しました。すなわち、6倍程度高い効率でコヒーレントX線を使用できたと言えます。

今後の期待

今回実証した方法を用いることで、X線タイコグラフィによる試料観察の測定効率が向上します。特に、軽元素で構成される生物試料の観察や様々な入射X線角度での測定が必要な三次元イメージングは測定に長時間を要するため、大きな効果が得られます。今後、本手法を標準化することで放射光施設におけるX線タイコグラフィの普及を促進し、数多くの成果の創出が期待できます。

原論文情報

  • Nicolas Burdet, Kei Shimomura, Makoto Hirose, Akihiro Suzuki, and Yukio Takahashi, "Efficient use of coherent X-rays in ptychography: Towards high-resolution and high-throughput observation of weak-phase objects", Applied Physics Letters, doi: 10.1063/1.4942105

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門 可視化物質科学研究グループ 構造可視化研究チーム
特別研究員 ニコラス・バーデット (Nicolas Burdet)
研修生 下村 啓 (しもむら けい)
チームリーダー 髙橋 幸生 (たかはし ゆきお)

ニコラス・バーデット
下村啓
高橋幸生

左から、ニコラス・バーデット特別研究員、下村啓研修生、高橋幸生チームリーダー

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 可干渉性(コヒーレンス)
    波と波が重なり合う時、打ち消し合ったり、強め合ったりする性質。
  2. X線タイコグラフィ
    コヒーレントX線回折イメージング手法の一つ。X線照射領域が重なるように試料を二次元的に走査し、各点からのコヒーレント回折パターンを測定する。そして、回折パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する手法。
  3. 大型放射光施設SPring-8
    理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す共用施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射光)とは、荷電粒子が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種。SPring-8では、周回する電子群のサイズが小さいことや高い安定性のため、干渉性の優れたX線が得られる。
  4. モード、第1モード
    波動場としての形態。第1モードは、全てのモードの中で割合の最も多い形態。

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部分コヒーレントX線を使ったX線タイコグラフィ測定の実験配置図

図1 部分コヒーレントX線を使ったX線タイコグラフィ測定の実験配置

全反射集光鏡によって6.5keVの放射光X線を~500nmのスポットに集光する。集光点に試料を配置し、試料のX線回折強度パターンを直接撮像型二次元X線検出器(CCD検出器)で測定する。試料上流から約49mの位置にある4象限スリットの開口サイズを変えることで入射X線の空間コヒーレンスを調整する。(ほぼ完全な)コヒーレントX線を形成する際にはスリットサイズを10μm(横)×50μm(縦)とし、部分コヒーレントX線を形成する際には、スリットサイズを50μm(横)×50μm(縦)とした。

試料の再構成像

図2 試料の再構成像

X線回折強度パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する。混合状態を考慮しない従来の再構成アルゴリズムを用いた場合、コヒーレントX線を照射した場合にのみ、試料像が再構成される。混合状態再構成アルゴリズムを適用した場合、いずれのX線照射でも試料像は再構成されるが、X線照射時間を統一した場合、部分コヒーレントX線を照射した方が試料像の空間分解能が良い。

入射X線波動場の再構成像

図3 入射X線波動場の再構成像

部分コヒーレントX線を照射した際の回折強度パターンに混合状態再構成アルゴリズムを実行してすることで、各モードの入射X線波動場が再構成される。

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