広報活動

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2016年3月19日

理化学研究所

ディラック電子系に潜む普遍性を実証

-世界最大規模のシミュレーションで金属-絶縁体転移の臨界指数を決定-

ハニカム格子およびπフラックスを持つ正方格子の格子構造図

図 ハニカム格子およびπフラックスを持つ正方格子の格子構造

ディラック粒子とは、もともと真空中を光速に近い速度で運動する電子やニュートリノといった、私たちの日常生活のエネルギースケールとはかけ離れた粒子のことです。しかし最近、それと同じ運動方程式(ディラック方程式)に従って運動する電子が物質中にも見つかり、注目を集めています。その代表的な例が、グラフェンの中に現れるディラック電子です。

グラフェンは鉛筆の芯の材料などで知られるグラファイト(黒鉛)を単層に剥離したもので、その中の電子の運動速度は光速の約1/300ほどですが、骨格となる炭素ネットワークのハニカム(蜂の巣)構造により、質量がゼロのディラック電子として振る舞います。ディラック電子にも普通の電子と同じ電荷やスピン(電子の自転)の自由度がありますので、物質中で多数のディラック電子が集まって示す電気的・磁気的な性質が、通常の電子とどのように違うかが、物性科学的に興味を持たれています。とくに、ディラック電子の集団が示す物性が「金属であるか、絶縁体であるか」が注目されています。ディラック電子の集団は、電子が自由に動き回る場合は「半金属」ですが、電荷間に働くクーロン力が強くなると、質量がゼロであったディラック電子が質量を持つようになり、「絶縁体」に相が転移します。またそれに伴い、隣り合う電子の間のスピンが逆向きに整列した「反強磁性体」状態になることはよく知られていました。しかし、これまで、電子間相互作用で引き起こされる「金属―絶縁体」の相転移の普遍的な性質については分かっていませんでした。

理研の研究チームは、金属―絶縁体転移が起きる点(臨界点)で物理量が示す特徴的な指数である「臨界指数」を、スーパーコンピュータ「京」を使って明らかにしようと試みました。質量ゼロのディラック電子系を構成する「ハニカム格子」と「πフラックスを持つ正方格子」の2つの異なる模型を使い、量子力学に従う多数の粒子系の物理量を計算する「量子モンテカルロ法」によるシミュレーションを行いました。2つの模型それぞれで、金属―絶縁体転移に伴う反強磁性相の強さを表す秩序変数に対して解析を行った結果、臨界指数は統計誤差の範囲内で一致することが分かりました。次に、金属―絶縁体転移の指標となる準量子重み(相互作用による電子の絶縁体化の度合いを表す量)に対する計算を行いました。その結果、この物理量から得られる別の臨界指数も2つの模型で一致し、「普遍性クラス」が存在することが示されました。さらにまた、普通の電子系では絶縁体化していくにつれて、波としての群速度がゼロとなっていくのに対し、ディラック電子系では有限のままに保たれるという違いがあることも明らかとなりました。

理化学研究所
計算科学研究機構 研究部門 量子系物質科学研究チーム
チームリーダー 柚木 清司 (ゆのき せいじ)
研究員 大塚 雄一 (おおつか ゆういち)
客員主管研究員 サンドロ・ソレラ (Sandro Sorella)