広報活動

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2016年3月23日

理化学研究所

世界最大のヒト遺伝子クローンライブラリーを構築

-タンパク質をコードする遺伝子の約80%を収集完了-

要旨

理化学研究所(理研)産業連携本部予防医療・診断技術開発プログラムの林崎良英プログラムディレクター、河合純副プログラムディレクター、ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門のピエロ・カルニンチ部門長、マティアス・ハーバス客員研究員らが参加する国際共同研究グループ「ORFeome Collaborative」は、タンパク質をコードするヒト遺伝子クローン[1]を収集、提供するとともに、各クローンの機能注釈[2]ウェブサイトで公開することで、タンパク質機能の網羅的な研究を支援してきました。10年以上にわたる取り組みの結果、収集した遺伝子クローンはタンパク質をコードする遺伝子の約80%に達し、世界最大のヒト遺伝子クローンのリソースとなっています。

タンパク質は細胞や組織の機能をつかさどる極めて基本的な分子であり、その構造や機能の理解は、生命現象や疾患の理解に欠かせません。通常、タンパク質の機能解析や構造解析には、ゲノム上でタンパク質をコードする領域(ORF[3])のDNAを入手する必要があります。タンパク質をコードする遺伝子クローンの入手方法として、研究者間での譲渡や公的研究機関への提供依頼、販売企業からの購入などが一般的です。しかし、多数のタンパク質が関わる現象を調べたい場合、全ての遺伝子クローンを個別に入手するのに大きな労力がかかります。そこで、ORFeome Collaborativeは、ヒトORFクローン[3]を網羅的に収集し、研究ツールとして研究コミュニティーに広く提供することを目指し、2005年から活動を開始しました。

ORFeome Collaborativeは、結成からこれまでの約10年間で、合計17,154種類のタンパク質コード遺伝子のクローンを収集しています。これは、世界最大規模のヒト遺伝子クローンライブラリーです。さらに、ORFeome Collaborativeが収集したヒトORFクローン(ORFeomeクローン[4])は、実験に使いやすい、タンパク質を発現するための形態である「発現ベクター[5]」に組換えた上で世界的に提供されています。それらは、タンパク質の機能の研究や、細胞内で重要な役割を果たすタンパク質をノックダウン[6]ノックアウト[7]する実験、疾患のバイオマーカー探索などに広く活用されています。

研究者が容易に利用できる基盤構築は、さまざまな研究分野の発展に重要な役割を果たします。ORFeome Collaborationが構築した遺伝子クローンライブラリーおよびORFeomeクローンは、今後も多くの研究者に活用され、生物学や医学の発展に寄与すると期待できます。

本研究成果は、国際科学雑誌『Nature Methods』(2月25日付け)に掲載されました。

背景

タンパク質は細胞や組織の機能をつかさどる極めて基本的な分子であり、その構造や機能の理解は、生命現象や疾患の理解に欠かせません。通常、タンパク質の機能解析や構造解析は、目的のタンパク質を実験系の中で発現させて行います。このため、ゲノム上でタンパク質をコードする領域であるORFのDNAを入手する必要があります。多数のタンパク質が関わる現象を調べる場合、研究者が全てのタンパク質のDNAを個々に準備しなければならず、大きな労力がかかるという問題がありました。

そこで、ヒトORFクローンを網羅的に収集し、研究ツールとして研究コミュニティーに広く提供することを目的として、「ORFeome Collaborative」が2005年に結成されました。ORFeome Collaborative は理研を含めた国内外の12の研究機関、コンソーシアム、企業などが参加する国際共同研究グループです。

研究手法と成果

ORFeome Collaborativeでは、これまでに合計17,154種類のタンパク質コード遺伝子のクローンを収集し、世界最大規模のヒト遺伝子クローンのリソースとなりました。理研は完全長cDNAクローニング技術[8]の強みを活かし、ヒト組織から完全長cDNAクローンを作製し、ORFeome Collaborativeに提供しています。こうして収集されたクローンは、ゲノム上でタンパク質をコードすると予測されている領域のうちの約80%に相当します。収集したクローンはすべて、塩基配列を再度シーケンシングし、目的の配列と完全に同一であることを確認した高品質なものです。さらに、ORFeome Collaborativeが収集したORFeomeクローンは、実験に使いやすい形態である、タンパク質を発現するための「発現ベクター」に組換えた上で、世界的に提供されています。各クローンには、機能注釈をつけて、ウェブサイトで公開しています。

ORFeomeクローンはその品質と使いやすさから、タンパク質相互作用などタンパク質の機能の研究や、細胞内で重要な役割を果たすタンパク質をノックダウン・ノックアウトする実験、疾患のバイオマーカー探索などに広く活用されています。

今後の期待

理研は、ORFeome collaboration に完全長cDNAクローンを提供しただけでなく、FANTOM[9]データベースを通じて、関連情報を包括的に提供し、ORFeome collaborationのデータを補強しています。ORFeome collaborationのような地道な研究基盤の構築が、世界中の研究を支えています。研究成果を情報として発信するだけでなく、研究者が容易に利用できる基盤構築は、さまざまな研究分野の発展に重要な役割を果たします。

ORFeome Collaborationは、残された約20%のタンパク質コード遺伝子についても収集を継続したいと考えています。今後も、ORFeomeクローンおよびデータベースは多くの研究者に活用され、生物学や医学の発展に寄与するものと期待できます。

原論文情報

  • The ORFeome Collaboration, "The ORFeome Collaboration: A community resource for expression of most human protein-coding genes", Nature Methods, doi: 10.1038/nmeth.3776

発表者

理化学研究所
予防医療・診断技術開発プログラム
プログラムディレクター 林崎 良英 (はやしざき よしひで)
副プロジェクトディレクター 河合 純 (かわい じゅん)

ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門
部門長 ピエロ・カルニンチ (Piero Carninci)
客員研究員 マティアス・ハーバス (Matthias Harbers)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. ヒト遺伝子クローン
    同一の配列を持つヒト遺伝子を保存したもの。細菌や酵母などの細胞に導入して維持するための「運び屋」であるDNA(ベクター)につなぐことで、これらの細胞内で簡単に目的の遺伝子を増やすことができる。
  2. クローンの機能注釈
    論文として報告されている情報や、すでに機能が知られている遺伝子との比較などを用いて、各遺伝子クローンの塩基配列がコードするタンパク質の機能を記述すること。
  3. ORF、ヒトORFクローン
    ORFとはOpen reading frameの略で、ゲノム配列のうち、タンパク質をコードする領域(終始コドンを含まない連続した読み枠)のこと。この領域をクローン化したものが、ヒトORFクローンである。
  4. ORFeomeクローン
    ORF collaborationが収集したヒトORFクローン。
  5. 発現ベクター
    クローン化した遺伝子からの転写・翻訳を行うときに用いるベクター。細胞への遺伝子導入や、無細胞発現システムを用いてタンパク質を発現させるために必要な配列を含んでいる。
  6. ノックダウン
    遺伝子の機能を大きく減衰させるが、完全には欠失させない状態にすること。mRNAの分解促進や、タンパク質の翻訳阻害など、遺伝子破壊以外の操作により行う場合が多い。
  7. ノックアウト
    遺伝子操作により、特定の遺伝子を完全に欠失させること。
  8. 完全長cDNAクローニング技術
    cDNAとは、ゲノムDNAから転写されたRNAの塩基配列に相補的になるように合成されたDNAのこと。mRNAの完全なコピーであるcDNAのクローンを得る手法が完全長cDNAクローニング技術であり、cDNA合成の効率化、不完全長cDNAの除去、クローニング効率の均一化など、様々な要素技術の開発により実現した。
  9. FANTOM
    20カ国、114の研究機関が参加する国際コンソーシアム。FANTOMは、理研のマウスゲノム百科事典プロジェクトで収集された完全長cDNAの機能注釈(アノテーション)を行うことを目的に、林崎良英予防医療・診断技術開発プログラムプログラムディレクターが中心となり2000年に結成された国際コンソーシアム。その役割は、トランスクリプトーム解析の分野を軸に発展・拡大してきた。また、プロジェクトの研究対象は、ゲノムの転写産物という「要素」の理解から、転写制御ネットワークという「システム」つまり「生命体のシステム」の理解へと発展し、知見を基礎・応用の両面で有用なリソースとして公開している。同時に、医療への応用の基礎となること目指している。
    詳細はホームページ

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ORFeome Collaborationの活動概要図

図1 ORFeome Collaborationの活動概要

ゲノム上でタンパク質をコードする領域(ORF)を、ヒトORFクローンとして収集(ゲノム上でタンパク質をコードすると予測されている領域のうちの約80%)。それらを遺伝子発現ベクターに組み込んで提供。各クローンには機能注釈をつけて、ウェブサイトで公開。世界中の研究者がこれを活用して、多様な応用研究を推進している。

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