広報活動

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2016年4月1日

理化学研究所

動物の争いでいつ降参するかを決める神経回路

-手綱核-脚間核神経回路が争いの優劣を決めるメカニズムに関与-

ゼブラフィッシュの闘争行動。(1)威嚇。(2)円を描くように泳ぐ。(3)噛みつき行動。(4)勝敗の決定。

ゼブラフィッシュの闘争行動

動物の多くは、食物、縄張り、生殖パートナーなどを求めて、同じ種同士でも争います。通常、2匹の争いでは、相手が死ぬまで続くのではなく、どちらかが降参すれば終わります。そうすることで、グループ全体の存続を脅かすことなく、グループ内で資源を共有しているのです。

インド原産の淡水性熱帯魚、ゼブラフィッシュのオスの闘争行動を紹介しましょう。オスのゼブラフィッシュを2匹同じ水槽に入れると、はじめは威嚇し合った後、互いを追い回しながら円を描くように泳ぎます。続いて、相手に噛み付くという攻撃を互いに繰り返します。通常、30分以内で勝ち負けが決まります。勝った魚は自由に泳ぎまわりますが、負けた魚は尾を下げ、水槽の底であまり動かなくなります(図参照)。

争いで優劣を決めるときに働く脳内メカニズムは、これまでほとんど分かっていませんでした。理化学研究所の研究チームは、闘争、逃走、すくみ反応など、動物のさまざまな行動に関わるとされる中脳のある領域に情報を与える「手綱核(たづなかく)-脚間核(きゃくかんかく)の神経回路」に注目しました。ゼブラフィッシュの手綱核は間脳にあり、背側と腹側に分かれています。今回、研究チームは背側手綱核が外側、内側の2つの領域に分かれていて、それぞれが中脳にある脚間核の背側寄り、腹側寄りにつながっていることを発見しました。

2つの回路のうち、外側からの回路の働きを人工的に抑制すると、魚は負けやすくなります。一方、内側からの回路を抑制すると、負けにくくなります。さらに詳しい解析により、外側からの回路は争いを続けるように、内側からの回路は争いを終わらせるように働いていることを見出しました。これは、2つの回路が競合し、いわゆる「争うか、逃げるか」という正反対の行動のどちらかを誘導することを示しています。つまり、勝ち負けは、争いにおける身体的ダメージなどの集積によって受動的に決まるのではなく、両者の力関係を脳内で計算し、その情報を基に2つの回路が競合することによって、いつ争いを終わらせるかを決めている可能性があります。

2つの神経回路は、魚類からほ乳類まで進化の途上で保存されていることから、広く動物の闘争行動を制御していると考えられます。ヒトの社会でさまざまな優劣が決定される過程にも、この回路が関与しているのかもしれません。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 発生遺伝子制御研究チーム
チームリーダー 岡本 仁 (おかもと ひとし)