広報活動

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2016年4月12日

理化学研究所

カラム分離なしで複雑な代謝混合物を構造解析

-多次元NMR法の巧みなパルス操作と理論計算での構造確認-

多次元NMR法のパルス系列を駆使したカラム未利用の構造解析図

図 多次元NMR法のパルス系列を駆使したカラム未利用の構造解析

生体内では、絶えず物質の合成や分解が行われています。この変化を“代謝”といいます。細胞の増殖や生命維持に関する代謝を一次代謝、それ以外の代謝を二次代謝と呼んでいます。二次代謝がなくても細胞は増殖できますが、動けない植物や菌類などの生物は、防御のために多様な二次代謝物を有しており、その化学的機能は医学、農学、食品分野などで応用されています。

植物の抽出液は一次、二次代謝物を多様に含んだ混合物で、化合物の構造解析をするためには、カラム分離をする必要があります。理化学研究所の研究チームは、植物の一次・二次代謝物をカラム分離することなく“混合物のまま”、多次元NMR(核磁気共鳴)法を利用して、構造解析をしようと考えました。ターゲットとして用いたのは、東アジアに広く分布しているツツジ科のレンゲツツジです。レンゲツツジは組織中に草食動物や病原体に対する防御物質(毒)を持っていますが、その構造解析は進んでいませんでした。

レンゲツツジを芽生えのときから13CO2安定同位体存在下で生育させ、13Cで標識した低分子混合物の抽出試料を得ました。次に、多次元NMR法のパルス系列を巧みに操作し、複雑な二次代謝物の骨格構造を推定しました。続いて、量子化学計算に基づく理論値とNMRスペクトルの実測値との比較から、推定構造を確認しました。その結果、386炭素核、380水素核のシグナル帰属数を達成しました。さらに、世界中に公開されている代謝物のNMRスペクトルデータベースにリスト化されていないテルペンやフラボノイドを含む8個の二次代謝物を新たに発見しました。

カラム分離を前提としないで成分評価を可能とする本成果は、実験室の無い農林水産物の生産現場への応用が考えられます。最近では安価で小型のNMR装置が開発され始めており、将来的には抽出液や組織片を、その場評価する時代の到来も期待できます。

理化学研究所
環境資源科学研究センター 環境代謝分析研究チーム
チームリーダー 菊地 淳 (きくち じゅん)
大学院生リサーチ・アソシエイト 小松 功典 (こまつ たかのり)