広報活動

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2016年4月26日

理化学研究所

シナプス強度の調節機構を発見

-複数のシナプスはアストロサイトにより相互作用する-

マウスやラットの海馬の培養細胞系による実験の図

マウスやラットの海馬の培養細胞系による実験

脳は情報処理の中心的な役割を果たす神経細胞の集合体です。ヒトの脳には1000億個以上、マウスやラットでもおよそ1億個の神経細胞が存在し、それぞれはつながり合って、複雑な神経ネットワークを形成しています。神経細胞同士がつながっている部分は“シナプス”と呼ばれます。シナプス前部の神経細胞から放出されるグルタミン酸などの“神経伝達物質”を、次の神経細胞のシナプス後部に存在する受容体が受け取ることによって、情報が伝達されます。

シナプスの使われる頻度によって、「シナプス強度(情報の伝わりやすさ)」が変化し、学習や記憶が行われると考えられています。1つの神経細胞には平均数万個のシナプスが存在しますが、これまで、個々のシナプスはそれぞれの情報の入力に応じて、“独立に”シナプス強度の変化を示すと考えられてきました。ところが、近年、情報の入力があったシナプス(ホモシナプス)の近くにある情報の入力のないシナプス(ヘテロシナプス)でも、シナプス強度に変化が起きる現象が報告されています。これは、同一神経細胞内の異なるシナプス間で“相互作用”が生じている可能性を示すものですが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。

今回、理研の研究チームは、マウスやラットの海馬由来の神経細胞を培養して、神経ネットワークを形成させた後、ホモシナプスとヘテロシナプスのシナプス強度の変化を電気生理学的手法によって調べました(図参照)。その結果、ホモシナプスへの情報の入力によって起こるシナプス強度の変化に伴い、ヘテロシナプスでもシナプス強度の変化が起こることが分かりました。さらに詳しい解析により、異なるシナプス間の相互作用は、神経細胞を取り囲むグリア細胞の1つの「アストロサイト」に存在するNMDA型グルタミン酸受容体の働きに依存すること、またホモシナプスとヘテロシナプス間のシナプス強度の差は、神経細胞表面のL型電位依存性カルシウムチャネルの働きを介して形成されることを突き止めました。

複数のシナプス強度のバランスの崩れが、精神疾患の発症につながる可能性があるといわれています。今後、複数のシナプス間のシナプス強度のバランスを調節するメカニズムの理解が進めば、精神疾患発症のメカニズムの解明につながると期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター シナプス可塑性・回路制御研究チーム
チームリーダー 合田 裕紀子 (ごうだ ゆきこ)