広報活動

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2016年4月29日

理化学研究所

神経突起を光で誘導

-光による各種細胞機能の制御の実現へ-

光活性型ペプチドを注入した神経突起の光による旋回誘導の図

図 光活性型ペプチドを注入した神経突起の光による旋回誘導

どんな生命現象にも、必ずそのきっかけとなる物質が存在します。「カルシウムイオン(Ca2+)」もそのような物質の1つです。細胞質のCa2+は通常は低濃度に保たれていますが、細胞に刺激を与えると、細胞外からCa2+が流入したり、細胞内の小胞体からCa2+が放出されたりして、細胞質のCa2+濃度が一過的に上昇します。細胞内では「膜小胞」が特定の部位に運ばれることで、細胞移動、神経突起の誘導、シナプスでの情報伝達が引き起こされます。膜小胞の輸送はCa2+によって制御されます。細胞質へのCa2+供給源は複数あり、異なる供給源からのCa2+シグナルは異なる細胞応答を引き起こします。しかし、Ca2+供給源の違いに応じて細胞機能が変化する仕組みは、明らかになっていませんでした。

理研の研究者を中心とする共同研究チームは、小胞体からのCa2+を特異的に検出するタンパク質分子「ミオシンVa」を同定しました。神経細胞にある神経突起の内部で、ミオシンVaは膜小胞を小胞体表面のCa2+チャンネルにつなぎ止めていますが、小胞体からCa2+が放出されるとミオシンVaはCa2+チャンネルから解離し、膜小胞は神経突起の先端へ運ばれます。そして、先端部へ運ばれた膜小胞は神経突起を旋回させます。共同研究チームは、この仕組みに基づき、ミオシンVa活性化を模倣する「光活性型ペプチド」を開発しました。光活性型ペプチドは、光照射で構造が変化するアミノ酸をペプチド内に挿入したもので、光照射前は非活性ですが、光照射後にのみミオシンVaの解離を促します。実際に、光活性型ペプチドを注入した神経突起の片側に光を照射すると、光照射部位でのみ神経突起先端部への膜小胞輸送が増加し、光照射側へ神経突起が旋回しました(図参照)。

神経突起の伸長を人為的にコントロールすることは、脳脊髄の損傷により断裂した神経回路を修復するときに重要な医療技術です。その他、膜小胞輸送はシナプスの情報伝達、がん細胞の転移などの生理的病的な細胞機能にも関係しているため、今回開発した技術は幅広い医学分野への貢献が期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 神経成長機構研究チーム
チームリーダー 上口 裕之 (かみぐち ひろゆき)