広報活動

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2016年5月24日

理化学研究所

双極性障害(躁うつ病)にデノボ点変異が関与

-双極性障害患者やその家族とのパートナーシップにより明らかに-

双極性障害患者でみられるタンパク質配列を変化させるデノボ点変異の性質の図

図 双極性障害患者でみられるタンパク質配列を変化させるデノボ点変異の性質

横軸は、双極性障害患者で見つかったデノボ点変異を一般人口における変異の起きやすさにより分類した割合を表す。一般人口における変異の頻度が分かっている66個デノボ点変異について解析した。双極性障害患者でタンパク質の機能を失わせる変異がみられる遺伝子には、一般人口ではこうした変異がほとんど起きない遺伝子(黒で示した)が、偶然に起きる頻度(4%)に比べて統計学的に有意に多いことが分かる。

うつ状態と躁状態を伴う「双極性障害」は、人口の1%弱の人々がかかる疾患で、「統合失調症」と並ぶ二大精神疾患の1つとされています。双極性障害は、うつ状態と社会生活に支障をきたす躁状態を伴う「双極Ⅰ型障害」と、うつ状態と社会生活にはあまり支障をきたさない程度の軽躁状態を伴う「双極Ⅱ型障害」の2種類に分類されます。治療には気分安定薬などが有効ですが、副作用のために服用を中断した結果、再発してしまう患者が多いことや、初めて発症したときのうつ状態では診断が難しいため、適切な治療を受けられるまで何年も要する場合があります。そのため、新たな治療法・診断法の開発が求められています。

通常、子のゲノムは、精子に含まれる父親のゲノムの半分と卵子に含まれる母親のゲノムの半分を受け継ぎます。ところが、精子、卵子が作られる際にエラーが生じて、子のゲノムに両親が持たない変異が生じる場合があります。これを「デノボ変異」と呼んでおり、ヒトは平均して、ゲノムのうちタンパク質をコードしている部分である全エクソンに1個弱のデノボ変異を持っています。また、デノボ変異は父親が高齢になるほど増えることや、「自閉症スペクトラム症」や統合失調症では“タンパク質配列を変化させるデノボ変異”のなかでもタンパク質の機能を失わせる“機能喪失変異”が多いことが明らかになっています。

理研の研究者を中心とする共同研究グループは、双極性障害患者とその両親のトリオ79組において、全エクソン(ゲノムのうちタンパク質をコードしている部分)の塩基配列を解読し、その特徴について調べました。その結果、一般人口ではタンパク質配列を変化させるデノボ変異がほとんど起きない遺伝子に、双極性障害患者では、タンパク質配列を変化させるデノボ変異、タンパク質機能を喪失させるデノボ変異が多いことが分かりました(図参照)。他に行った大規模データ解析の結果も含めると、自閉スペクトラム症や統合失調症と同様に、双極性障害、特に症状が比較的重い群(双極Ⅰ型障害と「統合失調感情障害」)では、タンパク質配列を変化させるデノボ変異が発症に寄与していることが示されました。

今後、どの遺伝子の変異が双極性障害の原因となるのかを特定することで、双極性障害の原因解明、治療法、診断法の開発につながると期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム
チームリーダー 加藤 忠史 (かとう ただふみ)
大学院生リサーチ・アソシエイト 片岡 宗子 (かたおか むねこ)(研究当時)
(現 医療法人鳳生会成田病院 医師)
大学院生リサーチ・アソシエイト 的場 奈々 (まとば なな)(研究当時)
(現 理研統合生命医科学研究センター 統計解析研究チーム リサーチアソシエイト)
研究員 高田 篤 (たかた あつし)(研究当時)
(現 横浜市立大学医学部遺伝学教室 講師)