広報活動

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2016年5月27日

理化学研究所
東京大学
東北大学

遷移金属酸化物で量子ホール効果を実現

-強い電子同士の反発力を用いた量子デバイスへ道-

デルタドープSrTiO3構造でみられた整数量子ホール効果

デルタドープSrTiO3構造でみられた整数量子ホール効果

二次元平面に閉じ込めた電子に垂直の強い磁場を与えると、電子は運動方向に垂直なローレンツ力を受けてサイクロトロン運動と呼ばれる円運動をします。これをホール効果といいます。また、ホール効果よって生じる抵抗をホール抵抗といいます。ホール抵抗がとびとびの値(量子化)となる現象が「量子ホール効果」です。

量子ホール効果を実現するには、“移動度が十分に高い希薄な”二次元電子ガスを形成することが必要です。これまでは、電子同士の反発力(電子相関)が弱いs軌道、p軌道の電子を電気伝導に携わる電子(伝導電子)に持つ、高純度のシリコン、GaAs系化合物半導体、グラフェンなどの、限られた物質でしか観察例がありませんでした。

一方、遷移金属は周期表の第3族~第11族に存在する元素で、d軌道に電子(d電子)を持っています。その酸化物は、伝導電子のd電子が強い電子相関を持ち、超伝導や強磁性など多彩な物性を示します。このd電子で量子ホール効果が実現すれば、新しい二次元電子量子物性の開拓につながると考えられます。電子を添加した「チタン酸ストロンチウムSrTiO3」の二次元電子は、d電子でありながら例外的に移動度が高いために、これまで量子ホール効果の実現を狙った試みがいくつもなされてきました。しかし、量子ホール効果が発現する条件の電子の“高移動度かつ低密度”を同時に満たすことができませんでした。

今回、理研の研究者を中心とする共同研究グループは、純度の高い原料を用い、結晶性の高い遷移金属酸化物薄膜を作製する「ガスソース分子線エピキタシー装置」を開発しました。この装置を用いて高品質な量子井戸構造である「デルタドープSrTiO3構造(図参照)」を作製しました。量子井戸構造とは、井戸型に形成されたポテンシャルに閉じ込められ、電子の移動が束縛された状態を指します。デルタドープSrTiO3構造において、電子濃度を制御し、極低温・磁場下で電気特性を測定したところ、整数量子ホール効果の観測に成功しました(図参照)。

これは、二次元電子と強磁性や超伝導が融合した新しい物性の開拓につながる成果です。エネルギーをほとんど必要としない論理回路やメモリ応用へと発展する可能性があります。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関界面研究グループ
上級研究員 高橋 圭 (たかはし けい)
(科学技術振興機構さきがけ研究者)
研究員 デニス・マリエンコ (Denis Maryenko)
グループディレクター 川﨑 雅司 (かわさき まさし)
(東京大学大学院工学系研究科教授)

創発物性科学研究センター 統合物性科学研究プログラム 創発計算物理研究ユニット
ユニットリーダー サイード・バハラミー (Saeed Bahramy)
(東京大学大学院工学系研究科特任講師)