広報活動

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2016年5月31日

理化学研究所

魚の求愛行動を促進するフェロモン受容体の発見

-プロスタグランジンF2αのセクシーな香り-

図 性フェロモンPGF2αによって活性化されるゼブラフィッシュ嗅覚神経回路

地球上ではさまざまな動物たちが、子孫を残し繁栄するために、あの手この手で今日も求愛行動をしています。人間のような言語表現というコミュニケ―ションツールを持たない動物たちの求愛行動において、強い味方となるのは嗅覚です。

嗅覚系は外界に存在する匂い分子やフェロモン分子を受容し、その情報を鼻から脳へ伝えて、個体の生存や種の保存のために必要な行動の発現や生理的変化をもたらす神経システムです。とりわけ、食べ物の匂いへの誘引行動、危険な匂いからの逃避行動、フェロモンを介した求愛行動は、無脊椎動物からほ乳類に至るまで多くの生物に共通する3つの根源的な嗅覚行動です。

水棲動物の嗅覚系は、水に溶けた匂い分子やフェロモン分子を捉えます。また、キンギョなどの魚類において、脂質の1種である「プロスタグランジンF2α(PGF2α)」がメスの体内で排卵・産卵を促進するホルモンとして働くだけでなく、メスから水中に放出されてオスの求愛行動を誘起する性フェロモンとしても機能することが1980年代に報告されています。しかし、PGF2αによる求愛行動誘起の神経メカニズムについては解明されていませんでした。

理研の研究者を中心とする共同研究グループは、小型の熱帯魚ゼブラフィッシュを用いて、オスの求愛行動を調節する神経メカニズムを調べました。その結果、鼻腔の奥にある嗅上皮の嗅細胞にPGF2αを特異的に認識する嗅覚受容体「OR114-1」を発見しました。そこで、OR114-1を欠損したオスのゼブラフィッシュを作製したところ、メスへの求愛行動が著しく弱まることが分かりました。この結果から、性フェロモンPGF2αとその受容体OR114-1が魚の求愛行動の促進に重要な役割を果たすことが明らかになりました。さらに共同研究グループは、PGF2αによって活性化される嗅覚神経回路を突き止めました。PGF2αはOR114-1に受容された後、嗅球の腹内側糸球体、高次嗅覚中枢の終脳腹側部腹側核、視索前核、外側視床下部などへ伝わり、誘引行動、求愛行動が発現されます(図参照)。

このような性フェロモンを介する求愛行動は、昆虫からほ乳類に至るまで、多様な動物種で観察されることがら、進化的に保存された共通の神経メカニズムであると考えられます。今回得られた知見は、今後、効率的な水産養殖法の開発などの水産業の発展につながると期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チーム
チームリーダー 吉原 良浩 (よしはら よしひろ)
客員研究員 矢吹 陽一 (やぶき よういち)